734、二十一階の安全地帯
二十一階の安全地帯に到着。地図があると楽でいいね。あいつら赤兜のくせに分かりやすい地図描いてるじゃん。
「……と、いうわけなんだ。」
赤兜から集めた情報をアレク達にも聞かせておく。情報共有は大事だもんね。
「やっぱりあの時の偽勇者なのかしら……私は直接見てはいないけど……」
「分からないね。でもまあこっちには兄上もクロミもいるし。どうにでもなると思うんだよね。ジュダがあとどれぐらい魔石爆弾を持ってるかも気になるけど。」
むしろそっちの方が危険なんだよな。私に使った魔石爆弾がドラゴンの魔石製なのかどうかも気になるし。あの時はてっきりあれこそがドラゴンの魔石製だと思ったけど、落ち着いて考えてみればあれだけの至近距離なのに防御できたんだよな。私ちゃんと生きてるし。てことは違う可能性だってある。ジュダの手持ちの中で最高品質でない可能性が。
「てかさー。どうでもよくない? どーせニンちゃんの敵じゃないってー。そんなことよりウチお腹すいたしー。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
あらら。コーちゃん達も腹へったのね。私もだよ。
「じゃあ私が何か作るわ。カースはアーニャの鎧を脱がせてあげて。」
「いつもありがと。頼むね。」
アレクはこの場で一番身分が高いってのに、いつも積極的に動いてくれるよなぁ。ほんといい子。
「じゃあウチはその間に狼殿を洗ってあげるしー。」
「ガウガウ」
おおー。クロミ気が利く。
「僕は装備の手入れだな。」
さすが兄上。
「そうなると俺ぁ入口の見張りかよ。でもどーせクロミも魔王もきっちり警戒してんだろぉ?」
「ウチ? してないしー。ニンちゃんがちゃーんとやってるしー。」
やはりさすがクロミ。私が『範囲警戒』を使っていることはお見通しか。いや、普通に魔力を感じとっただけだな。めちゃくちゃ微細な魔力なのに。やるなー。
よし。アーニャの装備解除っと。
「はふぅ。カースありがと。何度も手間かけてごめんね?」
「いや、問題ないよ。アーニャこそ窮屈で大変だよな。でも、もう少しの辛抱だからな。」
「うん……ありがと。じゃあ私アレクさんを手伝ってくるね!」
うんうん。みんなそれぞれ自分にできることをしてるんだね。偉いねぇ。ならば私も。
コーちゃん、散歩行こうか。
「ピュイピュイ」
「兄上、入口の辺りまで出てくるね。」
「ああ分かった。気をつけてな。」
範囲警戒に反応があったんだよな。たぶん魔物じゃない。そもそも赤兜の残党がこの安全地帯を目指すのは当然だよな。外への出口には私がいるはずなんだから。
かと言って今さらこの階層にいる程度の赤兜に吐かせる情報なんかないしな。今の私はなぜか寛大モードだし。
さて、洞窟の内部には『消音』を使ってから……
『おい! 聴こえるか赤兜! もう二十一階の入口は固めてない! さっさと出ていっていいぞ!』
これでよし。ここで休憩できなくなったのは痛手だろうが、それでもノーリスクで外に出られるのは大きいだろ。
あれ? なのになぜこっちに近付いてくるんだ?
『遠見』
ついに目視できる位置まで来てるし。二人か。さてはさっきいち早く逃げた奴らか?
『それ以上近寄るな! 何か話があって来るんなら武器と兜を収納して、両手を挙げたまま歩いてこい!』
無視かよ。平然と歩いてきやがる。
『警告だ。こちらの言葉に従う気がないなら殺す。それでもいいなら近寄ってこい!』
えぇー……何なのこいつら? やはり平然と歩いてくるし。正気? 他に伏兵でも……「ピュイピュイ」うん。やっぱいないよね。二人だけだよね。とりあえず……
『水球』
まず一人。たちまち氷に囚われた。それを見て慌てて逃げるもう片方。何がしたいんだ?
『水弾』
ちょっと気になるから足元だけ。まさかこいつらもこんな下級魔法で身動きとれなくなるなんて想像もしてなかったんじゃないか?
おっ、剣で氷を斬り裂いたか。やっぱムラサキメタリックの剣は切れ味いいね。でも残念。いくらでも撃てるんだよな。
「よう。せっかく見逃してやるってのに何をわざわざ寄ってきたんだ?」
『水滴』
剣を持つ腕ごと凍らせた。正確には水をかけただけなのだが。
「黙ってないで何とか言えよ。俺に何か用でもあんのか?」
「き、貴様など知らぬ……」
あれ? さっき吐かせた赤兜は私のことを知ってたようだが。ちゃんと魔王って知ってたぞ? ああ、でも顔は知らないみたいだったか。
「俺が魔王だ。それでも知らないか?」
俺が魔王だ……このセリフめちゃくちゃかっこよくない? 舞台演劇に使えるレベルじゃない?
「なっ……き、貴様がローランドの!?」
おお、よかった。知ってたのね。
「で、何か用があったんじゃないか? せっかく見逃してやるって言ってんのによ。」
「あそこまで安全地帯に近寄らせまいとするからには……戦力がないと思ったまでだ……」
ははぁ……そんなこともあるのか。言われてみれば納得。相手が弱いと見ればとことん行くってわけね。根性がそこらのチンピラじゃん。ほんと赤兜ってピンキリだよなぁ。
ピキリ
「で、適当に皆殺しにして略奪でもするつもりだったか。女もいれば適当に犯すなり売り飛ばすなりよ? それが相方をあっさり殺されたもんだから逃げの一手か。赤兜らしいよなぁ。」
ピキッ
「ちなみにあの中には今タイプの違う三人のかわい子ちゃんがいるぞ。惜しかったな。もう少しで天国だったんだけどな。では最後のチャンスをやろう。兜をとれ。そしたら命は助けてやる。」
「し……」
し?
「死ねぇぇぇぇええええ!」
「はい残念。」
「いぎっゅっ!? なっ、なんを……けけっ……死ねっだら死ねぇええええ! つってんだらぁぁああああ!? がぁこらぁ! ってんだろぁ逃げんなぅばぁたがぁあひひひひひひひひひひひひひひひひひひぃぃぎひひゃひゃひゃひひひっひひひっひぃ!」
うーん。やっぱ赤兜はこうでないとね。敵ってのはゲスがいい。自力で氷をぶち破ったのはいいが音までは隠しきれなかったようだな。不意打ちのつもりだったようだがバレバレだ。あっさり避けてやったぜ。
しかもコーちゃんに噛まれちゃったね。あっさり死ねた方が幸せだったろうに。あーあ。
「ひゃひゃひゃひゃひゃああああっ! てめっどこってんだぁこらぁおおこらぁにげてんっだらねぇぞぁおおひゃひゃひゃひゃあああはははへへへへへへへへへひひひひひひヒィぃぎぃ!」
無敵の鎧でもコーちゃんから見れば隙間があるもんなぁ。こいつはこのまま死ぬまでここら辺で荒れ狂うんだろうなぁ。あ、もしかして死んだら死んだでアンデッドになるのか? でもムラサキメタリックを装備してるしなぁ。どうなんだろ。気になるなぁ。
まあいいや。もう用は済んだ。ほんっとバカな奴ら。スルーしてれば無傷で帰れたってのにさ。
さぁて帰ろ帰ろ。アレクの料理が待っているからな。あー腹へった。




