47、黒檀魔樹
ふぅ。やはり帰りは一瞬だね。いくら腕が痛くても私の板操作に間違いなどない。
「ただいま村長ぁー。治してくださーい!」
「むぅ? カース殿にしては珍しいな。何があった?」
「いやぁ実は…………」
ざっと説明。そもそもエルダーエボニーエントの相手をしたのが間違いなんだよなぁ。魔石が取れないならさっさと帰ればよかったのに。カムイのことをバカにできないじゃないか。
「ほう。黒檀魔樹の幼木か。」
アレクが魔力庫から出した素材を見て村長が言う。何か発音が違うような……エンツォ? しかも幼木だと?
「幼木とはいえ、よくぞ打ち倒したの。さすがはカース殿。見事なものよの。」
「えーと、先に治してもらえます?」
「おお、そうだったな。ほれ。」
おお……あっさりと。しかもあんまり痛くなかった。骨折の治癒ってめっちゃ痛いイメージなんだけどな。さすがハイエルフってとこか。
「ありがとうございます。で、あれって幼木なんですか?」
「うむ。この近辺ではたまに見るの。成木は大森林によく棲息しておるそうだがの。」
大森林? ノワールフォレストの森のことかな。
「成木はこの辺にはいないんですか?」
「儂の知る限りおらんの。せいぜい幼木か老木ぐらいかの。」
「エルダーエボニーエントにも老木ってあるんですか?」
老木でも手強そうな気がするよね。
「人間はそのように呼ぶようだが、我らはあの魔物を黒檀魔樹と呼んでおる。『エント』という言葉にはある種の呪縛があっての。あまり口に出すものではない。カース殿も気をつけた方がよかろうて。で、黒檀魔樹だが成木からさらに大きく成長したものを魔黒檀長老樹と我らは呼んでおる。」
え……呪縛……? 口に出すと災いを呼ぶ的な? 理解はできないが村長の言うことだ。おそらく間違いはないのだろう。エンツォか。少しだけ言いにくいな。
「全ての成木がそうなれるとは限らんようでな。中には成木にもなれず枯れるだけの物とておるようさの。魔黒檀長老樹にまで成長するのは一握りだろうて。」
ん? となると……
「成木はほとんどノワールフォレストの森にいるんですよね? じゃあ幼木はどこから来るんですか?」
「それがあやつらの不思議なところでな。大森林で魔黒檀長老樹 となった黒檀魔樹はの、歳月を経て老木となり寿命が尽きかけると再びここらに戻ってきおるのよ。そしていくつかの種を残し土に還る。そしてまた幼木となり、成木になるためになぜか大森林へと旅立ってゆく。奇妙な魔物もいたものよの。」
老木が種を残す? どうやって? 気になるけど話が終わらなくなりそうだし聞くのはやめておこう。
「じゃあこいつは何をしようとしてたんですかね? やたら場所にこだわりがあったみたいなんですよ。」
「さての。もしやその場で成木になるべく場所を見極めておったのかもの。そうだとすると哀れなものよ。もっとも、さっさと大森林に向かわなかったそ奴が浅はかだっただけのことよの。魔物の考えることなど分かるものではないわえ。」
「日当たりのいい場所が欲しかったのかも知れないですね。開けたワイバーンの塒でしたから。」
「それもそうかもの。で、そ奴が残した棒っきれはどうする? ついでに加工してやろうかえ?」
こいつはラッキー。では遠慮なく。
「木刀にしてもらえます? サイズはこんな感じで。」
そう言って地面に絵を描く。これまたフェルナンド先生からいただいた私の初代木刀『虎徹』のサイズで。体長が二メイルもあったくせに倒した後は一メイル程度の棒になってしまいやがってさ。これじゃあ木刀ぐらいしか作れないんだよね。
そこで分かったことがある。
フェルナンド先生が倒した相手……それはきっと成木だったんだ。なんせ場所はノワールフォレストの森って聞いたし、オディ兄には装備一式プレゼントしてたんだから。とてもこの幼木から取れる素材では足りないもんな。
やっぱ先生すごいぜ……少しは追いついたかと思ったんだけどなぁ……まだまだだな。
先生が倒した相手って何なら成木どころか本物の魔黒檀長老樹 の可能性だってあるもんな。
「よかろう。ご神木の切削に比べれば軽いものよ。さて、そろそろ夕食の時間だの。今夜は村の者が何か作るそうでの。今宵も楽しもうではないか。」
「ではありがたく。」
「ご馳走になりますわ。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
エルフの料理も結構好きなんだよね。まずいのもあるけど。マイティベイジって言ったっけな。見た目は味噌みたいなやつ。エルフはあれが大好きだって言ってたけど……まあ、納豆を食べられない外国人がいるんだし、私があれを嫌いでもおかしくないよね。
で、今夜の料理は何だろうね。あー疲れた腹へった頭痛い。




