41、寄生する魔物
うおっ!? いきなり根本が飛んできた!? 根本というか、これは先ほど倒れた木の切り株の方か。それなりに太い根が足のようにもがくように動いてやがる。やっぱこれもう完全にキノコじゃないじゃん。
「カース! どいて!」
おっと、アレクも飛んできたよ。間髪入れず火球を撃ち込んでる。ほお……根は次々に燃え尽きていくな。だが……
空中に静止している切り株に次々と火球を撃ち込むアレク。今気付いたよ。これアレクが浮身を使ってるだけじゃん。そりゃそうか。地面から離しておかないとどんどんキノコが増えそうだもんな。
『業炎』
根を失い、ただ浮くことしかできない切り株に上級魔法が炸裂した。
何なのこれ? 端部がどうにか燃えてるみたいだけどさ。一向に燃え尽きる気配がない。妙だな……
「アレク、ちょっとごめんね。」
『業炎』
私も同じ魔法を撃ち込んでみた。アレクには悪いが威力は桁違いだ。ミスリルですら蒸発するだろう。
なのに……まだ焼け残っている、だと? バカな……だが、分かったぞ。
「アレク、どう思う?」
「魔法そのものが効かないみたいね。この分だと周囲が燃え尽きたら落ちて逃げられるわ。」
「そうみたいだね。あ、ほら。」
切り株が燃え尽きて、姿を現したのは小さなリス。アレクの手の平より小さいな。魔法が効かないタイプなのだろう。浮身を使っているのに落ちていくではないか。
『狙撃』
頭を撃ち抜いた。魔石が欲しいからね。悪いが逃がさんよ。さすがに絶対魔法防御ってわけじゃないよね。
『浮身』
よし。今度は効いたな。
『風斬』
魔石を取り出して……ちっさ。
『風操』
手元に引き寄せる。よし、収納。
で、最後に……
『水滴』
周辺に水をばら撒く。火を消しておかないとね。枯葉が多いせいか結構燃え広がっちゃってるもんね。山火事は危険だもんな。
「結局カースに頼っちゃったわね。」
少しむくれた顔で言う。そんな表情もかわいいな……
「いやーごめんごめん。何か妙だと思ってさ。つい手を出しちゃったんだよね。たまにいる魔力を無効化するタイプの魔物みたいだったね。」
「そうみたいね。それと少し気になることがあるから降りてみてくれる?」
「いいよ。」
何だろ。今落ちていったばかりのリスかな? あのサイズならわざわざ埋めたり燃やす必要はなさそうだが……
あれ? 十秒遅れて着地してみれば、リスの死体がない。その代わりなのかキノコが生えている……
「分かったわ。てっきり刃栗鼠の一種かと思ったけど、すっかり寄生されてたみたいね。パラティシウムダケの亜種かしら? 魔力を無効化するなんて初耳だわ。」
「あー……なるほどね。どこまでもキノコなんだね。」
キノコのくせに、魔力で動いているくせに魔力や魔法を無効化するとは生意気な。しかも宿主が死んだらまたそこで生えるってのか。次の宿主を見つけるまで。
『火球』
気に入らないから燃やしてみた。さすがに生えたてなせいか無効化できなかったようだな。
『浄化』
きれいきれいしておかないとね。
「よし。では散歩を再開しようか。もっと奥の方にさ。」
なんせ村長に魔石を頼まれてるしね。大物の魔石が要るはずなんだもんな。無茶な注文してしまったからには私もそのぐらいはやらないとね。
「ええ、やっぱり山岳地帯は甘くないわね。いい経験になるわ。」
「だよね。ただ散歩してるだけでこれだもんね。面白いね。それよりアレク、魔力は大丈夫?」
「問題ないわ。まだ半分は残ってるもの。ギリギリまでは私に任せてもらうわよ。」
「うん。まだはもうなり、もうはまだなり。なんて言うけどアレクには関係ないよね。よし、行こうか。」
限界の見極めは大事だよな。私もあんまり人のことは言えないけどさ。
森を奥へと進む。この先は山になってるはずなんだよな。草原から見た時はめっちゃ険しそうに見えたしね。たぶんもうしばらく進んだらそこまで着くんだろうな。とことん行こうではないか。
やはり進むにつれてちょくちょくと魔物が現れる。そのほとんどをアレクが相手してくれてる。それなりに苦戦はするけど、どうにか無傷で立ち回っている。
魔石もそこそこ集まってきたしね。だが、まだ大物と言える魔物には出会っていない。村長は大物とは言わなかったが、イグドラシルにあれこれ付与をする以上は間違いなく大物の魔石が必要なんだよなぁ……
自分の装備のことだし妥協はできないよね。魔石のせいでせっかくのイグドラシル装備の品質が落ちたら最悪だもんな。
「カース、あれは無理だわ。頼める?」
「いいよ。代わるね。」
タイミングよく出会ったのは大物。山を登り始める辺りの斜面を縄張りにしているのだろう地擦這岩か。
見た目はただの大岩だが周囲には雑草すら生えてない。魔物だってばればれだな。
さて、どうしてくれようか。




