806、第二ラウンド
氷片が形作るキノコ雲。空間に舞う真っ白なダイヤモンドダスト。その下にはクレーター。
ただでさえくそ寒いこの空間がますます寒くなってる。自動防御を張っててこれかよ。
「ニンちゃん! やったね!」
「クロミもお見事。いいタイミングだったな。」
「へっへー。なかなかやるっしょ?」
「でもまだ油断するなよ?」
本当はアレクの様子を見に行きたいんだけどね。きっちり仕留めたのか確認するまでは安心できないからな。
クレーター外縁部からちらりと下を覗く。
居た! クレーター中心部、結構深いな。手足なんかぐしゃぐしゃに折れ曲がってボロボロだ。頭部だって半分失くなっているし胴体も原形を留めているとは言えない。しかし……瀕死に見えるが、生きてやがる……
それに魔力だって……マジかよ……
粉々になっててもおかしくない威力だろうに……このホワイトドラゴンはどんだけ頑丈なんだ。よし、トドメだ。
丁寧に詠唱して特大の氷塊を落としてやる。容赦せんぞ。
「ギャワワッ!」
むっ!?
『キュオオオオオオオオオオオオオオオォォオォ!』
危ねっ! とっさに伏せて助かった。あの野郎、外縁部に沿ってぐるりと収束ブレスを吐きやがった……あんなのくらったら胴体が切断されてしまうぞ……
助かったよコーちゃん。
おかしいと思ったんだよ。体はあの状態なのに魔力はやけに充実してたからな。爆裂寸前って感じでさ。
「ギガァアアアアァァ!」
浮かび上がって姿を見せた。ん? えらく小さいような……
『ガウガアアアアアーーーー!』
カムイの魔声だ。なっ!? 避けた!?
そんなバカな! いくら威力重視のために範囲を絞ったからって……避けられるもんじゃないぞ?
くっ! 危なっ!
『鉄壁』
なんてスピードで突っ込んできやがる……
私が飛ぶより速い……? 鉄壁をかすめて上昇……
いかん! 上をとられた!
『全員散開しろ!』
『グォゴオオオオオオオオオオオオオオ!』
上空から真下に向けて範囲ブレス……なめんな!
『業火槍』
避けてばっかりだと思うなよ? お前の収束ブレスには敵わないかも知れないが、こっちなら。
よし。直径二メイルの渦巻く炎はブレスをかき消してホワイトドラゴンを直撃した。今だ!
『風操』
私も飛び上がる。上をとった方が有利なのは間違いないからな。
『キュオオオオオ!』
今度は収束ブレスかよ。しかもご丁寧に振り回してやがる。私はどうにか避けられているが、アレク達に被害がなければいいが……
『業火槍』
思えばこの魔法ってめったに使わないんだよな。私が使えば超高温で貫通する槍と化すのだが、威力がありすぎるし魔力の無駄遣いも酷いんだよな。こいつ相手にはちょうどいいけど。灼熱のレーザービームってとこか。生意気に避けやがるけど……
まあいい。こいつがこうやって私に集中すれば、カムイやクロミがまた隙を作ってくれるさ。
「ギガァアアアアァァ!」
ちっ、ブレスじゃ埒があかないとばかりに突っ込んできやがる。
『徹甲連弾』
いくら私より速く飛べようが……空中ではいい的なんだよ!
ことごとく顔面に命中するし、効いてるようにも見える。だが勢いは衰えず……
「ガガァオオオ!」
大口を開けて私を食い殺そうと……
『風操』
『業火球』
くそっ……痛って……避けるのが少し遅かったか。奴の顎からは逃れたが、足の爪に引っかけられたか……
自動防御を破られ帽子まで飛んでいった。一瞬外気に触れただけなのに寒過ぎる。
さて、ホワイトドラゴンのダメージはどうだ? ミスリルをも溶かす私の業火を口にぶち込んでやったんだぞ?
「ピュイピュイ」
おお! 効いてるんだね! ドラゴンってブレスを吐くから口の中まで丈夫そうなイメージがあるけど。さすがに今のは効いたか。
『クロミ、氷雪系の魔法を用意しておいてくれ。俺が超高温の魔法をぶち当てるから、その後に続けて頼む!』
『分かったし!』
温度差で装甲を破るのは定番の手法だからな。もっとも、わざわざ氷雪系の魔法を使う必要もないほどここは寒いけどね。
『グォゴオオオオオオオオオオオオオオ!』
今度は全方位ブレスか。だんだんパターンが分かってきた気がする。こいつって考えるのが面倒になったらとりあえず広範囲にブレス撃つんじゃないか? それなら確実に当たるし、普通なら一発で塵になる威力だもんな。だが私やカムイに効くと思うなよ?
それにしても……復活したらずいぶんと小さくなったもんだな。全長五メイルってとこか。その分かなり速くなったけどさ。しかも牙や爪の鋭さは健在、魔力はたっぷりときたもんだ。やっぱドラゴンって厄介だわ。
それにしても……くそ、ブレスがやまない……
吐き続けてやがる……莫大な魔力に任せて持久戦でもする気か? ドラゴンらしくもない……
それならそれで自動防御じゃなく厚めの氷壁で防ぐまでだ。
『氷壁』
防ぎつつ魔力を練って……
『業火槍』
で、ブレスに穴を空けて……
『業炎烈風槍』
火と風の魔法。風を纏わせ温度も速度も、そして貫通力まで倍々だ。
『キュオオオオオオオオオオオオオオオォォオォ!』
くそっ! とっさに収束ブレスを撃ち返してきやがった! くぅっ……なんて威力だ……
拮抗してやがる……
これは私を褒めるべきか……?
ラスボスの超ヤバいブレスと渡り合える魔法を放っているのだから……
だが……くそ、じりじり押される……
普段なら同時に他の魔法を撃ったりもするんだが……そんな余裕あるわけない……気を緩めたら撃ち抜かれてしまう!
『キュオアアアアァァ!』
くそが! 威力が増しやがった!
『業炎烈風槍』
やってやるよ! ならこっちは三倍だ! 人間様をなめんなよ!
カムイはこの高さまで到達できない。
クロミは私がこの撃ち合いに勝つと信じて次の魔法を準備しているだろう。
アレクは魔力が空になったはずだ。
ならば……ドロガーとキサダーニに期待か?
だが、これだけものブレスだからな。迂闊に近寄ると……それだけで塵になってしまう。期待するわけにはいかんな。
なっ!? くそがぁ! また威力が増しやがった!
『業炎烈風槍』
六倍だ! とことんやってやるぞ! ホワイトドラゴンがなんぼのもんだってんだ!




