64、新しきソンブレア村
だいたいこの辺だと思うんだよなぁ。以前クロミ達が潜んでいた洞窟はさすがに上からじゃあ見つからないしなぁ。
もう少し高度を上げてみるか。イグドラシル跡は見つけやすいはずだし。
「あ! カース、あれじゃない?」
「えーっと、あ! 本当だ!」
アレクは遠見を使ってまで見つけてくれた。やるねぇ。
さて、イグドラシル跡。ばあちゃんが苦しんでいた毒沼周辺には依然として何もない。まあ当然か。いくら毒を除去したとはいえ、当分の間は何も生えないだろうね。当然ダークエルフ達もこんな所に住もうとは思わないだろう。そこそこ近くにはいそうだけど。では……
『魔力探査』
うーん……だめか。反応がありすぎて分からん……
さすがにダークエルフ並みの魔力はそうそういないはずだが、肝心のダークエルフ達が魔力を抑えてるんだろうな。分からん。まったく、芸達者な奴らだぜ。
仕方ないなぁ。
「アレク、少し耳を押さえておいてね。」
「ええ、いいわよ。」
よし。
『おーい! ダークエルフいるかー! 聴こえたら反応してー!』
拡声で呼んでみた。はたして先に反応があるのはダークエルフか魔物か。
「おっ、見えたね。あそこだね。」
火の魔法が撃ち上げられた。さすがダークエルフが反応早いね。
「久しぶり。みんな元気?」
見知らぬダークエルフの男だ。そもそも顔を覚えてるのなんて二、三人ぐらいだもんな。
「ニンちゃんか。よく来てくれた。ヤバい魔力に大声、何事かと思ったぜ」
私をニンちゃんと呼ぶこの男……誰だろ。
「二、三日前にフェアウェル村に立ち寄ったらダークエルフは帰ったって聞いたからさ。どうしてるかと思ってさ。」
「そうか。気にかけてくれてありがとな。さあ、新たな村へ案内するぜ。こっちだ」
そう言ってダークエルフの男は走り出した。あ、村にいたわけじゃないのね。
おおー、走るってよりは風で背中を押してる感じか。一歩で十メイルは進んでやがる。私達は普通に飛ぶけどね。地表に近くて樹木も多い場所だと走った方が早そうな気もするけど。迷宮で鍛えた私のボード捌きの前には関係ないね。
「さあ着いたぜ。ここが新しい、俺達のソンブレア村だ。おっと、名乗ってなかったな。俺はオスバルトラニサップジャコモルトだ。クロノミーネハドルライツェンとは歳だって近いんだぜ」
クロミと、なるほどね。だから私をニンちゃんと呼ぶのかな?
「別にニンちゃんって呼んでくれて構わないけど一応言っておくね。俺の名はカース・マーティン。こっちはアレクサンドリーネ・ド・アレクサンドル。大地の精霊はコーネリアスことコーちゃんで、フェンリル狼はカムイね。」
「そんなにいっぺんに言われても覚えられないぜ。ニンちゃんと金ちゃん、精霊様と狼殿でいいだろ?」
やっぱこいつクロミの仲間だわ。
「まあ、構わんよ。覚えられないのはこっちも同じだし。なあオスモルト。」
確かこんな感じの名前だったと思うが……
「オスバルトラニサップジャコモルトよ。仕方ないわね。私のことも金ちゃんでいいわ。」
オスバルトか。オスモルトはおしかったな。
「構やしないぜ。ほら、こっちだ。村長も会いたがってるぜ」
「おお、まだ柵もできてないのか。でも建物はいい感じじゃん。がんばってるねぇ。」
広々と切り拓かれた土地。柵はなく、ログハウスが五十あまり点在している。半年でよくここまで作り上げたもんだな。やっぱエルフってすごいわ。
「まあな。少しは希望も見えたからよ。ほら、村長の家はここだ」
フェアウェル村の村長宅は他と比べて大きさも造りも全然違うが、ここの村長宅は他と区別がつかないな。おっとと……
「カース殿! よく来てくれた! さあ入ってくれ!」
開けようとしたら扉が先に開いて村長が出てきてびっくり。
「村長久しぶり。元気そうで何よりだよ。」
「おかげ様でな。本当なら宴といきたいところだが、粗末なものしかなくてな。まずは茶でも飲んでいってくれ。」
「お邪魔するよ。」
「ギーゼルベルトヒルデブラントさんだったかしら。お邪魔するわ。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
おお、さすがアレク。私が村長の名前を忘れていることなんかお見通しだね。だからさらりと教えてくれちゃって。ありがとね。
通されたのは居間って感じかな。応接室なんて作る余裕はないよな。
「カース殿、まあ座ってくれ。オスバルト、茶を淹れてくれ。」
「はいよー」
飾り気のない椅子。でも木のぬくもりと言うか手作りの暖かみは感じるね。
「おーうお待たせ。松葉茶だぜ。旨いんだぜ」
「おっ、ありがと。いい香りじゃん。」
松葉茶か……ここら辺にも松って生えてるのかな。
「さてカース殿。改めて礼を言わせてくれ。前村長インゲボルグナジャヨランダの御霊を救ってくれたこと。我々ダークエルフ族を守ってくれたこと。忘れた日はない。本当にありがとう。」
「ありがとよ!」
こうやって改めて言われると照れるな。でも、悪い気分じゃない。
「ばあちゃんに世話になったのはこちらも同じだからね。気にしなくていいさ。それで思い出したんだけど、フェアウェル村以外にも散らばったよね? もう全員ここに帰ってきたの?」
山岳地帯に点在するエルフの村にダークエルフ達を送り届けたんだよなぁ。私って親切だよね。
「ああ。全員戻ってきている。ただし生き残った者だけだがな。」
「生き残った者だけ? 帰りの道中でやられたってこと? 魔物とかに?」
ダークエルフが? それはおかしいだろ。勝てない魔物はいるとしても、逃げられないとも思えんが……
「いや、マウントイーターに寄生された者達がいたのだ……」
あ……それがあったか……




