63、お寝坊アレクサンドリーネ
マリーパパが酔い潰れたので村長宅に帰ることにした。家の外はもう真っ暗だ。
「楽しかったわね。私も少しあれを飲んだけど……確かに魔力が低い人間が飲んだら危なそうね。ポーションを飲み過ぎた者みたいになるのかしら?」
「そうかもね。飲み過ぎはよくないよね。」
ポーションは飲み過ぎると依存症になることが多い。むしろ依存症で済めば幸運な方だ。気が狂ったり身体に障害が出ることもあるとか。だから普通は一日に二本までとされている。
私の場合は五十本近く飲んだために一ヶ月意識不明の上に魔力を失った。むしろ目を覚ましただけ、生きていただけ幸運な方だろう。
「ピュイピュイ」
「コーちゃんには大好評みたいだよ。相当美味しかったんだって。」
コーちゃんは白いお薬をツマミに強い酒を飲むのが好きだもんね。中でも南の大陸産の高いお薬でスペチアーレを飲んだ時なんかめちゃくちゃご機嫌だったよね。それ普通の人間がやったら廃人一直線だよね。まあ、そんな金があるかどうかは別として。
「うふっ、コーちゃんたら悪い子ね。それよりカース……ね?」
私の左腕に回したアレクの右腕に力が入る。分かっているとも。今夜はお預けだったはずが元気になったもんだから……でもね。
「帰ったら風呂だね。そしたら大人しく寝るとしようか。」
「え、そ、それ、もちろんお風呂では……その、一緒に……よね?」
「うん。一緒に入ろうね。でも今夜はお仕置きってことを忘れてない? 今夜は大人しく寝ようね。」
「そ、そんな……」
そんなこの世の終わりみたいな顔しなくてもいいのに。つくづく欲望にストレートなアレクはかわいいなぁ。でもお仕置きはお仕置きなのだ。
翌朝。アレクはまだ寝ているようだ。朝食は私が作ろうか、それとも近所のエルフに突撃隣の朝ご飯をやるべきか……いや、二度寝しよ。もう特に用事もないし……あ、一つあった。でもいいや。起きてからで。アレクの寝顔を見ながら二度寝へ……
「ガウガウ」
「ピュイピュイ」
ん……何だよ……もう朝か……
いや違う。二度寝してたのを起こされたのか……二人とも腹がへったのね……
あら、アレクがまだ寝てるなんて珍しい。
よし、じゃあ何か肉を焼いてやろうか。私の分はアレクが起きてからでいいし。
変だな? もうすぐ昼だってのにアレクが全然起きてこない。いったいどうしたんだろう?
客室に戻ってみたが、変わった様子はない。ただぐっすりと眠っているだけだ。熱もないし。それならば起きるのを待つだけだ。隣で錬魔循環でもしながら。
「んんっ……カース?」
「おはよ。今日はえらくお寝坊さんだったね。」
「え? あ、もしかしてもうお昼……なの?」
「そうなんだよ。何か食べる?」
「ご、ごめんなさい! カース何か予定があったんじゃ……」
「いやいや大丈夫。ちょっとダークエルフの村に行きたいと思ったぐらいだから。」
「そう……もしかしてまだ何も食べてないの?」
「あはは。アレクもすぐ起きると思ったもんでさ。さっきカムイ達に肉を焼いたのが少し残ってるよ。食べない?」
「うん、いただくわ。」
昼から焼肉も悪くないだろう。食べたいものを食べるのさ。ビールが欲しくなるけど。ないものはないよなぁ。
「ところでアレク、もしかして昨夜は眠れなかったりしたの?」
「そうよ! カースのせいよ! カースが悪いのよ! だから私は朝まで…… ……」
「朝まで、何?」
最後がよく聴こえなかった……
「ち、違っ、何でもないわ! そ、そそ、それより! もうダークエルフの村に向かうの?」
何を慌ててるんだ? 慌てるアレクもかわいいんだよなぁ。
「うん。今から行こう。たぶん夕方までには帰ってこれると思うし。」
思いっきり飛ばせば片道一時間ぐらいだしね。問題は見つかるかどうかなんだけどさ。
道ゆくエルフに伝言を頼んでおいた。アーさんか村長に伝えてくれるようにと。
さあ、行くぜダークエルフ達のもと、旧ソンブレア村へ。まずはひたすら真北へ。イグドラシルという目印がなくなったのは少し困るが、イグドラシルの跡地は上空からでも目立つからな。きっと今も空白地帯のはずだ。




