18、殲滅
話を聞いてみると……フランツウッドがタンドリア領を手に入れたのと、国王がヒイズルに攻めてきたタイミングはほぼ同じだった。
国内に周知した内容によると……ヤコビニ派や聖白絶神教団と通じていただけでなく、ヒイズル勢力を王国内に引き入れようとしたことが取り潰しの理由らしい。
思い返してみれば、国王はヒイズルが関与した証拠が見つかった的なことを言ってたよな? だから自らヒイズルまで攻めてきたわけだし。その道中でタンドリア領の中心地タンドリーにも攻め込み、一気にタンドリア伯爵家を滅亡に追いやったのね。国王は直接関与してはないそうだが……
証拠とやらがどの程度揃ってるのか疑わしいけどね。えげつな……
「カース、どうする? 私が行こうかしら? カースまだ少ししか食べてないし。」
おっと、いかんいかん。今は考えてる場合じゃないな。それにしてもアレクのトーンは『玄関に誰か来たから私が出ようか?』と同じなんだよなぁ。頼もしいや。
「いや、どうせなら一緒に行こうよ。ラグナはここの女達の護衛な。」
「それもいいわね。」
「はいよぉー。」
それにしても……わざわざ私がいる時に来るとはね。運の悪い奴らだ。それとも追い詰められて余裕を失くした奴らってのは運に見放されるものなんだろうか。もっとも、ここいる冒険者は全員凄腕だから私がいなくても結果に変わりはないと思うがね。
『いいかぁお前らぁ! ここに攻め込もうなんて舐めた野郎は俺が自らぶち殺す! だが! 俺が取り逃した奴が入ってくる可能性はある! その時はお前らがぶち殺せ!』
「生捕りでお願いします。」
リリス……
『訂正だ! 殺さねぇように捕まえとけぇ! 分かったかぁ!』
「おおよ! 俺らのえでんだもんよぉ!」
「任せとけや魔王ぉ! クタナツ冒険者は最強だってとこ見せてやんからよ!」
「どこのどいつだか知んねぇけどツイてねぇ奴らもいたもんだぜぇ!」
「ぎゃはははぁ! ちげぇねぇ!」
「じゃあアレク。行こうか。」
「ええ。カースが皆殺しにするとこ、楽しみね。」
派手かつ可愛らしい顔してすごいセリフだな。今度のデート楽しみね……のトーンだ。
「旦那様も、できれば数人ほどは生捕りでお願いします。多いほどありがたいです。」
「分かってるって。あっさり全滅で終わらせはしないさ。」
いくらアレクが楽しみにしてるからって全滅させてしまったら事情が分からなくなってしまうからな。せめて身元ぐらいは吐かせたいよね。
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
コーちゃんは私の首に巻きつき、カムイは早く板を出せと言っている。慌てるなって。
『浮身』
『風操』
さて、行くぜ。敵は野営か、それとも夜襲狙いか……行けば分かるだろ。
少しばかり高度を高めで南へと進む。ゆっくりと。ほんの一時間前に目撃したのなら、そう遠くはないだろう。暗視を使っておこうかな。ちなみにアレクには空の魔物の警戒を任せてある。
いた! 三百か……いや、もっといそうだな。野営する気配はない。整然と北へと向かってるじゃないか。
「ちょっと行ってくるね。ここで待っててくれる? で、合図したら降り注ぐ氷塊を落としてやって。範囲は広めでね。」
「分かったわ。それなら詠唱しながら待ってるわ。」
「落ちないようにね。」
浮身を使いながら他の魔法の詠唱をするのは結構難しいからね。行くぜカムイ。コーちゃんはアレクを頼むね。
「ガウガウ」
「ピュイッ」
カムイと私は板から飛び降りた。
地上が近付いたタイミングで『浮身』
ふんわりと着地。
「よう。お前らどこから来たんだ?」
「出たぞ! えでんの刺客だ! 囲め囲めぇ!」
「逃すな! 生捕りにせよ!」
「一人だけか!? 他にもいるはずだ!」
待ち構えてたわけでもないのに動きは機敏。手際もいい。少しは予想してたのか? だが現れるまで気付かないとはね。まあ普通は上空なんて魔物ぐらいしか警戒しないもんな。
『狙撃』
「おぺっ……」
「なっ!?」
「かかれぇー! 手足ぐらいちぎっても構わん! やれぇー!」
やはり動きにまとまりがあるな。絶対盗賊ではない。
『榴弾』
「ぎぃべ」
「びょぉ」
「どぼぇ」
全方位無差別攻撃。私を囲んだ者のほとんどがミンチになった。ざっと三、四十人か?
指向性地雷のクレイモアってこんな威力なんだろうなぁ。カムイは一瞬にして見えないほど遠くに離れてるし。
「次、どんどん来いよ。」
「うぬぬぅ! 怯むな! あれほどの威力だ! そう何度も撃てはせん! かかれぇーー!」
そうでもない。
『榴弾』
「ぴねっえ」
「えぼぉ」
「ど……」
今度は囲まれてなかった分それほど多く仕留めることはできなかった。二十人ぐらいかな?
「あ、そ、そんな……」
「これが代官リリスの懐刀……」
「姿も見せず朝には死体だけが残るって……」
おっ、ようやくビビったか? 何か勘違いしてるっぽいけど。
ビビってる割には投げ槍に矢、色んな魔法まで飛んでくるけどな。
「黙れ黙れぇい! 総員装備着用を許可する! 我らの恐ろしさを見せてやれぇー!」
こいつは偉そうにしてるけど、さっきから自分だけ無傷なことには気付いてないのか?
ほう。全員換装を使ったか。そして装備したのは……フルプレートの鎧ね……
「かかれぇぇぇーーー!」
『榴弾』
「がああっ!」
「いぎぃあぁ!」
「げごおぉ!?」
さすがにミンチとはいかなかったが、穴だらけであることに違いはない。ヒイズルでムラサキメタリックを相手にしてたせいか、普通のフルプレートだと貧弱に感じてしまうな。我が国の貴族がこの様とは……悲しくなってしまうな。
「ひいいぃぃ! バケモンだぁぁぁ!」
「に! 逃げろおおおおお!」
「ま、待て! 逃げるな! 敵前逃亡は厳ばつ……」
「だからこんなトコまで来るなんて嫌だったんだよぉおおお!」
「どけコラぁ! 邪魔だぁ!」
「ひいいいいいいいい!」
逃げ出したか。判断が遅いね。
『アレク、やって』
すっかり日が沈み、仄暗くなった砂漠の空から……無数の氷塊が流れ落ちた。




