25、芸達者選列苦闘杯開催
「よいかカース殿よ。芸達者選列苦闘杯とは我らの伝統ある宴会芸だ。笑いでも驚きでも何でもよい。我らの感情を最も揺さぶった者が勝者となる。おお、そういえば何やらおねだりに来たと言っておったな。ならばカース殿! 勝ってみせよ! 勝者には儂から褒美があるからの!」
ふーん。ただの宴会芸とは違うのね。この村とは付き合いが長いつもりだけど、まだまだ知らないことがあるもんだな。
「いいでしょう。やります。じゃ早速……」
何しよう……
「待て待て。おぬしは最後だ。その方が分かりやすかろうて。では先陣は……アーダルプレヒト! 最年少で長老衆になった実力を見せてやれぃ!」
「心得た。」
何の実力だよ……
「見るがいい。これぞ我らフェアウェル村に代々伝わる宴会芸……樹上散花。これを頭に乗せて立っていろ。」
これは? 椿みたいな花だが……
アーさんは歩いて離れていく。
二十五メイルほど離れたら、こちらを向き……弓を取り出した。エルフって弓使うんだ。初めて見た。冒険者ですらあんまり使わないのに。
あ、これウィリアム・テルオじゃん! エルフも似たようなことするのかよ! でも宴会芸って言ってたなぁ……ローランド王国じゃあ非情な王に強要されて息子の頭上のアプルを射るって故事なんだけどなぁ。
おっ、かっこいい。片肌はだけちゃって。さては本気だな?
弓を引き絞って……
「ゆくぞ。」
おお……すっご……
矢の軌道が弓なりじゃない……めっちゃ直線じゃん。気づいたら頭上から花びらが散ってきた。髪の毛まで削ってないだろうな?
「ふむ。なかなかの散り具合よの。さすがはアーダルプレヒトよ。あっぱれじゃ!」
「もう少し下を狙ってもよかったのだがな。そうすればもっと上方に舞い散らせることができたのだが。やはり芸の道は楽ではないな。」
「どうだカース殿よ。今のはカーメリアの花を打ち抜くことが目的ではない。いかにカーメリアの花弁を美しく舞い散らせることができるかを競うものだ。そのためにはいかに真っ芯を打ち抜くかが肝要なのだ。おもしろかろう?」
「やりますね……」
ただアプルの実を打ち抜くウィリアム・テルオより難しいじゃん……花の芯ってどこだよ!
しかもどんだけきれいに舞い散ったか私からは見えないじゃん。人の頭に乗せる意味あんまなくない? まあ人を射るという重圧に負けずに射る精神力が試される、的な意味もあるのかな。私はもちろん自動防御を張ってるけどさ。
「じゃあ次俺! 二つでやってやるぜ!」
おっ、私の舎弟を名乗る奴だ。
「兄貴いいかい? 両肩にさ」
「ああ。」
頭に乗せるのも肩に乗せるのも危険度ではさほど変わらないよな。
うーん、アーさんの後のせいか……こいつの構えってどうも頼りないな。ひょろいって言うかさ。単純に弓を扱う筋力が足りてないのか?
いて。いや、まあ痛くはないけどさ。
「ベネディクティス……お前、ろくに稽古もせずに当たるはずないだろう。相手がカースだから無傷で済んだものの、同胞を傷つけたらどうするつもりだ。」
「ふん、兄貴だからやったんだよ。実際無傷だったじゃねぇか。こんなもん数打ちゃ上手くなるんだよ」
『風弾』
「痛ってぇ! 兄貴いてぇって!」
私を練習台に使ったのかこの野郎。お仕置きだ。さっきより強くしてやった。額が赤く腫れる程度には。
こうしてしばらく樹上散花は続いた。なぜか的はずっと私。これじゃあ酒が飲めんだろうが!
「よし! 樹上散花の勝者はゲオルカンスィスマとする! では次に移る! 次の芸は……ゾルゲンツァファリーアス! お前がやってみよ!」
「村長のご指名に感謝します」
あ、マリーのパパじゃん。
「して、お前は何をやってみせるか?」
「では、私の得意な草笛霧奏を。皆の者! どうぞご清聴くだされ!」
そうてきむそう? 名前から何をするのかさっぱり想像できない……
あ、草を取り出した。笹みたいだけど笹ほど周りが鋭くないな。半分ほど口に咥えて……
あっ、草笛か! へぇー、アレクのバイオリンとは比べられないけど結構いい音色出すじゃん。素朴だけど品がある。音のバリエーションがシンプルだけにどこか郷愁を誘う音色だよなぁ……
「やっぱゾルゲンさんのカンナビ笛いいよなぁ……」
「ああ……とろけそうだわぁ……」
「酒が進むしなぁ……」
ん? そこまでのレベルか? 確かにいい音色だけどさ。アレクのバイオリンの方がよっぽどすごいぞ?
「ピュピュイーピッピッ」
おお? コーちゃんがめちゃくちゃご機嫌になってる!? 尻尾ふりふり鎌首ふりふりで踊ってる!
「ピピッピピュイッピー」
え? 上物のお薬みたいだって? どういうこと!? でもどことなくリラックスできる気もするな。メロディは郷愁を誘うし、うっすらと甘い香りも漂ってきたし……
「あはぁ……カースぅ……しゅきぃ……」
ん? アレクの目がとろんとしてる……
これはどうしたことだ?




