34、村長へのおねだり
エンコウ猿達が魔物を撃退している間に、蟠桃を捥がせてもらうとしよう。どーれーにーしーよーおーかーなー。
違いなんか分からないから適当に選んでみた。私が三つ、アレクが三つ。そしてコーちゃんが四つ選んでくれた。ちなみにカムイはエンコウ猿に混じって襲い来る魔物を撃退している。もしかしてカカザンに友情を感じてたり? 手脚が治ってないのに無茶しやがって……さっさと帰りたいんだけどな。
蟠桃エリア外の喧騒を無視して、私達はティータイム。大きな蟠桃の木の下で。呑気に座ってリラックスだ。
「山岳地帯にあって……ここだけ別世界みたいね。一歩外に出たら魔物達があんなにも蔓延っているのに。」
「それもそうだね。ここだけはまさに桃源郷だもんね。」
起伏の激しい山あいにポツンと存在する平らな草原。そんな場所にわずか四本だけ生えている蟠桃の木。蟠桃の木以外には短い草しか生えてない開けた空間。
桃源郷と呼ぶには華やかさが全然ないけどね。でもシンプルさが心地よい場所ではあるね。これはカカザンが長年かけて作り上げた成果なんだろうね。上前はねてごめーんね。これからもよろしく頼むよ。
「桃源郷……俗世を遠く離れた神々の住まいとされる場所ね。目的を持って訪れる者は到達できないとか。言われてみればそんな気もするわね。」
え? 桃源郷ってそうなの? 華やかで煌びやかな場所のことだと思ってたよ。というよりアレクがその言葉を知っているとは。物知りだね。むしろ私が勉強不足かな。なんせ小卒だから。
「そんな場所をカカザンが作り上げたと考えると胸が熱くなるね。あいつには長生きしてもらいたいよね。」
「まったくだわ。ここの木がこれだけもの実を付けるに至るまでどれだけ時間がかかるのか想像もできないわ。それを私達は捥いで食べるだけ。強くなってよかったと思える瞬間ね。」
さすがはアレク。傲慢とも思えるその思考。勝者は全てを得る貴族的思想。惚れ惚れするね。サルコに勝ったアレクは胸を張ってこの蟠桃を食べるべきだよな。胸……張りのある胸……ふふ。
「間違いないね。さて、そろそろ帰ろうか。カムイを拾ってさ。」
板に乗り込んで……カムイはどっちかな。
あ、いた。同じ狼っぽい魔物と対峙してる。やや暗い赤の毛皮。カムイより大きいじゃん。倍はある。それでも普段なら楽勝なんだろうけど。
「エンジャイロ狼ね。群れでの狩りが得意と聞いたことがあるわ。」
「へー。そうなんだ。じゃあ一匹しかいないのは珍しいのかな。」
「そんな日もあるってことかしら。魔力に惹かれてたまたま来てしまったのね。不運なこともあるものね。」
そりゃそうだ。カムイはノワールフォレストの森でアンタッチャブルとされるフェンリル狼だもんな。その実力は山岳地帯でも通用する。
「バウワォ……」
エンジャイロ狼はあまり身動きのとれないカムイに無造作に近寄り、そのまま首に噛み付いた。
「ガウ」
カムイは意に介した様子もなく首を振るとエンジャイロ狼の首が落ちた。伸びた魔力刃に斬り落とされたのだ。迂闊に近寄るからそうなるんだよ。やっぱカムイってアンタッチャブルだわ。
『浮身』
カムイはまだ帰りたくないのだろうが、これ以上は看過できないね。蟠桃もゲットしたことだし、遊びの時間は終わりだ。帰るぞ。
「ガウガウ」
次こそ圧勝してやるって? その意気だ。また来ような。
奮闘しているエンコウ猿たちを放置して帰路につく。代金代わりにポーションを一本ほど置いておいたけどね。とにかくカカザンに死なれては困るもんな。ではフェアウェル村へ帰ろう。今からだと夕食に間に合うぐらいかな?
日没後だというのに村には活気がない。普段なら家々から炊事の煙が上がっている頃ではないのか? なのに、まるでゴーストタウンみたいにひっそりとしている。
「戻ったか。蟠桃は手に入ったかの?」
広場に座ってちびちび飲んでるのは村長か。
「ただ今戻りました。十個ほど捥いできましたよ。はいこれ、村長の分です。」
村長には世話になってるからね。一個だけ進呈するさ。
「おお、やはりカース殿にかかってはカカザンも敵ではないか。ありがたくいただくとも。これは今仕込んでいる最中の酒に使用してみるとしようぞ。」
おお……蟠桃の酒か。それはワクワクが止まらないな。どんな酒ができることか、楽しみで仕方ないね。
「できたら飲ませてくださいね。で、おねだりの件なんですが、いいですか?」
「おおとも。何なりと言うがよかろうぞ。」
「またイグドラシルが欲しいんですよ。あります?」
これがこの村に来た一番の理由なんだもんなぁ。
「ほう。前回ほどの枝でよければ構わんとも。」
「ありがとうございます。ついでに加工もお願いしたいんですが大丈夫ですよね?」
「ほう? なかなか無茶を言ってくれるではないか。我らとてイグドラシルを切削するのにはひと苦労しておるのだがな?」
知ってる。ひと苦労で済むんだよな。不可能じゃないんだもんな。
私がそれに気づいたのはいつだったか。この村の外周を囲う柵や門ってえらくボロく見えるんだよな。スカスカって言うかさ。なのに全然壊れる気配がない。魔物だって襲ってくるだろうにさ。
そこで気づいたんだよな。あの柵はイグドラシル製だってことに。そんなの絶対破れるはずがない。鉄壁どころじゃない無敵の防御だよ。
つまり、加工できるってことだ。そうと知っていれば初代の不動を作るのにクランプランドのボンドゥさんに手間をかけさせることもなかったのに。この村長も人が悪いぜ。あ、ハイエルフが悪いって言うべきか?
「柵を作るよりは簡単だと思いますよ。欲しいのは細い棒ですから。」
「ふっ、カース殿には敵わんの。ついでじゃ。他に必要なものはないのか? 棒だけでよいなら儂は楽でよいのだがの。」
にやり。
「ではお言葉に甘えまして……」
さあ、容赦なく頼んでやるぜ。




