750、魔王 VS 勇者
戦況は互角。奴の大剣と私の不動、武器も互角らしい。ぶち折ってやろうと思ったが刃こぼれすらしない。まあ、こっちも無傷だけどさ。
これはまずいな……早めに勝負を決めないと。もう一度ドロガーの方をちらり。うん、ドロガーにはきっちり伝わってるな。頼むぜ? お前が頼りなんだからよ。
「おらぁ! いい加減あきらめろやぁ!」
「そんなでけぇ体しておいて鎧がねぇと何もできねぇのかよ! この臆病者が!」
言いがかりだけど、こんなのは言ったもん勝ちだからな。
「てめぇみてぇなヒョロガキにゃあこの鎧は着れねぇからよぉ! そうやって文句だけ言ってやがれ!」
「つまり鎧がなけりゃあ俺には勝てねぇってことだな! さすが偽勇者だなあ!」
「あぁん!?」
おっと隙あり。大振りになったぜ?
『散弾』
兜に覆われた頭部でも、目の部分は開いてるからな。
「ちっ、痛ぇじゃねぇか! 小賢しいんだよぉ!」
くっ、眼球には当たらなかったか。ムラサキメタリックに覆われてるからホーミングでもズレるんだよな。だが……顔に意識が集中したろ? ほらそこぉ!
「うぐっ!」
フルスイングで膝横をぶっ叩いてやった。効くだろぉ?
「逃げんなぁ!」
それでも大剣を振るってきやがる。少し遅かったな。もう届かねえよ。
「甘ぇぜ魔王ぉ!」
なっ!? 大剣を!? 投げ、危ね!
「当たるかよ!」
落ち着いて不動で叩き落とす。そして備える……あれ? 来ないな。剣を投げて隙を作り、その間に間合いを詰めてトドメを刺す。私がよくやる手段なんだけど。
「てっきり逃げると思ったんだけどよぉ? 生意気に叩き落としやがったかよぉ。そんじゃあこいつも叩き落としてみろや? 避けたら後ろの女が死ぬぜぇ?」
ふん、ムラサキメタリックのナイフか。さすがにそのサイズは叩き落としにくいな。だが、その必要はないんだよな。
『徹甲弾』
距離を開けたら私に有利だってのに。ぶっ飛べよ。ナイフを投げさせる隙など与えるわけがない。
『風操』
偽勇者の手元から離れたナイフ、そして大剣を……隅に寄せておく。本当は投げ返したいがムラサキメタリック製だからな。寄せるだけで精一杯だ。
さて、そろそろ……
『風球』
私の背中にぶち当てる!
『螺旋貫通峰』
死ねや!
「ぐうああああぁぁ!」
無駄無駄ぁ! 掴めるとでも……ちっ『火球』
くそが! マジかよこいつ……避けもせず掴み取ろうとしやがった……
胸を貫くつもりだったのが……ヒビを入れるだけで終わってしまった。だから不動の先端から、奴の胸元に直接火球をぶつけてやったのだが……
「はぁーはっはっはぁ……げはぁ……味な真似してくれんじゃねぇか……もう一センチ深く入ってたらてめぇの勝ちだったぜ?」
不動をとられてしまった……離して逃げなければぶっ叩かれて終わりだったからな。
「ほお? ふん、へぇ。こいつぁえらく扱いやすい棍じゃねぇか。こぉーんないい物持ってやがるとはよぉ? 魔王のくせに生意気だぜぇ!」
軽々と、巧みに振り回しやがる……
すり足で後ろに下がる。
「おいおーい。逃げんじゃねぇよ。それでも魔王かぁ? そぉんなに俺が怖いかぁ、んん? この勇者ムラサキがよぉ?」
「く、来るな……」
「くくっ、くくく。くぁーっはっはっはぁ! やっと俺様の怖さが分かったようだなぁ? 魔王は勇者に勝てない。これぁ常識だぜぇ? 今ごろ分かっても遅いけどなぁ?」
「や、やめろ……」
「おいおいおーい。それでもローランド中に名前が売れてるっつー魔王かぁ? せめて最後ぐれぇ潔くしろやぁ? 武器を奪われた程度で情けねぇなぁ?」
「やめろぉ! 来るんじゃねぇ!」
「ぎゃはははははははぁ! 心配すんなぁ! なぶるような真似ぁしねぇさぁ! 一撃でぶち殺してやんよぉ!」
偽勇者が軽やかに不動を振り回し、私の脳天を打ち砕こうとする。ふふっ、かかったな。
『火球』
「効くかぁ!」
知ってるよ。ただのブラインドだ。今の隙に少しだけ右にずれる。そうするとドロガーが。
「よっしゃあ!」
ボーラを投げた。命中。偽勇者の足に絡みついた。もう動けまい。ロープを切ろうにも刃物もあるまい。
「むおっ!?」
『浮身』
『風操』
不動を返してもらおうか。
「てめっ!」
「まだだぜぇ偽勇者よぉ!」
ドロガーがさらにボーラを投げる。今度は上半身、左腕と胴体を絡めとった。終わったな。
「じゃあ死ね。」
『螺旋貫通峰』
「くそがぁぁぁぁ魔王ぉぉぉおおおおおおおーーーー!」
『火球』
終わりだ。鎧を貫いて内部に直接火球を放った。黒焦げミンチってとこだろう。
「ありがとよドロガー。よく分かってくれたな。」
「そりゃあ分かるぜぇ。あの手の怪力バカには俺のロープが超有効だからよぉ。」
「見事だったよカース。特に相手の油断を誘うところなんかさ。本来は自分が優勢な時ほど気をつけないといけないよな。」
さすが兄上。ちゃんと見てるね。
「兄上もありがと。」
『身体強化解除』
ふぅ……疲れた……そして痛い……
「さあてジュダよぉ。どうするんだ? まだ抵抗してみるか?」
「ははっ。もしかしてもう勝ったつもり? おーい、勇者ムラサキ。起きろよ。」
何?
「ふうぅ……ちいっとばかり油断しちまったぜ……よぉ魔王。今度こそぶち殺してやんぜぇ……」
壁際にいたムラサキメタリックの騎士が……ゆっくりと動き出した……




