27、エルフとダークエルフ
それから二時間あまりに渡って色んなエルフが代わる代わる草笛を吹いていった。
曲名は確か……
『濃霧深林の調べ』より『ブロリアーデンス』
『翼竜渓谷の調べ』より『グリーアン』
『黒鉄山麓の調べ』より『ガネイ』
『魚刃剣河の調べ』より『カタリーナ』
といった感じだったか。さすがに多すぎて全部は覚えられない。ただどれもいい曲だったのは間違いない。
メロディで、音色で、演奏で。そして漂う怪しい草の香りで、私達は存分に酔いしれた。アレクもメロメロだ。メロメロすぎて私の服の中に入り込んでいる。今日は浴衣だから余裕を持ってアレクを包み込めるというものだ。まったく、可愛いよなぁ。
「よし! では草笛霧奏の勝者は……ツェーザルカルステンベリエスとヨーゼフストラトルユリアーヌスの二人組とする! 二つの音域に分けて音に厚みを出す工夫は見事であった! また寸分の乱れもない完璧なる演奏は我らエルフ族の誇りと言えよう! よい気分にさせてもらったぞ!」
全員が一人ずつ吹く中、この二人は一緒に吹いてたんだよな。高音と低音に分かれてさ。しかも同じメロディではなく伴奏と旋律があるタイプ。草笛でそこまでやるとはお見事だね。エルフすごい。
「さあさあさあ! 盛り上がっていこうではないか! 次は誰じゃ! 誰もおらぬなら儂がやってやるぞ!?」
村長マジでノリノリだな。最近あんまり飲んでないって話だったけど、今日は相当飲んでるだろ。
「ねぇーカースぅぅー!」
「何だい?」
「だーい好き!」
「僕も大好きだよ。」
「えへへへぇ!」
「あははは!」
アレクの可愛さがとどまるところを知らない。どこまで可愛ければ気が済むというのか。最高すぎる。あ、今度は背中に回り込もうとしてる。私の服の中をもがきながら進んでいるではないか。猫かな?
「カースがいたー!」
「もちろんいるよ。」
背中に回り込んだアレクが右肩あたりから首を出してきた。これもう二人羽織だよな。いや二人浴衣? いやー楽しいね。宴会芸は見れるし酒は旨いし。私が焼いた肉も美味しいぜ。
いつの間にやら日が沈んでいた。遠き山に沈む夕日を見ようと思っていたのに、宴会芸が面白くてそっちばかり見てしまってたな。
それにしても色んな宴会芸があったなぁ。一人一芸以上あったんじゃないか?
耳を隠したかと思ったら「大きくなっちゃった!」とか。あれには驚いたけど、考えてみれば単なる『変化』の魔法だよな。
耳と言えば両耳にいくつ耳飾りを付けることができるか、なんてやってたエルフもいたなぁ。『付着』の魔法は使ったものの『浮身』は使わずにどれだけ重いものを付けられるか競ってさ。最終的に二人が競り合ったんだけど、とうとう一人の耳が裂けかけたもんで勝者が決まったんだよな。片耳に十キロル近く付けてたんじゃないだろうか。エルフの耳ってすごいね。
あと面白かったのは踊りかな。優雅な踊りをするエルフもいれば激しく踊るエルフもいた。そうかと思えばコミカルにカクカク踊る若者もいたな。
長老衆の一人っていうエルフなんか花を踊らせてんだよな。あれには驚いた。私なら金操や風操を使えばできるが、あれは違う。植物そのものを自在に踊らせてたんだよな。宴会場にいきなりヒマワリを生やしてさ。そのままクネクネと踊らせるんだから大したもんだ。種を杯の中に飛ばしてくるのがこれまたすごかった。ツマミとしていい感じではあったんだよな。
でもグリードグラス草原のイービルジラソーレを思い出しちゃったけどね。あの種は絶対に食べたくないね。おお怖い。
花と言えばキモかったのは耳の中から赤い花を生やしたエルフもいたなぁ。あと鼻の穴からとか。確かに見事な魔法技術なんだけどさ、キモさがやばいんだよな。エルフ達はゲラゲラ笑ってたけど……
水芸をするエルフもいたなぁ。あれは見事な制御だった。秒単位で刻々と変化する噴水のようでさ。おまけに水の色もあれこれ変えてたし。最後は上空で大量の水を爆発させて花火のような光景を見せてくれた。くれたのはいいんだが大雨として降ってきたのは減点だな。エルフは誰一人として濡れてないが、焼いてる最中の鉄板が濡れたじゃないか。まったくもう。
他には物真似をするエルフもいたなぁ。
酒に魔力を込める村長の真似、若い者に説教をするアーさんの真似。侵入した狼に魔法を放つもあっさり避けられたゲオルカンスの真似なんて言われてもなぁ……
エルフ達にはバカ受けだったんだけど、私にはさっぱり分からない。だから愛想笑いしておいた。なおアレクは本当に笑っていた。今のアレクはきっと箸が転げても面白いに違いない。
変わり種は召喚魔法で魔物を呼んで、その魔物に芸をさせたり。人間のようにダンスをするゴリラや無理矢理オークの真似をするユニコーンなんかは中々おもしろかった。ユニコーンがオークの真似って! 説明がないと絶対分からないってんだ。面白かったけど。
小噺をしたエルフもいたなぁ。さっぱり理解できなかったけど。オチが「闇夜のダークエルフじゃあるまいし」だって。やはり意味が分からん。でもエルフ達は大爆笑。文化が違ーう。
あ、ダークエルフで思い出した。
「アーさん、ダークエルフはどうしたの? 誰もいないじゃん。」
宴会が始まってからも一人も見てないんだよな。
「ああ、全員村の復興のためだと帰っていったぞ。」
「え? いつ頃?」
「半年ほど前だな。ここでの生活も落ち着き、ソンブレア村を復興する目処も立ったのだろう。お前にはかなり感謝をしていたな。そういえば村長のギーゼルベルトヒルデブラントがまた来て欲しいと言っていたぞ。」
半年前か……方々の村に散ってるわけだから、そっちに伝令に出たダークエルフもいるんだろうな。明日にでも顔を出してみようか……毒は完全に浄化したから問題ないが、イグドラシルなしで暮らしていけるのか?
楽しい宴会の最中なのに気になってきたじゃないか……
「カース殿! そろそろそなたの番じゃ! 用意はいいか?」
あ、忘れてた。私の出番もあるんだったな……
うーん、どうしよう……




