756、極限まで薄く
魔力ポーション『純松』に通常ポーション『松位』を飲む。
ふぅ……まずい。
よし。爆炎が落ち着いてきたか。ジュダの野郎が考えなしに魔石爆弾を使いまくるもんだから部屋中がますます溶岩だらけじゃないか。ドラゴンブーツ履いててよかった。
さぁて……そんじゃあ真のごり押しってやつを見せてやるかな。野郎の驚く顔が見たい気もするが、どうせそんな余裕すらなくなるだろうさ。
イメージは……薄く、魔力をごく薄く凝縮した風斬……母上のように。ただし、そこに込める魔力は……絶大……
ちっ、撃ってきやがった。下手くそが、当たるかよそんなの……
気を取り直して……
そんなイメージに乗せて使う魔法は……
『金操』
「なっ……何をした?」
兜を外しただけさ。さんざんアーニャの兜を着脱したからな。手動で外すのと同じ手順を金操でやっただけだ。
いくら絶対魔法防御だろうが……それ以上の魔力でごり押しすれば破れるに決まってる、と見たが……賭けに勝ったらしいな。
『榴弾』
無防備な頭部を全方位からベアリング弾で狙う。
「くっ!」
『金操』
「あがががががががぁぁぁぁあーーーー!」
頭を抱えて床にうずくまったか。だから籠手を外してやった。
ジュダの両腕はミンチと化した。おまけに隙間から頭に何発か当たったな。残念ながら致命傷ではないようだが。
『徹甲弾』
死ね。
「効くかあああぁぁぁぁああ!」
ちっ、ギリギリで換装を使いやがったか。また新品の純ムラサキメタリック。
こっちもやばいってのに……
『金操』
『榴弾』
「いぎゃああああがぁぁぁあああーー!」
頭をしっかり抱え込んでやがるもんだから脚部の装甲を外した。おまけに、その瞬間に合わせてベアリング弾を叩き込んだ。もう立っていられまい。
くっ……頭が痛い……目も霞むし耳もおかしい……さすがに無茶しすぎたか……ごふっ、息まで苦しくなってきた……
絶対魔法防御はいささか誇張かも知れないが……まんざら嘘じゃないようだな……
だが、もう少しだ……こいつさえ殺せば偽勇者なんて怪力バカでしかない……
『水操』
部屋中の溶岩で……ジュダを覆い尽くす……
焼けて死ぬ前に、溶岩に溺れて死ねよ……
魔力ポーションもう一本……
『鉄壁』
追い詰められたジュダはきっと使ってくる。後先考えずに、最高品質の魔石爆弾を。
だからこうして部屋を仕切り、あいつを一人だけの空間に密閉しておく。勝手に一人で自爆してろ。
「みんな! 一ヶ所に集まって防御を固めてて! ジュダが最後の悪あがきをするはずだから!」
「僕のことは気にするな! カースの言う通りにするんだ!」
「げっへっへへぇ……俺から逃げれるわけねぇからよぉ……優男ぉぶち殺したら今度こそ魔王ぉ……てめぇの出番だぜぇ!」
『金操』
「はあぁっ!? 何だと!? 俺の兜が!?」
純ムラサキほどじゃない偽勇者の兜なんぞ……その気になればどうにでもなるんだよ。かなり苦しいけど……
『岩断ち』
おお……兄上すごい……
一瞬の隙しかなかったのに、偽勇者の頭がべっこり真っ二つじゃん。不動が首の下まで食い込んでる。
「カース! カースカース! またこんな無茶して! クロミ! 早く! 早くカースを治してあげて!」
「うっわー。ニンちゃんそれヤバいよ? 普通に頭が破裂して死ぬやつじゃん。やりすぎぃー。目と耳と鼻から血が垂れまくってるしー。」
知ってるよ……同時にいくつも魔法を使うと頭が破裂しそうに痛むからな。今回はそんなのとは比じゃないほどの魔力を爪の先ほどしかない隙間に詰め込んだからな。そうでもしなければ純ムラサキの絶対魔法防御は突破できなかっただろうさ。
ここまでするぐらいなら兄上から不動を返してもらった方がいいとも思いはしたけどね。でも、いくら兄上だって不動がなければ偽勇者とまともに打ち合うのは難しいからな。
魔力ポーションを飲もう……今日何本目だっけ……
「はいニンちゃん治ったよ! 治ったけどこれもうヤバいよ? 今日はもう使わない方がいいし!」
