710、ジュダの事情と情事
なるほどね。よくよく聞いてみれば、こいつ番頭になる前はジュダの太鼓持ちもしていたのか。エチゴヤ側の窓口的な意味もあったのね。思わぬ情報源ゲット。大事にしないとね。もっとも、こいつの未来は地獄だけどね。死ぬことはないだろうが、生き残った黒幕エルフのように人格を抹消された上で使い潰されるんだろうね。情報を吐いた後でも使い道があるんならの話だが。
「ジュダができることは洗脳魔法と改変魔法、その他に何がある? ムラサキメタリックの精製なんてどうやってんだよ?」
「ぷふぅ、ムラサキメタリックの精製はジュダの主導だ。超高温が必要とか言っていた。イクォマ山の拠点、通称『山荘』では劣化版を作っている。うちの深紫用や親衛騎士団用のやつは別の所で作られているらしい」
ちっ……こいつですら知らねぇのかよ。所詮は太鼓持ちか。
それより超高温って言ったな……? それって具体的には何度なんだ? こいつが知ってるはずもないし……普通は温度の概念がないからな。
私がムラサキメタリックを溶かしたことを考えると五千や六千度どころではないってことか。まあいいや、今はそんなこと気にしてる場合じゃないし。
「後はムラサキメタリックの所有者登録。これができるのはジュダ本人か数人ばかりの職人だけらしい。俺は職人にやってもらった」
所有者登録か……これができればムラサキメタリックでさえ換装が使えるようになるんだよな……
「ジュダの奴は天道宮内の至るところに姿を現すよな? あれは幻影魔法だそうだが、あの魔法陣を描いたのは誰だ?」
「知らん……が、フルカワ家に代々伝わる技術を応用したとは聞いている」
たいして広くもない島国といえどさすがに王家は違うな。初代だって結構すごいエピソードがあるもんな。
ええと、他に聞いておくべきことは……
「ジュダに天道宮以外の拠点はあるのか? 例えばここから東にある島々とかで。」
一応発見できた島は全て潰したが、他にあってもおかしくはないからな。
「知らん……拠点というかジュダが女を囲ってる場所は天都内だけでなく他の村にもある」
それにしてもあの野郎、天王なんだから堂々と後宮なりハーレムなり作ればいいものを。何を気にしてこそこそやってんだか。
あ、そうか。二、三回やって飽きるようなクソ野郎だから後宮なんか作ってたら金がいくらあっても足りないってことか。だからエチゴヤに用意させて後腐れなしで遊んでるってことか? 最低のクソ野郎すぎる……女を何だと思ってやがる……
あ、自分で質問してて気づいた。ジュダって天都に戻ってこないんじゃない? 百キロルもの距離を海に落ちることなく飛び続けるって普通ならかなり大変なはずだ。仮にジュダがそれだけの距離を飛べるとしてもアレクやクロミが待ち構える天都に素直に戻るだろうか? たぶん私のことは仕留めたと思ってるんだろうが……
そうなると……
「拠点じゃなくていい。天都以外でジュダが頼りにしそうな場所はあるか? 疲れた時に身を寄せるような場所だ。」
「ぷふっ、確信はないが一つ心当たりがある。先代王妃アスカ・フルカワが幽閉されている村だ。イカルガから北西に五十キロルほど。山の中に寂れた村がある。そこなら赤兜が百人近くいるだろうし、そこを拠点に各地の迷宮に命令を飛ばして全赤兜をイカルガに戻すこともできるだろう」
アスカ・フルカワか……おそらくクワナの母親なんだよな。もう手紙を届けてやることはできない。ならばせめて手助けぐらいしてやりたいな。だが、幽閉されてるだと?
「なぜ幽閉されてるんだ?」
「知らん。使い道がないからじゃないのか? ぷふぅ、王妃の手前もあって殺しにくいんだろう。だからってイカルガに置いておくと邪魔なんじゃないか?」
「邪魔なら洗脳すればいいだろ。つまりアスカは魔力が高いか何かの理由で洗脳できてないってことか?」
「知らん。そんなところじゃないのか? ぷふぅ、あんな寒村に百人近くも赤兜が配置されてるって話だしな」
なるほど。思えばクワナがヒイズルから逃げてきたのもこの辺に理由がありそうだな。私には食い詰めて逃げてきたって言ってたが、まんざら嘘でもなさそうだな。
「村の名前は?」
「ヤマトゥオ村だ」
さて、どうするか……ジュダは天都に戻ってくるか、それともヤマトゥオ村に逃げ込むか……
他に聞いておくべきことはまだまだありそうだが、時間もない。ここは賭けに出るしかないか……
「乗れ。アーニャも来て。」
鉄ボードに乗せる。そしてギルドへ。
ちっ、ハンダビラの受付嬢がいない。番頭を預けようと思ったのに。
仕方ない。このまま連れていくしかないか。胸クソ悪いから置いていきたいってのにさ……
まあいい。海岸に行こう。
「おお魔王。やっと戻ってきたか。」
「アレクは?」
「ほれ、あっちだ。空から見張ってくれてる。」
今日のアレクはトラウザーズだからな。下からパンツを覗かれる心配はない。が、隠しきれない美貌のせいで冒険者達の集中を乱してしまってるのは罪だな。
『アレク、降りてきて』
おっ、こっちに気付いてくれたね。勢いよく来てくれた。
「カース! おかえりなさい。大丈夫だったようね。」
「ただいま。ちょっと移動するよ。特に何もなかったんだよね?」
「ええ。残念ながらね。」
こんな時間になっても姿を見せないってことは……やはりジュダの野郎はその村に逃げ込んでるのか?
あ、そうだ。
「キサダーニ。こいつを預かっておいてくれ。エチゴヤの第四番頭だ。俺はまたちょっと出てくるから。」
「はぁ!? エチゴヤの番頭だぁ!? こいつがかぁ!?」
「ああ。契約魔法をかけてあるから大丈夫だ。おい、えーっと……クラギ・イトイガって言ったか。俺から別に命令があるまでこのキサダーニに従え。分かったな?」
「ぷふぅ、分かった」
厄介払い完了。これですっきりとヤマトゥオ村に行けるな。
「カース、私ここに残ってもいいかな?」
「え? そりゃあいいけど大丈夫? 一体どうして……」
アーニャがなぜ……
「この人ともう少し話してみたいと思ってさ。大丈夫だって。私は何も辛くなんかないんだから。」
「そりゃあ全然構わないけど……」
いくら無敵の鎧を纏っていても周りは荒くれ冒険者ばかりだからなぁ……
「ピュイピュイ」
おお、コーちゃん。いいの? 助かるよ。
「コーちゃんも残ってくれるって。仲良くしてやってね。」
「うん、分かった。コーちゃんありがとうね!」
「ピュイピュイ」
コーちゃんと一緒なら大丈夫かな。そのおかげか思わずアレクと二人っきりになれるし。
「という訳だからここは頼むぞ。特にこの子、アーニャをな。俺の大事な女だと思ってくれ。」
「分かってる。そもそもこの鎧着てんだから手出しなんざできるわけねえ。」
そりゃそうだけどさ。アーニャだって鎧を脱ぎたくなることもあるだろうしね。
「じゃあちょっとヤマトゥオ村まで行ってくる。もしかしたらそこにジュダが現れるかも知れんからな。」
「なるほどな。あり得るな。まあこっちは任せろ。安心して行ってこいや。」
ドロガーもキサダーニも頼りになるね。国は違えど有力な冒険者とはこうあるべきかな。
よし、それじゃあ行くぜヤマトゥオ村!




