13、楽園の今
到着。だいたい三時間ってとこかな。少し寄り道しすぎちゃったよ。上から街道をチェックしながら来たもんだからさ。
さすがにまだほとんど出来てないよな。
だいたい……領都からグラスクリーク入江までは二割ほど、グラスクリーク入江から北へは数十キロルぐらいしか延びてなかった。先は長いね。
着陸は我が家ではなく掘立て小屋エリアの中心部。大浴場やトイレがある辺りだ。
もうすぐ昼だが冒険者達はそれなりにいるようだな。
「うおっ!? びっくりした! えっ? 何!?」
「女ばっかり……あれ?」
「首に蛇を巻いて……白い狼……魔王かぁ!?」
おお、服装が違っても分かるもんだな。
「正解。新しい女を連れてきたぞ。たぶん後で宴会やるから暇なら参加するよう声かけといてくれ。」
「ま、マジかよ……」
「これが、魔王……」
「あ、ああ、分かった……」
よし。デモンストレーション終わり。ここから私の家までは歩こう。ほんの数百メイルほど。私が作った石畳を北へ。
すると垂直に切り立った隙間のない石垣へぶち当たる。
「ボスぅ。アタシは少しばかりここらを彷徨かせてもらうよぉ? 冒険者とも話してみたいしねぇ。」
「ああ。じゃあ後でな。」
ラグナは何を考えてるのやら。悪巧みでないことぐらいは分かるが。
『浮身』
がんばれば登れなくはないけど、組み合わせた岩の一つ一つが大きいからなぁ。ロッククライミングするのもひと苦労なんだよな。来客に厳しい場所だわ。
我が家は魔王の館って呼ばれてるんだよな。玄関前のコーちゃんの銀湯船も、カムイの小屋も健在。時々リリスが掃除してくれてるんだろうな。
騒つく女達を引き連れて中へと入る。
「おかえりなさいませ旦那様」
メイドゴーレムだ。猫耳ってことは……アンだったかな。
「ただいま。リリスはいるか?」
「ただいま巡回に出ております。お呼びいたしましょうか?」
「いや、それならいい。戻ったら寝室に顔を出すよう伝えてくれ。」
「かしこまりました」
ここにもいい湯船は置いてあるけど、さすがにまだ入る気分じゃないしな。寝室でアレクと軽くイチャイチャするだけにしよう。
「こいつらは食堂に案内してやってくれ。好きな物を飲み食いさせていいから。」
「かしこまりました」
「じゃあお前達。ここの従業員の言うことをよく聞いて頑張れよ。」
不安な顔は隠しきれないようだが、全員がアンに追随する。ここまで来たらもうリリスに絶対服従するしかないもんな。がんばれ。
後は丸投げだ。新人教育に手間をかけなくていいってのは助かるよな。契約魔法って最高。
「ガウガウ」
「ピュイピュイ」
カムイは散歩に行くと言い、コーちゃんはそれに付いていくと言う。いいとも。夕方ぐらいまでには帰ってくるんだぞ?
「ガウガウ」
「ピュイピュイ」
返事をしたかと思ったら、もう見えなくなった。どうせカムイは帰ってきたら手洗いしてからブラッシングしろって言うんだろ。しまったな……ブラシがない。領都に戻ったら買おう。確かアジャスト商会に売ってたよな。
寝室に入り、ベッドに横になる。眠たいわけではない。ただのんびりしたいだけだ。そんな私の横に滑り込んでくるアレク。
「ここも少しずつ人口が増えてるみたいね。ノルドフロンテとどっちが栄えるのかしら。」
「そりゃあやっぱりノルドフロンテじゃないかな。街の規模が違うと思うしね。」
広さは同じ。今のところ城壁の頑丈さはこっちが上。でも発展のスピードは間違いなくあっちが上だろう。なんせこっちはほぼ放置なんだから。
でも、歓楽街としての価値は圧倒的にこっちだな。ノルドフロンテが発展すればするほどこっちに客が集まることになる。
「こちらにあって、あちらにないもの……やはり娼館よね。男も女も……欲望は等しく私達を誘うものだし。」
「それはそうだよね。ノルドフロンテにはまだそんな余裕ないだろうしね。」
全員一丸となって開拓しないと魔物に飲み込まれてしまいかねないもんな。それはこっちでも同じと言えば同じだけどさ。
「逆に……こちらになくて、あちらにあるかも知れないものに賭場があるわ。あちらには先王様がいらっしゃるから場を仕切るのに何の不足もないはずね。」
「あー、それは考えてなかったね。せいぜいこっちで賭場は難しいとしか。あっちは先王様だけじゃなくて元校長に元組合長、元宰相にうちのおじいちゃんまでいるもんね。いくらでも仕切れそうだね。」
「とはいえ……そこまでしてこの楽園の発展をカースが気にしているとも思えないし。結局はなるようになるだけよね。」
「そうだね。元はと言えば、ほんの思いつきで作り上げた場所だしね。誰も来なくなって寂れたならそれはそれで構わないよね。」
その場合、ここで働く女達はどうなるのかが問題だけどね。その時になってから考えればいいさ。ノルドフロンテに移住させてもいいわけだし。
「ねぇカース……そんなことより……ね?」
「ふふ、そうだね。野暮な話はやめようか。」
あれ? この話を始めたのってアレクだっけ? まいっか。
うーん、のんびりするつもりが真っ昼間から……アレクは罪な女だぜ。




