24、エルフ達の宴
それにしても……どうも私って宴会の時は鉄板焼き担当になってしまうよなぁ。別に嫌ではないんだが、どうしても序盤はひたすら焼いてばっかりになるんだよな。それでも両手は空いてるから飲み食いはできるのだが、どうせなら落ち着いて飲みたいもんなぁ。
「カース、この酒はもうないのか?」
「あるけど一杯で我慢してよ。みんなの分がなくなるじゃん。」
アーさんたら、えらく気に入ったようだな。いや、そりゃあ分かるよ。めちゃくちゃ旨いもんね。
「そ、そうか……」
「兄貴ぃ飲んでるぅー!?」
「これ村長の酒ぇ!」
「兄貴も飲もうよぉー!」
「おう、もらおう。」
あ、美味しい。これは覚えてるぞ。村長が毎日微細な魔力を込めてじっくり造ってる酒『ブッシュミルトン』だったよな。うーん、やっぱ旨いな。
これはどう言えばいいんだろう。草木の香り、土の要素を感じるとでも言えばいいのかな? そこに樽や村長の魔力がかすかに香ってるんだろうか。いい酒だよなぁ。
おっと、ついにハーピークイーンを焼く時が来たか。これはどの部位だろう?
「ハーピークイーンを焼くよー。食いたい者は集まりなー。」
「ハーピークイーンだって?」
「ここらじゃ珍しいよな」
「俺モモが好き」
うーん香ばしい匂いがしてきたね。ブッシュミルトンに合いそう。
「よし、食うぞ。俺は塩でいくぜ」
「俺はマイティベイジ付けてみよ」
「私はそのまま食べてみるね」
私も食べよう。カムイはもう生で食べてるし。
おおージューシー。歯応えもよく旨味たっぷり。やっぱ普通のハーピーとは桁違いだね。最高品質の名古屋コーチンって感じ? コカトリスの軟骨も名古屋コーチンみたいだったよなぁ。ハーピーには軟骨ないのか?
「美味しいわねカース。いつも絶妙な焼き方よ。さすがカースね。」
「鉄板がいいからかな。ミスリルボードほどじゃないとは思うけど。」
やっぱ肉を焼くにはミスリルに限るよね。油を引かなくても焦げないし。ちなみにこの鉄板は結構ぶ厚くしてある。
「カース殿よ、ヒイズルには酒以外の名物はないのか?」
おっ、村長ったら食い物まで寄越せってか。別にいいけど。
「では、あれこれ焼いてみますね。」
テンモカで仕入れた野菜の数々。カボチャやジャガイモ、キャベツにニンジンとバラエティー豊かだぜ。実際の名前は何て言うんだろうな。私が勝手にカボチャとかって呼んでるだけなんだよな。おっ、タマネギもあるじゃん。キノコが欲しいなぁ……
『風斬』
薄切りにして、鉄板の上に並べる。おお、早くも甘く香ばしい匂いが漂ってきた。
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
コーちゃんは旨そうだと言い、カムイはそんなのより肉を焼けと言う。
「ほう。これはこれは。なかなかの滋味だの。ヒイズルはよほど神々の祝福に恵まれた土地と見える。」
「デメテーラ様の祝福が毎年貰えるみたいですよ。その代わり戦士の血を捧げてるようで。」
「ほほう。土と豊穣の神デメテーラ様か。ヒイズルとはよい土地だのう。うむうむ、旨い旨い。」
村長ったら見た目はジジイだけど大食いなのかな? 今までそんなイメージはなかったが。
「カース、これも焼いてくれ。我らが育てた野菜だ。」
おっ、アーさんって意外とムキになるんだよな。村長がよその野菜を誉めたもんだから対抗心を燃やしちゃったか?
『風斬』
ズッキーニみたいなのは薄切り、チンゲン菜みたいなのは大きめにザク切りだ。
「これをかけてくれ。」
「オッケー。」
ソースか。くぅー、じゅうじゅう言ってる。なんていい匂い。これはまるでお好みソースじゃん。こんなの王都でも出会ったことないぞ。エルフやるなぁ。少し辛くて少し甘い、そして中に野菜の旨味がたくさん詰まってる。いいソース持ってんなぁ。マイティベイジはあんまり美味くないのに。
「このソースは何て名前?」
「特に名はない。自分の好みに合わせて作っただけだからな。」
「じゃあやっぱりお好みソースだね。これ好きだわ。アーさんやるね。」
酒にマイティベイジにお好みソース。エルフって凝り性なのかな? あ、うまっ! これは旨い! 野菜がいいのかソースがいいのか、きっと両方だな。
「ガウガウ」
はは、ソースなしで焼けって? カムイは素材派だなぁ。待ってな。
「ピュイピュイ」
コーちゃんはどっちも好きなのね。しかもブッシュミルトンによく合うって? コーちゃんは通だね。
「精霊様ぁー! 飲んでおられますかぁ!」
「兄貴もぉー! 飲んでぇー飲んで飲んでぇー!」
「仕方ねぇから注いでやるよ……特別だぜ?」
「ありがとう。」
『風弾』
「いってぇーー! 何すんだよ兄貴ぃー!」
「ばかやろう! お前ごときが偉そうにアレクに酒を注ぐんじゃない! お前が言っていいのは注がせていただきます、だ!」
まったくもう。イケメンぶりやがって。まあエルフは全員イケメンなんだけどさ。特別だぜ? とか言ってんじゃないよ全くもう。
「ちょっとカースぅ! お酒がこぼれたじゃないの! もう!」
「あはは、ごめんごめん。舐めるから許して?」
こぼれた酒はアレクの胸元を濡らしている。かくなる上は私が責任もって舐めようではないか。
「ひょおーー! 兄貴やっるぅー!」
「みんなが見てるのに気にせずイチャイチャかよ! そこに痺れる憧れる!」
「愛されてんなぁ嬢ちゃん!」
『風弾』
「だからいてぇーって! ひでぇぜ兄貴よぉー」
「お前ら三人はお嬢様と呼べ。」
それにしても……やっぱこいつら腐ってもエルフだよな。常人なら額に穴が空いてるだろうに。デコピン程度しか効いてない。
「ふむ。頃合いか……ならば始めようではないか! 芸達者選列苦闘杯をの!」
何だ何だ? せれくと杯? 村長もう酔ったのか?




