755、聖女の意地
「アレクサンドル家をなめてるから……死ぬのよ……」
おっ、やったか。
バルテレモンちゃんの腹からナイフの柄がはえてる。さすがはアレク。ムラサキメタリックをも貫くとは。やるねぇ。
「舐めてんの? こんな短剣が刺さったぐらいで。この程度の……ぐふっ!?」
おっ? 立ち上がったと思ったらまた倒れた。
「あら? まさかこの程度の毒が効いたの?」
「ぐっふっうぅ……ふぅ。毒を塗るなんて姑息な真似するものね……」
「まさか効くなんて思わないわよ……はぁ、ふぅ……それでも貴族なの? 情けないわね……」
「うるさいうるさいうるさい! 死に損ないがうるさいんだよ!」
なんだと?
「アレク、ポーションあるよね?」
「ええ……大丈夫……こんな女に私が負けるわけないわ……」
アレクの息が荒い。外傷は見えないが魔力がかなり減っている。
『換装』
え? マジで? バルテレモンちゃんたらムラサキメタリックを収納しやがった……鎧の下は騎士服かよ。そこそこいいの着てるじゃん。でもそれって無防備じゃん……
『氷弾』
おっ、さすがアレク。隙を見逃さないね。
『解毒』
『治癒』
はぁ? マジで!?
もう傷が癒えている……バルテレモンちゃんマジで聖女なの?
「ふぅ……やっぱりこの鎧がないと楽ねぇ。さぁて高慢女ぁ……ぶち殺してやるよぉ……でもその前に……」
『解呪』
ジュダに近寄って……まさか?
「ジュダ様に何てことを! ふざけんなぁ!」
ふん、無理無理。禁術だぜ?
『解呪』
『解呪』
『解呪』
「どうなってんのよこれ!」
『氷弾』
当然アレクが呑気に待つはずもない。なんせ背中向けてんだから、そりゃあ撃つさ。
『解呪』
『解呪』
『解呪』
それでも続けるのかよ……
『氷散弾』
アレクも容赦ないな。
「あぐっ、ふぅ……くそが……下級貴族のくせに……」
『解呪』
『解呪』
『解呪』
へぇ、やるじゃん。とうとう私の無痛狂心を解呪しやがった。ジュダの分だけだけど。意外だわ。まさかバルテレモンちゃんが自分の身より優先するとはね。
アレクに長々と無防備な背中を晒してまで。
「あー痛かった。やってくれたね魔王君。君もう楽に死ねないよ?」
ジュダが正気を取り戻したか。だが無意味だな。
「げぎゃぎゃぎゃあぃいひぇひぇひひひぃえええええええぇぇーーーー!」
偽勇者は止まらない。おーおー、めちゃくちゃに大剣を振り回してやがる。近寄りたくないねー。せいぜい頑張れ。
『武装解除』
『解呪』
はぁ!?
なんだそれ!? ジュダの一言で偽勇者の鎧が地面に落ちた。そこをすかさず解呪だと? しかも大した魔力も込めてない……つまり、奴の魔法は私より……上手い!?
『榴弾』
「ぎゃびっいぃ……」
「ぎゅにゅうぅびごぉ」
もっと早くこうしてれば良かった気もするが……
バルテレモンちゃんと偽勇者はミンチになった。私の目の前で装備解除なんかするからだ。
アレクの獲物を横取りしてしまった……ごめんよアレク……目で謝っておく。
「あーあ、酷いことするねえ。でもまあ、あんまり問題ないけどね? おーい勇者ムラサキ、起きろよー。」
「ふぅう……何度も何度も舐めた真似ぇしてくれんじゃねぇかぁ……なぁ魔王よぉ?」
壁際に並んでいたムラサキメタリック装備の奴の一人が……また動き出した。くそ……マジで七回生まれ変わるってのか?
まあいい……何度でも殺してやるよ。
「君の相手は僕だよ? 君ごとき偽物がうちのカースに相手してもらえるなんて思い上がって欲しくないな。」
「優男がぁ! まずぁてめぇからぶち殺してやんからよぉ!」
ほう。どういうわけか偽勇者のヘイトは兄上に向いてるっぽいな。たぶん兄上がそう仕向けたんだろうな。助かるわー。
「さぁてジュダよ。色々あったけど最後はタイマンといこうか。嫌なら全員でぶち殺すだけだがよ?」
「ふふっ、タイマンだって? 君やっぱり昭和生まれかい? 間違いなく原始人じゃん。ムラサキメタリックを攻略するのにごり押ししかできないぐらいだもんね?」
知るかよ。勝ちゃあいいんだよ。
今まではアーニャの警護のために控えてもらってたけど……コーちゃん、そしてカムイ。頼むぜ。全員でジュダをぶち殺そう。
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
コーちゃんが姿を消した。きっと隙を見てジュダに噛みついてくれるんだろう。コーちゃんが噛んだらもう終わりだからな。
カムイは普通に私の隣にいる。
『換装』
「いやーやっぱり新品は気持ちがいいよね。言っておくけどこの僕専用の鎧。代わりはいくらでもあるからね。もうさっきみたいな手は効かないよ?」
「好きにしろよ。どうせお前に勝ち目はないんだからさ。せいぜい時間稼ぎでもしてろや。」
「勝ち目がないのは君の方だと思うんだけどね? 無尽蔵な魔力があるみたいだけどさあ、それでも普通は限界があるもんさ。そろそろだと見てるんだけどね? おっとワン公にプレゼントだよ!」
カムイ逃げろ!
また魔石爆弾! カムイにぶん投げてきやがった、が……
『金操』
そのままジュダに叩き返してやった。
ふぅ……こうも密室で大爆発が起きると……耳が痛くなってくるな。
今度こそ……最終局面だ。




