21、祭りの後。リリスの報告
昨夜はよく飲んだなぁ。アレクもバイオリンを弾きながらも結構飲んだせいで途中から酔ってきたんだよな。
だから早々と自宅に引っ込んだ。そして酔ったアレクを……むふふ。
アレクはまだ寝ているのでカムイと二人で朝湯。今日は何をしようかなぁ。あいつらの尋問結果が出るのは昼か夕方か。フェアウェル村にも行きたいしなぁ。
「あぁボスぅ。早起きだねぇ。それともお嬢と一戦交えたもんで今から寝るとこかぁい?」
「起きたとこだ。お前こそ早いな。」
「アタシぁ今から寝るとこさぁ。いい部屋ぁ用意してもらって悪いねぇ。ほぉんとボスの配下になってよかったさぁ。」
ラグナに部屋を用意したのはリリスだ。リリスから見ればラグナは先輩だしね。少しは敬意があるのかな?
「おぉーいラグナさぁん。待ってくれよぉー」
ん? 若い男か。二十代後半かな。
「んー? 帰っていいって言ったろぉ? 仕方ない奴だねぇ。仕方ないついでに挨拶しときなぁい?」
「挨拶? 誰に……?」
「別に挨拶など要らんが、湯に入る時は先に体を流せよ?」
「え、誰、っ痛ええっ! なぁにすんだよラグナさぁん!」
「よかったねぇ? 以前のアタシなら四つ斬りにしてるよぉ? こちらのお方こそ楽園の支配者にして魔王たるカース・マーティン様だぁ! 本来ならあんたごときが同じ湯船に入れるお人じゃないんだよぉ?」
昨日の今日なのにまだ私の顔を覚えてない奴もいるんだなぁ。まあ全員と話したわけでもないし。
「えええええぇぇ! ま、魔王!? こ、こんなガキがぁあぶへっ!」
「はい無理ー。ちったぁ使える男だと思ったんだけどねぇ。おーいアン! こいつ摘み出しておくれぇ!」
「かしこまりました」
「えっ、ちょっ、ラグナさぁん! お、俺が何したってんだよぉ! さっきまであんなに愛し合ってたじゃないかぁ!」
「はぁあ……つくづくダメな男だねぇ? 乙女の秘密をペラペラ喋る男ぁ早死にするって……知らないのかい!」
「ひぎゅっ……お……ラグ……それ、ちょ……ぎご……」
あーあ。せっかく鼻面をぶん殴って追放だけで許してもらえたのにねぇ。ラグナのつま先が股間にめり込んでる。めっちゃ痛そう。あーあ。
「アン、屋敷の玄関前に放り捨ててやんなぁ。」
「かしこまりました」
うわぁ……足首をがっしりと握って……ずるずると引きずってる。服ぐらい着させてやればいいのに。でも生きてるだけマシだよね。ラグナも真人間になったもんだ。それもこれも私の契約魔法のおかげだね。
「やぁれやれ。悪かったねぇボスぅ。適当に遊んでやったら懐かれたみたいでさぁ。アタシの男にでもなったつもりなのかねぇ?」
「あいつは冒険者か?」
「ああ。六等星って言ったかねぇ。名前は……覚えてないねぇ。あん中じゃあまあマシな顔してたから遊んでやったのさぁ。」
「ふーん。」
「いやいやボスぅ。ちゃんと聞いておくれよぉ。あいつったらさぁ? 今までどんだけ女ぁやったとか何人切りしたとかってうるさくてさぁ? そんじゃあちっとばかり腕ぇ見てやるかぁなんて思ってさぁ?」
「ふーん。」
「まっ、言うだけのことぁあったねぇ。太さ硬さに持続力と三拍子揃ってたさぁ。おまけに指と舌、そして腰遣いまで一級品だぁ。ありゃ冒険者よりサオ師としてもやってけるんじゃないかねぇ?」
「ふーん。」
「でも、あの頭の悪さは致命的だねぇ。よく今まで生きてこれたもんだねぇ? せっかく鴉金のシンバリーを思い出したのにもったいないねぇ。ここにいる間の遊び相手にしてやろぉと思ったんだけどねぇ?」
「ふーん、ダミアンはいいのか?」
私が心配することじゃないけどさ。
「いいに決まってるじゃないのさぁ。今回の件もダミアンにじっくり話してさぁ? 奮起してもらうのさぁ。まっ、ダミアン以上の男なんざぁ中々いないもんだねぇ。いるとすりゃあボスぐらいじゃないのかぁい? こぉんなにアタシが誘ってるのに酷い男だねぇボスは……」
それは誘いとは言わない。湯船の角に腰を下ろして両足を湯船の縁へ乗せてる。どこのストリッパーだよ。おまけに指で……広げちゃってまあ……
「その手のサービスはダミアンにしてやりな。ああそうだ。カムイを洗ってやれよ。そしたら良いことしてくれるかも知れないぜ?」
「ガウガウ」
まあまあ。たまには別人に洗ってもらうのも新鮮だろ?
