16、楽園の宴
第二城壁付近に岩を置いておく。そのうち使おう。ここからはほぼ魔物は出ない。現れるとしても空から来るぐらいなのですぐ分かる。
「いやー楽しい散歩だったね。もう日が暮れそうだね。」
「そうね。西の平原に日が沈むわね。」
私とアレクの影が長いなぁ。二人の影が重なる……なんて歌があった気がするけど、私達の影はとっくに重なっている。北に向かって横並びに歩いているのだから。
掘立て小屋エリアに到着。冒険者達も続々と帰ってきているようだ。
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
コーちゃんとカムイも帰ってきてるね。あーあー、もうカムイったら血まみれじゃないか。『浄化』
「おう魔王! この狼が仕留めた魔物がたくさんあるからよぉ! どんどん焼いてくれや!」
「とんでもねぇ狼だぜよ! 動きが鋭すぎて見えやしねえ!」
「悪いが魔石と素材は貰ったぜ? そん代わり肉ぁ全部出すからよ!」
あら、カムイったら冒険者の獲物を横取りしたのかな? まあ素材を譲ったのなら問題なかろう。
「悪いな。もしかして横槍か? うちのカムイがすまなかったな。」
「いやいやそうじゃねぇ。魔物が積み上がってん所に通りがかっただけだ。一瞬やばい場所に来ちまったんかと身構えたけどな」
「よく見りゃ魔王の狼がいるじゃねぇかよ。それでピンと来たぜ。魔物を積み上げて後で取りに来させるつもりだってな」
「今夜ぁ宴会するってぇ話だったもんよ。だから狼が獲物ぉ集めてんだってな。魔王にゃ世話んなってんからよ。そんなら取りに来る手間ぁ省いてやんかと思ってな」
おお。いい奴らだなぁ。やっぱりクタナツの冒険者は違うね。義理堅い。その上ちゃっかり素材も魔石もゲットしてるし。解体して運んでくれたんだから全然構わないとも。
ちなみに今夜の宴会はヒイズルの食材メインでやるつもりだったんだよね。だって魔境の魔物肉をほとんど持ってないんだから。野菜と魚を焼きまくるつもりだったのさ。
「そいつはありがとよ。じゃあ早速始めようか。」
『鉄塊』
鉄板焼きにはミスリルボードが最適なのだが、ないものは仕方ない。普通に鉄板でいこう。まずは油を引いて……
「まずはこれから焼いてくれや! 俺ぁこれが大好きでよ!」
ほほう。ブラックブラッドブルか。私も好きだとも。
くぅー! じゅうじゅう言ってるよ! すごくいい匂いなんだが……少しミスったな。ヒイズルの植物油より、同じブラックブラッドブルの牛脂を引けばよかった気がする。まあいいや。それは次にしよう。
「ほら、焼けたぞ! どんどん食べろ!」
「うほぉーー! たまんねぇぜ! この歯応え! やっぱノワールフォレストの森で一番旨えのはこいつだぜよぉ!」
「そんなわけあるかよ! 魔王ぉ次はこれを焼いてくれやあ!」
「おう。どんどん寄越しな。で、これ何?」
「ソリチュードポイズンフログの足だあ! 毒腺さえ外しゃあマジ旨えんだぜ?」
ふーん。毒ガエルの足ね。残ってたら私も食べてみよう。
「魔王ぉー酒ねーのー?」
おっと、忘れてた。酒樽どーん。
「ヒイズルの酒だ。好きに飲んでいいぞ。アラキ島ってとこの新酒だとよ。」
「おお! マジかよ! たっぷりあるじゃねえか!」
「こいつぁ飲み放題だぜよ!」
「さすがぁ魔王だぜなあ!」
樽ごと置いておくので、各々が好きに汲んで飲むがいい。でもコーちゃんにはこっち。ツーホ村で買ったいい酒、アキツホニシキの特等純米生原酒だよー。
「ピュピュイーピュイ」
ふふ、大喜びしてる。
「おっしゃーお前らぁ! 杯ぁ持ったかよ!?」
「おうよ!」
「早く飲ませろや!」
「ほら! 魔王も持てって! 女神もほれほれ!」
「お、おお。ありがとよ。」
「いただくわ。」
私を待たないで好き勝手に飲んでくれていいのに。
「おーし! そんじゃあいくぜぇ! 魔王! 乾杯の挨拶しろや!」
お前が乾杯の音頭をとるんじゃないのかよ! 私は肉を焼くのに忙しいってのに。
「えー、魔王ことカース・マーティンです。お前ら冒険者が元気そうで何よりです。これからもその調子で冒険者らしく生きていって欲しいと思います。そんじゃお前ら! 今夜はとことん楽しもうぜ! では……乾杯!」
「乾杯ぃー!」
「魔王に乾杯!」
「女神にも乾杯!」
「狼にもかんぱいだぁ!」
「蛇ちゃんにもなぁ!」
いつの間にやら周囲は人だらけ。軽く見積もっても百人はいる。ここも大所帯になっていくんだろうなぁ。
「旦那様。遅くなりましたが魔王の館の者と新人を連れて参りました。」
「おおリリス。今夜は世話なんか忘れて好きに楽しむといい。」
「リリス、これは私から。きっとあなたに似合うと思うわ。」
おお? 青い宝石の首飾りだ。リリスの黒いメイド服に似合いそう。
「お嬢様……これは瑠璃玉石ですか……身に余る栄誉、ありがたくいただきます……」
細かい結晶がまだらに入り混じった深い青。ラピスラズリか。アレクったらいつの間にそんなの準備してたんだろう。用意がいいなぁ。
「では皆さん。旦那様のご好意に感謝して、ありがたくいただきなさい。」
「はい! いただきます!」
「ありがとうございます!」
「いただきます旦那様!」
従業員達は肉を皿にとっては思い思いに冒険者の隣へと行く。新人達は恐る恐る鉄板にフォークを伸ばしている。
「リリスも食べてくれよ。」
「ありがとうございます。いただきます。」
そんなリリスの両サイドにはイケメン冒険者が控えている。護衛かな? 茶髪と赤髪、リリスより歳下、二十代後半ってとこか。
「七等星ガットだ。これでもクタナツ冒険者なもんでな。魔王のことはよく分かってるつもりだ」
「同じく七等星フレット。リリス代官には世話になっているもんで街にいる間ぐらいは護衛の真似事をさせてもらってる」
七等星でここまで来れるなら大したもんだ。おまけにリリスが重用してそうなところも。
「そうか。こんな街だからな。お互い協力し合うのは大事だよな。さあ、堅苦しいことは気にせず食べてくれ。」
『金操』
『水操』
肉と酒をサーブ。風操を使うと冷めそうだから金操なのだ。
「ありがとうございます。」
「お、おお、ありがとな」
「い、いただく」
それにしても色んな肉が揃ってるよな。カムイったら張り切ってくれたのね。今夜は手洗いコースだな。
「おぅい魔王ぉー! これも焼いてくれぇや!」
「おう。どんどん持ってこい。で、これ何?」
「フリルリザードの大物だぁ! ぜってぇ旨えぞぉ!」
ふーん。トカゲだよな。食べた覚えはないな。楽しみだね。




