754、無痛狂心
『水球』
それも真っ黒なやつだ。
「だから効かないって。霧散するだけだよ。」
霧散してもいいんだよ。一瞬だけでもてめぇの視界が遮られるならなぁ。
そして、ようやく手元にやってきた。部屋の隅に転がってた偽勇者の大剣。正確には一つ前の偽勇者の大剣か。こんなクソ重そうなのなんて持ちたくないのだが……
バルテレモンちゃんが似たようなことやってんだ。私にできないはずがない。
『身体強化』
『重圧』
自分を重くしないと剣に振り回されてしまうからな。
「ふふふ、正気かい? 君にその『紫耀大剣』が持ち上げ、くっ!」
「避けるなよ。何回も振り回したくないんだから、よっ!」
唐竹から、袈裟斬り上げ……
「くっ、バカな……」
「だから避ける……な!」
「ぎいあっ!」
再び唐竹で脳天を狙ったが……
今度は防ぎやがったか。だが、しっかり傷は付いようだな。左腕の装甲にヒビが入っている。
『榴弾』
一ヶ所傷がついたら……そこ狙うぜ?
「ちいっ!」
ちっ、右手で庇いやがったか。だが……隙だらけぇ!
「死、ねぇジュダ!」
袈裟斬り! 終わりだ!
「死ぬのは君さ! ほらよ!」
くっ、目の前に、魔石爆弾、知るかよ!
死ねやジュ
くそ……どうなった……吹っ飛ばされたか……
だが……手応えはあった……
私が振るった大剣は確かにジュダの肩口を捉えた……肩から心臓まで真っ直ぐ斬り落とすように……
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
起こしてくれたのか。ありがと。もう少し待っててね。すぐあいつをぶち殺して外に出よう。そしたらたっぷり肉を食べて酒も飲もうね。
ちっ、大剣がない。どこに飛んでった?
「コーちゃん、カムイ。アレクとアーニャを頼むね。」
ジュダが魔石爆弾を使うたびに、みんなシャッフルされるかのように吹っ飛ばされるんだからさ。私やクロミは魔法防御がガチガチだからあまり関係ないが、アレク達は……
「死ねよ高慢女ぁ! ちっと私より身分が高いぐらいで調子ん乗ってんじゃねぇ!」
「あなたも貴族の端くれなら口じゃなく実力で来なさい! こんな島国の迷宮まで流れ落ちて何やってるのよ!」
「あんな凡庸下級貴族なんかとつるんで! 無駄なんだよ無駄無駄ぁ! 男は最低でも侯爵家! あんな奴隷上がりとアバズレ気狂いのガキなんか価値ないんだよ!」
『徹甲弾』
はっきりとは聞こえなかったが……うちの両親を侮辱したな? ああ、間違いない。殺そう……
「カース! 大丈夫なの!? さっきの爆発を全部カースが抑え込んでくれたから……」
そうなの? 全然記憶がない……
いかん……アレクの戦いなのに余計な手出しをしてしまった……
「アレク、あの女、きっちり殺しておいてね。」
「当たり前よ。絶対許さないわ! あの女カースのことを……!」
アレクなら勝てるさ。いくら相手がムラサキメタリックのフルプレートだろうがさ。
さて、ジュダは……ちっ、起きてやがるか。
「魔王ぉ……痛いじゃないか……この僕によくもぉ……」
『金操』
「がっ……くそがぁ!」
こいつマジでしぶといな……一立法メイルの鉄塊だぞ? それが高速で直撃してんのにその程度のダメージかよ……
いや、まあそりゃあ鎧の性能が半端ないからだけどさ。
「殺すよ……魔王ぉ……」
「やってみろよ。」
『榴弾』
「効くとでも、っくぬぅ……」
左手が痛いんだろう? 前腕がな。
「終わりだ。もうお前に勝ち目はない。うちの国王に頭ぁ下げに来るなら助けてやってもいいが?」
「ふふふ、何を勘違いしてるんだい? 僕にはまだ切り札が残ってるんだけどねぇ?」
「出せよ。そんなもんがあるんならな?」
「ふふ……その手には乗らないよ? 迂闊に出したらあっさりと奪われてしまいそうだからね。気付いているんだろう? 魔石爆弾の弱点をさ。」
ふぅん……
「それならそれで構わんさ。そんなら、そのまま……死ね!」
『身体強化』
「なめるなぁ! 君が死ね!」
短筒! まだそんなもんを……くっ!
痛ぇ……頬をかすめた! だが……
「おらぁ!」
よし、奴が短筒を構えた右手を蹴り飛ばした。だが、まだまだぁ! 左のローキック! 膝をぶっ壊してやらぁ! ちっ、痛ぇぞ……さすがのドラゴンブーツもムラサキメタリックには位負けか……?
だが、そんなのはフェイントみたいなもんだ。
本命は!
私を殴ろうとでもしたのか? 生意気な右腕をかい潜り、ぶらりと垂れた奴の左手! もらったぁ!
『金操』
直接触って魔法を叩き込む! そして! 籠手を、ぶち壊す!
空いたぁ! これで左手は無防備!
『無痛狂心』
「なっ、何っを……ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーー!」
くくく……左手から無痛狂心をかけてやったんだよ。お前の闘争本能をめちゃくちゃに刺激してやったのさ。
さあ、偽勇者と殴り合え。死ぬまでな。おっと、私は逃げるぞ。
「兄上! そいつから離れておいて!」
「分かった!」
『金操』
鉄塊を操作してジュダをぶっ飛ばしてやった。偽勇者の目の前へと。さあ、どうする?
せいぜい二人で殺し合うといい。くくっ。
「ジュダ様どうしたぁ!? 何やってんだよ!」
「があああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーー!」
よく見れば偽勇者も籠手がぶっ壊れてるじゃないか。兄上にやられたってわけか。じゃあおまけだ。
『無痛狂心』
お互い派手に殺し合え。所詮は装備に頼ってる雑魚どもだ。少しでも魔法が効くなら敵じゃないんだよ。ふぅう……きっつ……
「はぁ……はあぁ……」
「カース、大丈夫か?」
「どうにかね……」
魔力ポーション飲も……今のはやばかった……危うく魔力が空っぽになるところだった……
さすがに無痛狂心は禁術だけあって魔力を食うんだよな……
ふぅ。落ち着いた。
さて、アレクは大丈夫かな?




