39、キノコの森
気を取り直して散歩続行だ。湿地を過ぎ、背の高い薮エリアを抜けたら山へと差しかかった。傾斜はそこまできつくなく、歩きやすそうだ。雑木が多いせいか木と木の間が広いもんな。
足元は枯葉が多く少しばかりくすぐったい。小枝を踏むとちょっと痛いかな。
「ガウガウ」
待ちくたびれた? お前が早すぎるんだよ。散歩しようぜ。のんびりとさ。
「ガウガウ」
美味しそうな魔物がいない? それは仕方ないだろ。
「ピュイピュイ」
でも美味しそうなものがあるの? コーちゃんが頭で指し示してくれてるのは……キノコか。
毒の有り無しはコーちゃんが判定してくれそうだし、目についたやつから集めてみようかな。
「アレク、どうも美味しいキノコがあるみたいなんだよね。集めてみない?」
「面白そうね。もしかしたら木耳もこの辺りで取れるかも知れないわね。あると嬉しいわ。あれは美味しかったもの。」
確かに旨かったよな。アレクの料理のおかげとも思うけど。ウリキュレイル……キクラゲの一種だったかな。キノコは詳しくないんだよな。
「だよね。欲しいよね。だからいつもみたいに競争って言いたいところだけど、離れないように探そうね。」
だって危険なんだもん。
「それがいいわね。ノワールフォレストの森でさえキノコが多い森は危険なんだもの。」
動く猛毒キノコとかえげつない寄生キノコとかいるんだもんなぁ。ここだとどんなヤバいキノコがいるのか分かったもんじゃないもんな。その分美味しいキノコが生えてそうな気もするけど。
おっ、まずは舞茸っぽいやつ発見。コーちゃんどう?
「ピュイピュイ」
大丈夫なのね。よーしゲット。
「あら、それオドリタケね。舞い踊るほど美味しいって聞いたことがあるわ。やっぱり珍しいキノコがあるのね。」
「やっぱ山岳地帯は違うね。でも慎重に集めようね。」
「ええ。」
私達の周囲を自由に歩き回るカムイ、慎重にキノコを探す私とアレク。毒の有無だけでなく旨いかどうかも判定してくれるコーちゃん。楽しいキノコ狩りは続いた。ちなみに私は足が冷たくなってきたので水の魔法でブーツを作っておいた。ぼよんぼよんして歩きにくいけど楽しい。昔キアラがこれやってたんだよなぁ。
「カース! 魔物よ!」
大きな木かと思ったらキノコだった。紛らわしいなぁもう。
『火球』
危険なキノコは燃やすに限る。周囲に延焼しようが知ったことではない。あ、いい匂い。バターで炒めて食べたくなるじゃないか。
「ピュイピュイ」
あ、毒キノコなのね。毒があると香りなんかはよくても食べたらかなり不味いんだよなぁ。だから分かりやすいとも言えるけど。
「アレク、来るよ。」
「ええ。」
魔力探査に反応でまくり。大した魔力なんか込めてないのにさ。ここの魔物は魔力が大好きなのか?
『風斬』
本当は燃やしたいんだけどさ、たくさん集まってきたもんだから食べられるキノコはゲットしたいんだよね。この場で丸焼きにするのも悪くはないけどさ。
『氷斬』
アレクも私と同じような戦法をとっている。せっかくキノコの森にいるんだもんね。
二十分ぐらい経ったかな。キノコの魔物がだいぶ減ってきた。周囲には真っ二つになったキノコやもくもくと煙る胞子だらけ。ちなみにカムイは気持ち悪いと言ってどこかに行ってしまった。コーちゃんは切れたキノコをせっせと選り分けている。
『氷斬』
「ふう。今ので最後かしら。胞子を吸わないように戦うのって意外に大変よね。」
「だよね。アレクなら吸っても大丈夫とは思うけど用心は大事だしね。」
この中にいつだったかクタナツを襲った寄生キノコがいないとも限らないもんな。
「ピュイピュイ」
大物が来るって? ザコが現れなくなったら大物が出てくるのは魔境あるあるだよね。
「アレク、大物が現れるみたいだよ。頑張ってね。」
「ええ、任せて。」
やはりこういう時はアレクに譲らないとね。
さて、どこから現れるのかな?
『風壁』
ぶへっ。いきなり胞子の嵐かよ。キモいなぁ。腐ったウグイス色って感じ? 視界がゼロになっちゃったよ。本体はどこだ? 魔力探査でも分からん……この胞子のせいでジャミングされてんのか? まあいい、ひとまずアレクにお任せだ。
『浮身』
板に乗って、いつものように高みの見物といこう。
「ガウガウ」
なんだ、近くにいたのか。飛び乗ってきやがった。お前の鼻にこの胞子は堪えるもんな。きれいにしておいてやるよ。
『浄化』
さて、アレクはどう戦うのか。見えないんだよなぁ……




