804、序盤の攻防
よく見ると……あの巨体が翼で覆われている。多少は穴が空いているようだが……
それが防御態勢なのか? しかもその状態から降り注ぐ氷塊を迎撃してみせたってことか。何てやつだ……
『ニンちゃん、そいつってその状態の時は大雑把な攻撃しかできないっぽいよー』
なるほどね。さすがクロミ。よく観察してるな。それに降り注ぐ氷塊だけを迎撃したのが気になってたんだよな。私の自動防御のように物理攻撃に弱いのかとも思ったが、それなら徹甲弾もきっちり迎撃するはずだし。
『クロミ、氷塊系の魔法を撃ち込んでみて』
一つ仮説ができた。こいつって防御態勢の時は大きく動く物しか見えてないんじゃないか? 徹甲弾は迎撃したように見えなかったし。何発かは翼を貫通してるっぽいし。
降り注ぐ氷塊は上から落ちてくるもんだからな。まともな冒険者なら容易く避けられるもんだが……
『ガグォゴオオオオオオオオオオオオオオ!』
くっ……ビリビリと響きやがる……
翼を広げて魔声一発かよ。のんびり考察なんかしてる場合じゃないよな。
『徹甲弾』
当たってるな……
ダメージはさほどないように見えるが……
『ニンちゃん! うちが撃った氷塊列弾が全部かき消されたよ!』
『そのまま撃ち続けてくれ!』
かき消す……どうやってるのかは分からんが、氷系の魔法はことごとくかき消しているようだな。
『グォゴオオオオオオオオオオオオオオ!』
くっ……また全方位ブレスかよ。
分かってきたぞ……こいつ、私やクロミのことなんか眼中にないんだろ。羽虫がうろちょろしてるから取り敢えず全滅させてやろう……としか考えてないんじゃないか?
『キュオオオオオオオオオオオオオオオォォオォ!』
危ね!
そうかと思えばきっちり私を狙って収束ブレスを撃ってきやがった。これはクロミも絶対くらうなって言ったもんな。私だって分かるさ。ドラゴンの収束ブレスのヤバさはな。
さて、もう一つ仮説がある。こいつが氷系だけをかき消している理由だ。それは……
『吹雪ける氷嵐』
ただでさえくそ寒いこの空間で……
真夏でも冬にするこの魔法を使ったらどうなる?
答えは……
『グォゴオオオオオオオオオオオオオオ!』
全方位ブレスでかき消しやがったか。なるほどね。
『クロミ! こいつは氷雪系に弱い! 撃ちまくれ!』
『分かったしー!』
改めて思うがお互いが伝言の魔法を使えると便利でいいよな。
『吹雪ける氷嵐』
『グォゴオオオオオオオオオオオオオオ!』
やっぱりか。こいつはなぜか氷雪系の魔法を過敏にかき消してくる。徹甲弾で翼に穴が空こうとも気にしないほどに。
現在の気温は分からない。くそ寒いってことぐらいしか。だが、このホワイトドラゴンはこれ以上気温が下がることを嫌がっているんじゃないか? 自分こそが極低温世界の王だとばかりに。
分かってきたぞ……
悔しいことだがこいつの魔力は私より大きい。さすがは迷宮五十階のボスだけある。
だからなのか、いくらでも魔法をかき消してきやがる。余裕を持って。
こんな時、フェルナンド先生なら……
『魔物なんて首を落とせばいいんだよ』
言いそうだな。じゃあ母上なら?
『魔力なんて飾りみたいなものね』
うーむ……いくらバカでかい魔力を持っていようとも首を落とせば関係ないんだもんな。
できるかぁ!
くっそ……全然参考にならん。もっとちょうどいいアイデアはないのかよ!
例えば……
『超圧縮雷火球』
轟く雷鳴を無理矢理ソフトボール程度に圧縮して撃ち出してみた。ホワイトドラゴンは気付いてないのか気にしてないのかスルー。そして胴体に着弾。
「ギキィッ!」
おっ、少しダメージあったか。ドラゴンの皮膚装甲を考えると雷系の魔法なんて効きそうにないんだけどさ。
うおっと、ちょこちょこ収束ブレスを撃ってくるがさすがに避けるぞ。口から吐いてくるもんだから軌道がバレバレだ。顔を見ていれば容易く避けられるってもんだ。その代わり全方位ブレスは避けられないけど……
ここから中盤戦ってとこか。ホワイトドラゴンめ……いつまで余裕かましてられるかな?




