40、アレクサンドリーネの戦い
おっ、胞子が全部吹き飛んだ。さてはアレクったら中級ぐらいの風の魔法を使ったな? そして……
氷散弾だ。全方位に撃ちまくってる。こっちにも飛んできたし。
むっ、また胞子の嵐が……なるほど。そっちか。上からだと出どころがよく見えるぜ。キモくて見たくないものまで見えてしまったけど……あれマジかよ……
アレクがつい先ほど胞子を吹き飛ばした方向から千、下手すると万単位の小さなキノコが生えてきた。そしてある程度のサイズになると這うように地面を移動し始めた。アレクに向かってうぞうぞと……キモすぎるぞ……
おおっ! さすがにアレクも気付くよな。そしてキモさに耐えられなかったのだろう。『燎原の火』を使ってしまった。あーあ。まだ拾ってないキノコもあったのに。仕方ないね。私でも同じことをしたと思うし。
半径二十メイルぐらいが火の海だ。こんな森の中で使う魔法じゃないよね。
さすがに大木までは燃えてないが、キモいキノコは全滅するだろうな。二度目の胞子の嵐もアレクにまでは届いてないし。さあ、このまま本体を仕留めるんだ。
ん? 何だこの音は? 遠くからだんだん聴こえてきたが……
『魔力探査』
来た方と逆、森の奥側に反応あり。多いな……百ちょいか。さほど速くない。私のジョギング程度で近寄ってくる。
よってアレクが使ったのは……炎壁か。うーん……それじゃあちょっと薄くないか? 簡単に突破されるような……
見えた。魔物の群れ、薄い茶色の毛だ。あれは森狩亜狼か? ノワールフォレストの森によくいるエンジャイロ狼やブレイア狼よりは格下だとか。
いくら格下だからって狼の一種だよな? その割にはえらくノロいぞ。それなら私の心配も不要かな?
アレクの炎壁に続々と突っ込んでいき、焼け爛れていく森狩亜狼ども。しかし熱がるそぶりもなく淡々と突撃している。正気じゃないのか?
炎壁の中で息絶えるか、炎壁を越えたとしても歩けて数歩。だんだんと周囲に黒く焦げた魔物が積み上がっていく。
ん? 何だ? アレクったらわざわざ魔物の死体を氷漬けにしている……なぜ……?
むっ、数が多いせいか炎壁を回り込む奴まで現れた、が……アレクの対処は冷静で堅実だ。落ち着いて一匹ずつ首を斬り飛ばしている。そしてやはり死骸を氷で包んでいる。
ひと段落したか。火は消えて、周囲は氷の塊だらけとなった。次は何だ?
来ないな……周辺に魔力反応は……一ヶ所だけ。小さな反応がある。アレクも気付いたかな? そっちに向けて歩き出している。気をつけてね……私も上から付いていこう。
森の中にそびえ立つ一本の大木。と言っても普段私が切り倒すようなマギトレントぐらいだけど。風もないのに揺れる葉。そして降り注ぐ胞子。なるほど、見た目は木だけどやっぱキノコなのね。アレクも容赦なく火の魔法を使ったし。あれは上級魔法『業炎』だね。狭い範囲を焼き尽くすには最適だ。
……にしては燃えないな……そこらの細い生木でも一分と経たずに灰になる威力だぞ?
ちっ、撒き散らされた胞子が地面に落ちると、またキモいキノコが生えてきやがる……これもう切りがないな……
『アレク、手伝おうか?』
伝言で確認してみるが……アレクはその場で首を横に振り、魔法を使った。再び『燎原の火』を。
業炎と比べると範囲がかなり広い分、火力は劣る。溶鉱炉と野焼きぐらい違うだろうか。それでもウジのように湧き出たキノコには効果抜群だ。香ばしい匂いすらする。食べられるのかどうかは謎だが……
ん? おおっ! アレクの必殺技『氷塊弾』が大木に直撃! これはやっただろ! 幹を貫通し、ぐらりと倒れてくる……アレクに向かって!?
ほっ、風の魔法で素早く回避した。それにしてもキモすぎる……倒れたのは木のはずなのにあたりには濃すぎる胞子が充満してる……やっぱ木なのは見た目だけか。それもう『木の子』じゃないじゃん。
あれ? 変だな? アレクは何やってんだろ。早く胞子を吹き散らせばいいのに……




