20、宴会再開
「ボスぅ。待たせたねぇ。素直んなったよぉ。」
おっ、意外と早かったな。まだ私の腹は膨れてないのに。
「ご苦労。やっぱラグナに任せてよかったよ。ほら、飲むか?」
「当然だろぉ? アタシを誰だと思ってんだぁい。そんじゃ後は任せたよぉ。ぷはぁ……うまっ! やっぱボスの酒はいいねぇ。シャンピニオン・スペチアーレにも負けてないよぉ。」
さぁてと、契約魔法をかけようかな。
「あばばばばぃぃひひひひひびびぃいいいいい」
ん?
「おいラグナ、こいつどうなってんだ?」
「あー大丈夫大丈夫。ちっとばかし喋り方がおかしくなっただけさぁ。ちゃーんとこっちの言うことぁ理解してるって。」
「ふーん……おい、聞いてるか? 約束だ。お前はこのリリスの奴隷になれ。そしたら命は助けてやる。分かったな?」
「あばばばばばっあっあぁぁぁあああが!」
本当だ……きっちりかかったよ……
「じゃあリリス、後は頼む。こいつらの情報が分かったら教えてくれ。あ、いや明日でいい。今夜はとことん楽しもうぜ?」
「かしこまりました。そのようにさせていただきます。」
なんせ今日はたくさんの新人が入った日だからね。こんな日に面倒なことなんてやってられないさ。たまにはリリスだって立場を忘れて楽しみたいだろうしね。態度はいつもと変わりないけど……
「よぉー魔王ぉ! じっくり見せてもらったぜ!」
「とんでもねぇよなぁ! 三百からの兵隊をあっさり全滅させたんだろ!?」
「しかも代官リリスだけじゃなくて四つ斬りラグナまで配下なんかよ!」
「しかもよぉ!? あの契約魔法のえげつねぇことったらねぇぜ!? あっさり奴隷にしちまいやがんの!」
「あーお前ら。言うの忘れてた。ここから南に二十キロル辺りに全滅させた残骸がある。何も手を付けてないから早い者勝ちだぜ?」
魔力庫の中身をぶち撒けてる奴はいなかったと思うが、それでも鎧や武器なんかはたっぷり落ちてるもんな。
「マジかよ! そういや魔王は太っ腹って話だったよな!」
「今から行くか!? 早い者勝ちなんだろ!?」
「俺ぁ行かねぇぜ。夜のヘルデザ砂漠なんて冗談じゃねぇ」
「俺もだ。明日の朝イチでいいだろ。行きてぇ奴ぁ行きゃいいさ」
おお、やっぱここまで来る冒険者だけあって全員慎重だな。目先の利益に全然惑わされてない。やるなぁ。
「よし、そんじゃ飲みなおしだ。新人もいることだし楽しくいこうぜ!」
「カース、一曲弾くわね。」
おおー! アレクがバイオリンを取り出した! 静かな夜がこれで賑やかになる!
「ぜひお願い!」
「じゃあいくわね……」
おっ! この曲は!
『未知なる夢を求めて
我らは旅立つ 果てしない魔境へと
たとえ砂塵が目を潰しても
たとえ雷がこの身を灼いても
我らの歩みを止めることなどできはしない
いかな魔物が現れようと
いかな魔獣が立ち塞がろうと
クタナツの意志は止まらない
どこまでも征け 冒険者達よ
歩みを止めた者から老いていき
老いた者から死んでいく
だから我らは戦う
例え魔境に露と消えても
だから我らは歌う
例え魔境の屍となりても』
おお……冒険者の歌か……いいよなぁ。
百人からの人間が大合唱かよ……
なんというか……いい気分だな。ヒイズルで私も歌ったけど、あの時は歌詞が適当だったんだよな。本当はこんな歌詞だったとは。いいもんだな。
「いよーっ! 女神最高!」
「めっちゃいい音だったぜ!」
「俺知ってるぜ! ありゃあバイオリンって楽器なんだぜ!」
「バーカそんなの誰だって知ってらぁ! ありゃ女神が先王様から下賜された最高のバイオリンなんだからよぉ!」
ほう。冒険者も結構知ってるのね。確か国宝レベルって話だったな。先王も粋なことしてくれるよな。
「アレク、最高だったよ。夜に響く音色がたまらないね。」
「これだけの人数が歌ってくれると私も弾いてて楽しくなってしまうわ。いい夜ね。」
まったくだ。多少の邪魔は入ったものの、夜はこれからだもんな。いつの間にやら人数増えてるし。また肉を焼かないといけないな。
自分が作った街でこれだけもの人間が楽しんでくれるってのは……かなりいい気分だな。私はすっかり領主になってしまったのか? それならそれで楽園も発展して欲しい気持ちもあるんだよなぁ。まぁそこら辺はリリスにお任せ、丸投げでいいけどね。
あー酒が旨い。タンも旨い。
他の肉も食べよっと……




