708、第四番頭クラギ・イトイガ
あまりにあっさりしすぎているもんだから、もしかしてこいつ偽物だったり自分を第四番頭だと思い込んでる変人だったりしないかと思ったが、本物で間違いないようだ。相手はエチゴヤだからな。上手くいってるのに怪しく思えるのも当然かな。
さて、何から聞こうか……
「会長がいないって言ったな。なら大番頭の上は誰だ?」
「ぷふぅ、おそらくジュダだ。ユザ様は『あのお方』とか呼んでたが。他に考えられないからな」
納得。そんなとこだろうな。ユザって大番頭か。
「お前はジュダと面識ないのか?」
「ある。ユザ様や他の番頭と一緒にな。うちの拠点に来やがった。その時はそいつがジュダって名だと知りもしなかったが、ぷふぅ」
「エチゴヤの拠点? 天都内か? いつの話だ。」
「ああ、天都内だ。十年以上前だな。まさかあいつが天王にまでのし上がるとは思ってもみなかった。即位パレードを見て驚いたものだ」
なるほどね。むしろ天王の座を手に入れるためにエチゴヤを利用したと見るのが自然か。
「その時何をした? ジュダの目的は?」
「一人ずつ別室に呼ばれたな。後でラウミとも話してみたが内容はそれぞれ違うらしい。俺は女の好みを聞かれた」
「で、本当の目的は?」
「俺らに洗脳魔法をかけることだろうさ。舐めんなってんだ。ぷふぅ……俺らにだって闇ギルドの誇りってもんがあるのによ」
「ならなぜその場でジュダを殺さなかった?」
「……まんまと洗脳されたからだ……」
なんだそりゃ。
「詳しく話せ。」
「ぷふぅ、あいつの洗脳には段階があるらしい。まずは普通の洗脳魔法。こいつは目が合えばかけることができるらしい」
普通に厄介だな……魔力次第だろうけど。
「次は肉体に触れることでより深く洗脳できるらしい。大抵の奴はここまでやれば完全にジュダの信者になるんだとか」
「その次は?」
もちろんあるんだろ?
「ぷふぅ、詳しくは知らないが人間の心そのものを作り変えることができるとか。あいつは改変魔法と呼んでいた。それにかかれば二度と戻らないと自慢げに話してやがった」
なんだそれ? 改変魔法? 聞いたこともない。クロミや母上なら知ってるんだろうか……
「お前はなぜそこまで知っている?」
「ジュダから直接聞いたからだ。そもそもその改変魔法とやらをかけるには魔法の内容を説明しなければならないんだと。その上で合意させる必要があると。だが洗脳魔法がかかってりゃ絶対合意するに決まってるがな、ぷふぅ」
マジでえげつねぇ……あの野郎どんだけ人の心を弄くりまわすつもりなんだよ……
ん? ならなぜ……
「なんでジュダはお前に話した? お前には洗脳魔法が効いてないんだろ?」
「いや、効いていた。ぷふぅ……効いていたし改変魔法だってしっかりかかってる」
意味が分からん。どういうことだ?
「詳しく説明しろ。」
「ぷふぅ、洗脳魔法はなぜか解けた。衝撃的な出来事が起きた場合まれに解けることもあると聞いたことはあるが。しかし改変魔法は今もしっかり効いている。内容はジュダの命令に絶対服従すること。俺が受けた最古の命令はエチゴヤを大きくしろ、だ」
「だからジュダの情報を話すには問題ないってことか。じゃあ次の質問だが……」
あれ? もしかしてクロミが言ってたのってこれか? 魔力の流れがキモいってやつ。私の解呪は魔力の流れを妨げる障害物や体に仇なす異物を取り除くイメージ。しかし、流れそのものが変わってしまっているため障害物を取り除いても意味がないし効果もない……ってことか? 体内の魔力回路そのものを作り変えられてるようなものだから……これってもしかしてゼマティス家の得意分野なんじゃ?
いや、そんなことは後回しだ。
「お前には一緒にローランドまで来てもらう。そして何から何まで全部話してもらうからな。」
後でポーション飲ませてやろう。
「分かった」
「ところでお前は話したら死ぬってことはないのか?」
もう話してるけど。
「ぷふぅ、それはエチゴヤの人間にはかかってないはずだ。一人の人間に二つも三つも魔法をかけるのは大変だと言っていたからな」
なるほどね。あれは洗脳魔法とはまた別か。つくづくジュダは小賢しいな……
「お前は魔石爆弾持ってるか?」
「ああ、ある」
「全部出しな。」
「分かった」
出した瞬間に私が収納。三つか。これなら爆発することはない。
「今のはどの程度の威力だ?」
「人間を十人は吹き飛ばせる程度だ」
しょぼ……
「ジュダが超ヤバい魔石爆弾を持っていることは知ってたか?」
「いや、知らん。俺達は利用されるだけだからな、ぷふぅ」
とりあえずこんなところだろうか。こいつはアーニャの過去を知っているようだが聞く必要はない。というかアーニャはジュダと面識があったってことになる。そしてジュダに改変魔法をくらって心を壊された……ってところか……
過酷な環境のせいかと思ったが、先に壊されていたのだろうか……
ますますジュダの野郎は生かしておけんな。
「ねえ、私のこと知ってるんだよね? 話してよ。」
なっ!? アーニャ……




