758、謎の施設
ここを出る前に確認しておくこと。
それは謎の施設のチェックだ。溶鉱炉みたいだったりただの立方体だったり。なぜ死に損ないだったジュダがそんな立方体から出てきたのか。確認しておかないとな。
ちなみに壁際にずらっと立っていたムラサキメタリックどもは全て倒れている。偽勇者の肉体のスペア的なやつだったんだろうか?
「というわけでクロミ。まずはあの立方体のやつから確認してみてくれる?」
「別にいいよー。じゃあ金ちゃんはドロガをしっかり見といてねー。」
ドロガーはジュダに洗脳されたようだったが、奴が死んだ今となっては正気に戻ったんだろうか?
「分かったわ。気を付けてね?」
「楽勝だしー。」
「ガウガウ」
「カムイも一緒に行くってさ。」
「ほんとー。狼殿ありがとねー!」
ちなみにコーちゃんは私の腹の上で丸くなっている。ありがとねコーちゃん。
「ピュイピュイ」
見たところ、あの立方体に出入口はない。ジュダが出てくるところは見た。外に向かって扉が開いていたはずだ。
「ニンちゃーん! これ開かないよー!」
「がんばれ。」
そんなこと言われても私は身動きできない上に魔法だって使えないんだからさ。どうにもできない。だからクロミに頼んでんだよ。
「んもー! そんじゃあニンちゃんの真似するし! 後は頼むし!」
『魔力廻天』
『統魔絞集』
『金操』
おっ、今の音は? 開いたの? クロミやるじゃん。
「クロミ!」
あれ? アレクが駆け寄ったぞ?
「なんて無茶なことを……早く! これ飲んで!」
「もー金ちゃんたら……大げさ……」
「クロミ! 飲んで!」
え、何ごと? よく見えないぞ……
「大丈夫だって……ウチってダークエルフの中じゃ魔力高い方だし……いつまでもニンちゃんに負けてらんない……し……はふぅ……まっずぅ……」
「クロミのバカ! そんなところまでカースの真似しなくたって! いくらダークエルフでも無茶よ!」
「ガウガウ」
カムイは気にせず中に入るのね。マイペースな狼だぜ。
で、クロミは何が無茶だったんだろう……一瞬だけとんでもない魔力を感じたが。
「クロミ! もう寝て! 後は私がやるから!」
「そう? そんじゃ任すし……」
『水……』
よく見えないが、どうやらクロミは頭まですっぽりと水魔法の中に入って横になったようだ。息できるのか?
「カース……クロミさんカースみたいだったよ……目とか鼻とか、耳からも……めっちゃ血が流れてた……」
「マジかよ……」
クロミの奴……一体何をやったんだ?
「ひっ! か、カース! カース来て! お、お願い! 早く!」
むっ、アレクが呼んでる……ならば行くしかない……
くっ……だめか……立ち上がることすらできない……
「ガウガウ」
お、おおカムイ。ありがたいような屈辱なような……襟首を咥えて引きずってるよ……
「アレク……お待たせ……」
あれ? アレクにしては珍しいな。座り込んでどうしたんだい?
「か、カース! あ、ああ、あれ! み、見て!」
ぐえっ……カムイさぁ、もう少し優しくしてくれよ……向きを変えると襟が閉まっちゃうだろ……
ん? 座敷牢かな? 大して広くもない部屋の中に。おや、中にいるのは誰だ?
「ほう。またもやローランドの者か。珍しいこともある。我に何か用か?」
え、誰?
「か、カース……この方……ここの……タイショー獄寒洞の神であらせられるみたいなの……」
は?
顔はモラトリアムで無気力な大学生にしか見えないが……毎日パチンコにしか行ってないようなさ。
でも服装は神っぽい……のか? 白い布を体に巻き付けてるやつ。エクソミスって言うんだっけ? よく見れば小粋なブローチに帯か。お洒落じゃん。
神を肉眼で見るなんて初めてだから全然分からないが……神なの?
「いかにも。タイショー獄寒洞の神、タイショーである。で、何か用か?」
「い、いや、別に用はない、ですけど……神がこんなところで何やってんの、ですか?」
「特に何もしておらん。用がないなら下がって構わんぞ」
そう言われてもな……
「じゃあなぜここにいるん、ですか?」
「ジュダに言われたからだ」
はぁ!? 意味が分からん。アレクと顔を見合わせるが……理解できないにも程があるぞ……
あ、ジュダの野郎はここを神の領域とか言ってたな……まさか比喩じゃないのか?
「な、なぜジュダの言うことなんか聞くん、ですか?」
「はて、なぜだろうな。あの者の言葉には力がある。我はなぜか従ってしまうのだろうな」
意味が分からん……こいつ本当に神か? ただの狂人なんじゃない? 偽勇者みたいにさ……
「心配せずとも我は間違いなくこの迷宮の神である。用が済んだのなら下がってよいぞ?」
心が読まれてる? 本当に神なのか? だが、クロミが必死に開けてくれたんだ。何も収穫なして帰るわけにはいかん……
「それとも望みがあるなら言うがよい。我の眼前にまで来たのだ。叶えてやってもよいのだぞ?」
「え、それって……いいのか、ですか? この迷宮を踏破したわけでもないのに……?」
「妙なことを言うものよ。我の眼前に来たということは、獄寒洞を踏破したのであろう? どうして願いを叶えないことがあろうか」
だめだ。さっぱり分からん……一体どうなってんだ?
でもまあ試しに言うだけ言ってみるか……
「私の体と魔力を元に戻してください。一番元気な状態に。」
「容易いことだ。そら」
へ? え? おぉ? 嘘……マジで?
どこも痛くない。そして魔力は満タン! 嘘だろ!? マジかよ! こんなのあり!?
となると……
「神様! ぜひともお願いしたいことがあります! 当人を連れてきます!」
「そなたの願いはすでに叶えた。他にもいるなら好きにせよ」
まさかこんなことがあるなんて!
兄上だよ! 兄上の腕を! 今なら迷宮を踏破せずに治せるんだ!




