751、大混乱
装備は先ほどと同じムラサキメタリックのフルプレート。手にも同様の大剣を持っている。
「さあて、さっきぁ小賢しい真似ぇしてくれたなぁ、おお? 魔王の名が泣くぜぇおい?」
知るかよ。勝てば国軍なんだよ。
「カース、代わろうか。」
兄上だ。頼りになるねぇ。
「任せた。頼むね。」
「ああ。これ、借りるよ。」
「なんだぁ? 逃げんのか魔王ぉ? つくづく情けねぇ野郎だぜ。そんでてめぇが相手してくれんのかぁ? けっ、てめぇみてぇな優男が俺に勝てるとでもっごぼっ……」
「喋ってる暇があるなら避ければいいのに。」
『飛斬六連』
マジかよ……二十メイルは離れてたんだぞ? それを一瞬にして間合いを詰めて……腹を貫いた。私の不動で……そしてそのまま腹の内部に飛斬かよ……内臓ズタズタじゃん。えげつねぇ……
「がぶぁ……クソ……がぁ……おい聖女ぉ……」
「治してあげるから鎧脱ぎなよ!」
「あ、それだめー。」
『深昏睡』
今度はクロミまで。いつの間にそんな所に!? あっさりとバルテレモンちゃんを眠らせてるし。やるなぁ。
「ニンちゃーん。こいつ一応生かしておいたけどー。まだ殺しちゃだめなーん?」
「クロミよくやった。生かしておこう。吐いてもらうことがたくさんあるからさ。」
今となってはその必要もないとは思うが、せっかくゲットした証人だしね。
「あ? ちょっとなーにぃ? ウチのことそんなジロジロみてさぁー。キモいんだけどぉー?」
「くく、いやいや。君があまりにも魅力的なものでね。迷宮の白い壁にその黒い肌がやけに眩しくてね。」
ジュダの野郎なにを言ってんだ? この期に及んでイカれたのか?
「え、そう? えへへ、ウチ黒い? あんた人間のくせに分かってんじゃーん。でもそれ無駄だしー。その程度のしょぼい魔力じゃウチには効かないしー。」
なんだと?
「くく、君はダークエルフだそうだね。さすがにダークエルフを手駒にするのは無理だったようだ。でもね、後ろを見てごらん?」
「はー? へ? 何よドロガ。予定と違うじゃ……んぁんぐっ!」
なんだそりゃ! ドロガーがクロミを刺しやがった!?
『風球』
とりあえずドロガーはぶっ飛ばしておいたが……
「アレク! クロミをお願い!」
「分かったわ!」
『狙撃』
ジュダの野郎、いつの間にかドロガーを洗脳してやがったか……
偽勇者をぶち殺してからと思ったが、これ以上こいつを放置しとけないな……
「効かないよ。本気で来たら?」
知ってるよ。お前はムラサキメタリックで全身固めてやがるもんな。だから今のは目を狙ったんだけどな。生意気に防ぎやがった。
「カース! ジュダは任せたぞ! こっちは僕に任せろ!」
「分かった!」
ちらりと見れば兄上はまた偽勇者らしい大男と対峙している。どうなってんだよ……
「おやおや。見慣れない者がいるねえ。装備からすると……へぇ、ローランドの近衞騎士かい。ということは、もしかして君んとこの国王が自ら攻め込んできたってわけかい?」
さっきからじっと見てたくせに。大物ぶってんじゃねえよ。
「ああ。ドラゴンブレスで天都は壊滅したぜ? お前を呼んでたみたいだけどな。待ってもお前が現れないもんで灰になったぜ? 無能な王のせいで民はいい迷惑だな?」
「ははっ。そんなことしたんだ。さすがに国王ともなると容赦ないんだね。君と違ってさ?」
ちっ、天都が灰になったと聞いてこれかよ。こいつマジで天王失格だな。
だがもういい。
終わらせよう。私だってどうでもよくなることはあるんだからな。
「それはそうと、偽勇者はどうなってんだ?」
こいつはやたら余裕こきたがる奴だからな。せいぜい隙をさらしてくれや。
「ふふ、分からないだろう。僕だって分からな『紫弾』……いさ。ふふふ、今何かしたかい? 効かないって言ったよねぇ?」
はぁ!? ふざけんな! 今の弾丸はシューホー大魔洞でドロガーが集めたムラサキメタリックから作ったものだ。つまりそれなりに高性能なはずだが……
「ふふっ、やはり分からないだろう? それは君が原始人だからさぁ。少しヒントをあげようか。同じムラサキメタリックでもランクがあることは知ってるよねぇ?」
「ああ……」
ローランドの王都で初めてムラサキメタリックを手に入れた時は魔力庫への収納だって比較的容易かったんだよ。それなのにエチゴヤの青紫烈隊や深紫の装備はそれなりに高性能のムラサキメタリックを使ってやがった。高性能、つまり魔力との相性がだんだん悪くなったとも言えるが。
「僕が今着てるこの鎧。これこそが純ムラサキメタリックさ。これぞ本当の絶対魔法防御と言っていいだろうね。つまり、わずかでも魔力が込められた攻撃は一切効かないってわけさ。恐れ入ったかい?」
純ムラサキメタリック? まさか……迷宮の宝箱に入ってたあのインゴットか。通常はあのインゴットから何人分もの装備が作れるって聞いたが……
「そんなわけないだろ。それよりお前、そんなに防御をガチガチに固めてどうやって俺らに勝つ気だ?」
「待てば海路の日和ありって知らない? これだから原始人はねぇ。例えばほら。そっちの金髪の彼女、魔力がしょぼいから簡単に洗脳できちゃったよ。今夜はたっぷり僕にご奉仕してもらうとするさ。」
バカな! アレクがそんなわけ!?
……クロミの介抱をしてる……あがっ!?
「君、バカだろ。僕を目の前にして背を向けるなんてさ。それにしても驚いたよ。ムラサキメタリックの弾丸を防ぐなんてさ。」
防げてねぇよ! 自動防御を貫通する際に着弾点がずれたんだろ。私の自動防御こそ無敵だからな。
くっ、頭部がざっくりイッてないか? めちゃくちゃ痛いし血がすごい……
ジュダぁ……ぶち殺す!
『徹甲紫弾』
「おぶっ、ぐへっ……ふぅー。痛かったよ。吐きそうな程度にはね……ごっふっうぅ……」
くそ、やばい……後先考えないにも程があるぞ私……今ので魔力が残り一割を切った……
一発しかないムラサキメタリックの徹甲弾を、つい撃ってしまったせいで……
だが、分かったことがある。やはり世の中に絶対魔法防御なんてものはないってことだ。
今ので腹を貫通できなかったのはとんでもなく誤算だが、それでもダメージがあるってことは分かった。
つまり、ゴリ押しすれば勝てるってことだ。
問題は私の魔力が残り少ないってことなんだよな……
どうしよう……