「ありがとよ。そのつもりなんだけどね。このままジュダが死んでくれれば……」
密閉した鉄壁が壊れる気配がない。あいつが死んだのならクリムゾンドラゴンの魔石爆弾が爆発しそうなものだが……
両脚を剥き出しのまま溶岩で覆ってやったんだぞ? 脚は大火傷か焼失で済んだとしても、溺死、もしくは窒息死は免れないはずだが……
「ピュイピュイ」
ジュダが生きてる? 見てきてくれたんだね。そしてコーちゃんが噛んでないってことは……あいつまた換装使って全身固めたってことか。そうなると……来るか……
「全員! 魔法防御を全開で! しっかり固まっててよ!」
周囲に鉄塊を出しておく。爆風や閃光の直撃さえなければ、このメンバーなら全員生き残ることは難しくない。
『鉄壁解除』
部屋を仕切っていた鉄壁を解除すると……
いた。あの野郎……ふらふらと立ってやがる。
「兄上、不動をぶん投げて。あいつを貫くつもりで。」
「分かった。任せろ。」
『身体強化』
『風纏』
おっ、珍しいな。物体に風や火を纏わせる魔法か。ああやって狙いを外さないようにコントロールするってわけか。
「はあっ!」
よぉし! 心臓直撃! 少しめり込んでる! そんならとどめ行くぜ!
『風操』で瞬時に近寄り不動を握り……『火球』
奴の体内に直接魔法を使った。これで完全に終わりだ。鎧のわずかな隙間から奴の肉片が漏れ出てきた。間違いなく死んだな。
「ピュイピュイ」
違う? こいつは別人? なっ!?
『鉄壁』
「ちっ、君も相当しぶといね。いい加減死ねばいいのに。」
「ジュダ……何だそれは?」
魔石爆弾を何度くらっても微動だにしない謎の設備。溶鉱炉みたいなものからただの円錐や立方体みたいものまで意味不明な数々の何か。
ジュダはその中の一つ、立方体の建造物から出てきた。
「君みたいな原始人には想像もつかないものさ。まあ神の領域とでも言っておこうか。さあ第二ラウンド、いや、最終ラウンドといこうか、なぁ!」
『鉄壁』
『金操』
ライフルもいくつ持ってんだよ……いくら撃っても意味ないってのによ。鉄塊ミサイルで牽制……そして……
『金操』
「ふふふ、もうその手は効かないよ。外から取り外しできないようジョイント部分を壊しておいたからね。もう換装以外で着脱不可能なのさ!」
「ふん……そうでもないぜ?」
「カース! 無茶はやめて!」
「そうだしニンちゃん! 全員でぶち殺せはいいじゃん!」
「うるさいなぁ。君らにはなるべく傷つけないつもりだったけどさぁ? あんまり反抗的だとお仕置きしちゃうよ?」
「今から死ぬお前には無理だな。」
『金操』
ただし、魔力全開だ。全部出し尽くす。
「ふ、ふふ、無駄無駄無駄ぁ! 絶対魔法防御だってのが分からないのかぁ!」
「俺が怖いんなら逃げても……いいんだぞ……」
そんな遠くから当たりもしないライフルなんぞ撃ってないでさ……
「ふざけるな! 誰が君ごときに! なっ!?」
ほぉら少し動いたな。もう少し……もう少しで……
「くっ! させるか!」
頭を抱えて防御体勢か? 芸のない野郎だ。でも遅いんだよ!
「カース! そのままやれ!」
お前には味方がいないようだが、私にはたくさんいるんだよ!
兄上が奴の背後から両腕を拘束してくれた。さすがの早業。
「くそっ! 勇者ムラサ『消音』……」
そう何度も同じことをさせるかよ。
兄上を振り解こうと暴れるジュダ。胴体にしがみつき必死の形相で腕を抑え込んでくれる兄上。
もう少し……もう少しなんだ……
全開の魔力を……極限まで薄く……細く……
氾濫する大河の水を……わずか一点から鋭く、超高速で撃ち出すように……
『金属操作』
ジュダの兜が……ゆっくりと持ち上がっていく。ますます暴れるジュダ。そんなに頭を振ると……余計外れやすくなるぜ?
『風斬』
奴の顔が見えた瞬間に放った。もちろん後ろには兄上がいるから当たらない角度でだ。
鼻の下あたりから上下に両断。間違いなく即死だ。
ついに……終わっ「いかん! 全員防御だ!」




