803、白氷龍
近寄りたくはないが近寄らなければ勝負にならない。いつもは魔物に近寄らせない私だが、今回は逆だ。全長五十メイルはあるだろうか、この白いドラゴン……便宜上ホワイトドラゴンと呼ぼうか。
ホワイトドラゴンの方が私より魔力が高い以上、遠距離での撃ち合いになると負けてしまう。そんな大砲の撃ち合いなんかに付き合う気はない。
「クロミ。ドラゴンってあまり接近しすぎると魔法が使えなくなることがあるから気をつけろよ。」
「分かった。てかそこまで近寄る気ないしー。」
「それからドラゴンを挟んで真反対に位置しないようお互い気をつけよう。」
「分かってるしー。そんじゃ行っくよー。正直うちの魔法じゃ陽動ぐらいしか役に立たないと思うしー。ニンちゃん頼むよー?」
『キュオオオオオオオオオオオオオオオォォオォ!』
ちっ、そんな全方位に向けた魔声なんか効くかよ。
『降り注ぐ氷塊』
とりあえず上でも向いてろ。その間に接近してやる。
きいいぃぃん……
澄んだきれいな音。ドラゴンブレスか。落下する氷塊に向けて放たれた。やはり霧散する私の氷塊。
『ニンちゃん! あれ絶対避けてよ!』
クロミから伝言が届いた。
『分かってる。クロミも気をつけろよ。』
私もまあまあ近くで見て分かった。あれはヤバい。なんせ氷塊がさらに凍らされて霧散したんだからな。意味が分からん……
『徹甲連弾』
いけ。私の徹甲弾。たかが一、二キロル離れていたって命中は必至。なんせ自動追尾だし衝撃貫通もたっぷり乗せてある。
『キギィギャァ!』
ちっ、撃ち落とされたか。だが見えたぞ。徹甲弾は凍りつき自動追尾を無効化され落ちた。つまり霧散することはなかった。
『グギイィ!』
クロミに向けてブレスか。当たるかよ。クロミを舐めんなよ。どうやら下の暗闇に潜り込んで身を隠したらしい。もう私からは見えない。
ならば私はホワイトドラゴンと正対してやるか。くっ……近くで見るとやっぱ大きいな……
『キュオオオオオオオオオオオォォオォ!』
くそ……さすがにこの距離でくらう魔声はキツいな……消音使っとけばよかったが……
格上との戦いでは使えないんだよな。聴覚情報を遮断するなんて危険だからな……
さて困ったな……どうしよう……
どう見ても全長五十メイル超えのホワイトドラゴンだ。でも国王の召喚獣、テンペスタドラゴンのヘルムートに比べれば小さいが……
圧力だってあいつに比べれば……うおっ危ね! 私にもブレスを撃って来やがった。当たり前か、こんなに近寄ってんだから。
ちっ、さすがに近寄り過ぎたか。大きな口を開けて襲って来やがった。ドラゴンの牙はヤバい。私の自動防御でも防げる気がしないんだよな。だが、そんな大雑把な口撃が当たるかよ。
『徹甲弾』
真上から脳天を目がけてぶち込む……が、やっぱ無傷かよ。
『キュオオオオオ!』
ふん、そんなまっすぐなブレスなんかくらうかよ。いくら何でも牙や爪が当たる範囲になんか近寄る気はないからな。
『ギィイイイイ!』
おっ、クロミの魔法がちくちくとホワイトドラゴンに当たってるな。そのせいかこいつイライラしてるっぽい。見事な陽動だわ。ダメージはなさそうだけど……
『超圧縮業火球』
逃げながら撃ち込んだ。寒さには強そうだが高熱にはどうかな?
爆煙がすごいな。何も見えない……おっ、クロミからレーザーのような追撃がいってる。まだ煙が晴れてないのに当たるか? いや、知ったことじゃない。私もやるぜ!
『徹甲五十連弾』
ふふ、昔はこの魔法を使うと頭が痛くなったもんだが……まだまだいくぜ!
『徹甲五十連弾』
まだまだぁ!
『轟く雷鳴』
超寒い時って雷の魔法がよく効きそう。でも実は通りが良すぎて効かないとか?
いやいや構わん。まだまだぁ!
『降り注ぐ氷塊』
まだまだ! ひたすら落としてやる!
『グォゴオオオオオオオオオオオオオオ!』
ぐおっ……!?
何だ今の……
あいつを中心に魔力が破裂した? さながら全方位ブレス? 一発で私の魔法がかき消された? そして煙が晴れた。しかも、私の自動防御が凍りついている? くそ……
見えた。
ちっ……無傷かよ……
くそが……化け物ドラゴンめ……




