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異世界金融 〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件 〜 #いせきん  作者: 暮伊豆
第4章

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1906/3109

814、アマギン村、ツーホ村、潮吹。そしてヤチロ

宴会の翌々日。私達は天都イカルガから旅立った。天都には国王も兄上もすでにおらず、数名の宮廷魔導士と近衞騎士が残るのみだった。彼らはそのまま一年ほど滞在するらしい。


アマギン村はタイショー獄寒洞から意外と近かった。村長が話の分かる人間だったことと、クワナから貰った天公公認の名誉ヒイズル民の身分証の力もあり、買えるだけのワサビを手に入れることができた。生のワサビだけでなく、葉を刻んだ漬物やワサビ味噌(まいそ)まであれこれと貰ってしまった。

どうやら私がオワダでエチゴヤを潰した話が回っているらしく、えらく感謝されているようだった。


そしてまた翌日。

ツーホ村はヒイズルの北西部、ベグリッチ領という所にあった。お目当てであるアキツホニシキ米を使った特等純米生原酒はさほど量がなかったため、あまり買えなかった。その代わり、等級は劣るもののそれなりの品質の酒は手に入れることができた。コーちゃんが大満足していたので私も満足だ。


ちなみに代金は全てアレクが払った。




本日はヒイズルの北西の端。私達は切り立った崖の上にいる。


「ここでいいのか?」


「おうよ。ここから下に降りて、海に潜りゃあ迷宮があるらしいからよぉ。龍宮天潮吹りゅうぐうてんちょうぶき、通称『潮吹(しおふき)』がよぉ。そんじゃあちょいと行ってくるからよぉ!」


目の前では天に向かって海水が吹き上がっている。高さは毎回異なるが、高い時は百メイルを軽く超すだろう。それに合わせて魚が落ちてきたり魔物が飛んできたり。

海の中の迷宮にわざわざ潜るとは、物好きな奴らだ。ドロガーもキサダーニも、そしてクロミも。おまけにテンポまで。

たった四人でよくやるよなぁ。できればこいつらには死んで欲しくないんだけどなぁ……


「じゃあねニンちゃん。気が向いたらニンちゃんにかかってる契約魔法を解呪しちゃうからねー。」


「しなくていいよ。命懸けで踏破するんだろ? 願いは自分のためにしろよな。」


「えへへー。金ちゃんもまたねー。精霊様も、狼殿も。」


「ええ。また会いたいものだわ。だから、死なないでよ?」


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


コーちゃんもカムイもクロミの健闘を祈ってる。


「例え両の手足がなくなっても、どうにか生きて出てこいよ? そしたら何とでもなるんだからさ。」


「分かってるしー。うちはそんなヘマしないしー。ニンちゃんじゃあるまいしー。でも心配してくれてありがとねー。いいポーションも貰っちゃったしー。」


国王から貰ったポーションのうち残り半分はクロミに渡した。迷宮踏破には必要だもんな。他にも装備や武器なんかを色々渡してやりたかったが、私は何も持ってないからな。その分アレクがあれこれ渡したようだ。


「キサダーニもテンポも死ぬなよ。」


「おう。魔王も元気でな。もっともこいつは状況次第じゃそうそうに帰ることになるけどよ?」


「呼吸次第だな……」


あ、そうか。テンポは海中用の祝福がないのか。自力で息を我慢するか、魔法を使うしかないもんな。


「早めに撤退するのも大事だよな。テンポはここで拠点を作って管理する役でもいいだろうしさ。」


「ああ……行ってみてから決めるさ……世話になったな……魔王。」


こいつは元赤兜にしてはまともな奴だもんな。幸運とも言うが。


「よし! そんじゃあまず俺が行ってみっからよ! お前らぁちぃと待ってろや! じゃあな魔王ぉ!」


「おう。またな。」


そう言ってドロガーは荒れた海に飛び込んでいった。横から見るとまるで自殺だな。こんな断崖からダイブとはさ。


「じゃあニンちゃん。うちも行くしー。まったねー。」


そう言ってクロミは私の頬に軽く口付けて、やはり崖から飛び込んでいった。ドロガーを待つんじゃないのかよ。


「ロガには内緒にしとくぜ。」


「いや、別にどうでもいい。じゃあ俺らも行くわ。何度も言うが死ぬなよ?」


「元気でね。」


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


手を振るキサダーニとテンポに手を振りかえしながら私達は上昇する。ミスリルボードではなく木の板で。これはこれで悪くない。軽くてそこそこ丈夫だし。


風壁は張ってない。今日はいい天気だから。

風はまだ冷たいし、上空は寒い。だけどなんだか空気が澄んでていい気分なんだよな。風を感じながらのんびり飛んでいこう。


オワダや途中の村に寄ってもいいが、やはり予定通り一気にヤチロまで行こう。政権が変わったことはもう知られてるんだろうか? さすがに通知ぐらい出してるよな。うちの国王は抜け目がなさそうだし。




到着。心なしが城門がきれいになってる気がする。


「次の方どうぞ」


城門の騎士が低姿勢だ……意外すぎる。


「ヒチベに会いたいが、今日は領主邸にいるかい?」


「……ヒチベ? あっ! ご領主様か! 貴様ご領主様に何という口を、ん? カース・マー……なっ、ま、魔王殿か!」


その通り。身分証をちゃんと確認するのは大事だよね。


「ああ。約束の畳を受け取りに来た。別に急いではないからヒチベが忙しいなら後日でもいい。とりあえず俺達の到着を知らせてやってくれ。」


「はっ、はいっ! かしこまりました! し、して、魔王殿! 本日の宿はどちらのご予定で!?」


どこだったっけな……ヤチロで一番いい宿。ヒイズルの宿ってどこも似たような名前なもんで思い出せない。


「勁草の恩恵亭よ。もっとも、部屋が空いていればの話だわ。」


あー、そんな名前だったね。畳がいい感じの宿なんだよな。


「はっ! かしこまりました! ならば先に行って空きを確認して参ります! モブレ! お前はご領主様にご報告だ!」


「はいっ!」


おお、機敏に動くんだね。


「馬車をご用意いたしますので少々お待ちください!」


私は馬車が好きじゃないんだけどなぁ。まあ好意で言ってくれてるんだし、無碍にすることもあるまい。あ、走っていってしまった。


待つこと二分。馬車が来た。特にいいやつってわけでもない普通のやつ。




馬車に揺られてのんびりと宿へ。まだ夕食って時間じゃないからあちこちぶらぶらする気だったんだけどな。まいっか。着いてから考えよう。ここまで歓迎されるといい気分だよな。故郷でもないのに帰ってきたって感じ?

ここはいい街だもんな。どことなく新鮮な草の匂いを感じるし。こんな季節なのにさ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ちょっぴり……いや、けっこう寂しいですが、爽やかな別れで良きです。 迷宮はなかなかの鬼畜難易度で心配ですけど、日和ってたら冒険者なんてできないですよね。無事に再会できることを願ってます!
[一言] 冒険者たちと別れ。 しばしかな。
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