「アタシがこんなに誘ってんのにぴくりとも反応してくれないんだからさぁ。逆に心配になるよぉ? 何かの病じゃないだろぉねぇ?」
ラグナの奴め、知ってて聞いてやがるな。
「そんじゃお先。まだ寝ないんならリリスに協力してやんな。」
「ほぉーんとボスはつれないねぇ。アタシだって一度ぐらいボスの槍で貫かれてみたいんだけどねぇ? さぞかし凶悪なんだろぉねぇ。お嬢が羨ましいよぉ。」
バカめ。炎槍でも使ってやろうか。
「旦那様、申し上げます。昨夜の者どもの素性が判明しました。」
脱衣所から出たところでリリス。こんな時間に……マジかよ……
「おはよ。ちゃんと寝たのか?」
「ありがとうございます。ご心配には及びません。あやつらですが、タンドリア伯爵領の残党を中心とした敗残者の寄せ集めでした。生き残りの中に元タンドリア騎士団副隊長がいたためそれなりにまとまりのある行動ができたようです。」
冒険者達の勘が大当たりだな。タンドリア家か……
「他にはどこの者がいた?」
「はい。南東部からはドナハマナ伯爵領とパンシャル伯爵領、それからアブドミナント伯爵領の元騎士。フランティアからは元サヌミチアニ代官であるベタンクール家の子飼いの者がおりました。」
ふーん。予想外なのはパンシャル伯爵領とアブドミナント伯爵領か。パンシャル伯爵領はタンドリアとドナハマナの間、アブドミナント伯爵領はドナハマナの北。そしてその四つの領に共通するのはいずれもアブバイン川の右岸ってことなんだよな。偶然だろうか?
「そいつらの目的は?」
「この楽園を乗っ取り捲土重来を期すためだと申しておりました。が、実際には王国のどこにも逃げ場がないためだと愚考いたします。なお、総兵力は三百四十三人、大半が南東部の騎士ですが冒険者や貴族子弟も混じっていたそうです。」
妙だな。取り潰されたタンドリア領の騎士やサヌミチアニの者がいるのはおかしくないが、他の領の騎士までなぜ?
「タンドリア以外の騎士がいる理由は分かるか?」
「申し訳ございません。そこまで考えが及びませんでした。」
「いや、構わん。楽園に来なかった仲間はいるのか?」
「各地の村にばらばらに残してきた女子供がいるそうです。今回は戦える者が総出だったようで。詳細はまだ分かっておりません。」
「分かった。じゃあその辺りをもう一度調べておいてくれ。よくやってくれた。ありがとな。」
「もったいのうございます。では生き残った者は私が奴隷として好きに使って構わないでしょうか?」
「ああ、もちろん。ご苦労だった。」
「失礼いたします。」
リリスの奴、徹夜でやったんだろうなぁ……
そこまでしなくていいのに。どうせあいつらはもう逃げられないんだから。リリスに逆らえないし、嘘もつけない。敗者の行く末ってのは惨めなもんだね。あーやだやだ。




