37、畳とハイエルフ
あーもうお腹いっぱいだよ。もっと食べたいけど、さすがにもう入らない。前菜から始まってフルコースだったもんなぁ。最高だった……
締めはおにぎり! ヒイズルでは米球って言ったか。それにしてもアレクが握ったおにぎり……プレミアもんだね。
そしてデザートに蟠桃。かなり贅沢だね。最高すぎる……
「ふうぅ……堪能させてもらったぞ。嬢ちゃんはなかなかの腕利きのようだの。」
「お口に合ったようでよかったですわ。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
コーちゃんは満足だと言い、カムイは足りないと言う。後で肉でも焼いてやるから少し待ってろ。
「で、カース殿よ。これはヒイズルの敷物と言ったの。」
もう少し食後の余韻に浸ってもいいんじゃないの?
「そうです。畳と呼ばれてます。これを一室に敷き詰めると最高ですよ?」
「ほ、ほう……」
おやおや。珍しく村長が欲しそうな顔をしているではないか。さすが畳は偉大だな。しかもこれは看板娘一家が植えた苗を私とアレクが耕した田んぼで育てたイグサ。そして元アル中職人フォルノの腕や新領主ヒチベ達の協力。全てが揃って生み出された最高の畳だからな。
「よかったらこれ育ててみませんか?」
「なに? 可能なのか?」
「僕には難しいですけど村長ならできると思いますよ。育て方も書いてありますし。」
これは本気だ。もう一ヶ月もすればまた旅に出るのだからイグサを何とかしたいと思ってたんだよな。ハイエルフ村長が興味を示してくれたのなら丸投げしたっていいよな。
「ほう……なるほどの。畑の耕し方から植え付けの時期、面積あたりの本数まで事細かに書いてあるわえ。イグサと言うのか。」
ヒイズルのヤチロと山岳地帯のフェアウェル村では気候から土壌から何もかも違うとは思うが、この村長ならどうにかしてしまいそうだよな。
「正確には畳の表面を覆っているのがイグサを編んで作った畳表ですね。中身や縁はまた別です。」
「なるほどの。ならばカース殿よ、今下に敷いておる分も貰ってよいかの? 一つ二つ分解してみれば構造も分かるだろうからの。」
「いいですよ。頑張ってください!」
何ならヤチロの職人フォルノに紹介してあげるってのもいいね。もっとも、わざわざ私が紹介なんかしなくてもフォルノなら喜んで教えてくれそうな気がする。あいつは愛すべき畳バカって感じだもんな。
一応教えるだけ教えておくか……
「もし製法で悩んだらヒイズルのヤチロって街のフォルノって職人を訪ねるといいですよ。もしくはヤチロの領主のヒチベって奴を。僕の名前を出したらたぶん親切にしてくれると思います。」
「うむ。これだけの素晴らしい敷物なのだ。一筋縄ではいくまい。いずれにせよ立派に育ててからの話さの。楽しみが増えるのは良いことじゃて。やはりカース殿が来ると楽しいの。さあ、今宵は飲み明かそうではないか。この夜に乾杯!」
六百歳越えてんだから無理すんなよ……と言いたいところだが寿命は千歳ぐらいって言ってたもんなぁ。まだまだ働き盛りなんだろうね。見た目は六十過ぎのロマンスグレーじいちゃんなのに。
「畳とアレクに乾杯!」
どちらもいい匂いがするところが共通だね。
「イグサが根付くよう、乾杯。」
「ピュンピュイ」
ちなみに今私が飲んでるのは村長の酒。これはこれで旨いんだよなぁ。もう一、二杯ぐらいは付き合ってもいいかな。朝までは付き合いきれないからな。でも、あー美味しいなぁ……
結局朝になっちゃったよ……
カムイはさっさと寝てしまった。アレクは私の膝枕で眠っている。村長とコーちゃんは元気に飲み続けている。酒がなくなっても知らないぞ?
「おはようございます。見張りを全てお任せしてしまって申し訳ないです」
「おはようございます。何事もありませんでしたか?」
「おはようございます」
エルフ達が続々と現れた。あ、昨夜誰もいなかったのは、みんな普通に寝てただけか。三日もぶっ続けで宴会したんだもんな。いくらエルフでもそりゃぶっ倒れるか。
「うむ。何事もなく楽しい夜であった。では儂は寝る。後は任せたぞ?」
「お任せください」
「ゆっくりお休みください」
「お休みなさい」
あー、なるほどね。村長ったら一人で見張りしてたのね。とてもそうは見えなかったけど。あれだけ飲み食いしておきながら村の警備も怠らないとは。やっぱハイエルフってすげぇな……
私も寝よ。アレクを浮かせて村長の後ろをついて歩く。すっかり村長んちの一室が私達の部屋になってしまった。




