757、戦い終わって
「全員防御だ!」
兄上の必死の声が響く。なぜか間延びしてスローのように聴こえる……
床に転がった魔石爆弾……五つ……
一際大きいのがある……『金操』引き寄せて……魔力庫に収納……できた!
それを見た兄上も……一つに手を伸ば「兄上だめっ!」『鉄壁』
「……ス! ……カース!」
「……ンちゃん! ニンちゃん!」
「……ース! ウリエン様が!」
「……みんな……無事……?」
「カース! ええ! 無事なんだから! カースのおかげなんだから!」
「ニンちゃんやったねー! すごかったよ!」
「カースかっこよかったよ!」
あの瞬間……五つ、いや四つの魔石爆弾が同時に爆発した……とっさに鉄壁を張り、床に伏せて防御を固めたが……間に合ったようだな。ふぅ……もうだめだな。体は動かないし頭は痛い。いや、全身痛い……『無痛きょ』うっぐあぁっ!
マジかよ……くそ……ちょっと魔法を使おうとしただけで激痛が走りやがる……
「兄上は……?」
「お義兄さんは……その……腕が……」
「ツイてなかったねー。どっか飛んでったしー。可哀想だけど傷口もう治しちゃったよー。」
なん……だと?
「アレク、もう一回。兄上の腕がどうしたって?」
「右腕が……失くなってるの……きっとあの爆発で……」
「残念だったねー。腕が見つかれば治してあげられたんだけどねー。吹っ飛んだってより消し飛んだって感じじゃなーい? そりゃあ全員で探しても見つかんないよねー。」
「ざけんな! ほんとに探したのかよ! 隅から隅まで! 兄上の腕を何だと思って……思って……」
くっ……私にそんなことを言う資格なんかない……しかも急に泣けてきた……嘘だろ兄上……兄上の右腕が……
「ごめんなさいカース! ごめんなさい! 私が守られてばかりなせいで……ごめん……なさ……」
「いや、アレクごめん。僕にそんなことを言う資格はなかったよ……探してくれてありがとね。」
「当然だしー。誰が治すと思ってんのよー? 治癒魔法が使えないニンちゃんの出る幕じゃないしー。」
クロミの言う通りだ……何も言い返せない。むしろ、兄上の傷を塞いでくれただけでも大恩だ……
「クロミも悪かった。兄上を治してくれてありがとな。それより……兄上はまだ起きないのか?」
「分かればいいしー。ニーちゃんは全然起きてないよー。まあ死ぬことはないんじゃーん? 腕以外はニンちゃんの方がよっぽど危ないしー。」
そ、それもそうか……
「ねえカース、食欲はある? 喉渇いてない?」
「お腹は……空いてないかな。喉は渇いてる……」
「分かったわ! 少し待っててね! 冷たくて美味しいお茶を用意するから!」
あぁ……よく見れば床がもう溶岩ではなくなってる。固まったのか……ほんのり暖かい……
「僕はどんだけ寝てたのかな……」
「二時間ちょいだよ。本当にお疲れ様。私、見てるだけで何もできなくて……」
アーニャにも心配させたよな。
「いや、アーニャが無事ならそれで……あれ? 兜外したの?」
「それがね……カースが戦ってる最中に流れ弾が何発か当たって……で、さっきの爆発の衝撃で割れちゃったみたいなの……危ないところだったわ……」
ジュダの……流れ弾?
あの野郎……もしかしてアーニャを狙って? 正面から私を狙っても防がれてばかりだから、アーニャの兜を壊せば……洗脳が効く……
さすがに考えすぎか? いくらアーニャを動かしたところで……
「カース! お待たせ。」
「ああ、ありがとね。はぁあ……おいしいよ……」
キンキンではない。ほどよく冷えて、かすかな苦味を感じる。なのに体にすっと沁み渡るかのようだ……美味し……
はぁ……これならいい気分のまま寝れそう……
「うっ……ううっ……」
「あっ、兄上! 兄上大丈夫なの!?」
「カース……そしてみんな……無事か……良かった。」
「そんなことより兄上! 腕が! 右腕が! ぐすっ……!」
「バカ……泣くなカース……腕が失くなって困るのはお前じゃない……」
兄上……
「ううっ! 兄上ぇ! 兄上の腕がぁ……」
涙が止まらない……なんで兄上がこんな目に……
「気にするな。僕が甘かったんだ。カースがやってみせたように、僕にもできると思ったのがいけなかったんだ……できるものならカースが全部収納してるってことにすら気付かないで……はは……近衛失格だ……」
「ぷぷぷ! あはははは! 二人ともばっかじゃなーい? あーおっかしー。」
あ? いくらクロミでも聞き捨てならんぞ? 私はともかく兄上に向かって……
「あっ、そ、そうだわ! クロミの言う通りよ! 問題ないわ!」
アレクまで? ちなみにアーニャに目を向けてみたが分かってなさそうだった。問題ないとは?
「ニンちゃんさー? ここをどこだと思ってるわけぇー? 迷宮じゃーん? 神域じゃーん?」
「あ!」
「やっと気付いたのぉー? てことはニンちゃんなら楽勝じゃーん? よかったねニーちゃん?」
「ど、どういうことかな?」
さすがの兄上も迷宮には詳しくないもんな。
「いやー大した話じゃないよ。ここを踏破すればここの神が願いを叶えてくれるんだよ。つまり兄上の腕は治るってことだよ。」
神ならそれぐらいできるだろ。アーニャだってしっかり治してくれたんだから。
「踏破……か。だが、ジュダを仕留めた今、そんなことをしている場合ではないだろう。」
「だめ。これが最優先だよ。外にはそこら辺で適当に赤兜でも捕まえて手紙を持たせればいいよ。」
「そうか……カースが言うならそれでいいだろう。だが、お前はもう動けるのか?」
「はは……無理。しばらく無理だね。一体どんだけ時間がかかるか分かったもんじゃないよ。」
だから一度外に出てしっかり休んで再挑戦ってのも悪くはないんだよな。ここまでの道順はだいたい分かるし。
「一度外に出てから出直すべきね。万全のカースなら迷宮の踏破なんて難しくないと思うわ。」
「そうだね。そうしようか。幸いここは三十一階だしね。すぐ出られるね。」
もしかして……だからジュダ達はここを根城にしてたのか?
それはまあいいや。それよりも、出る前にもう少し確認しておくことがあるんだよな。




