705、カースの甘さ
あ。いいアイデアを思いついた。私が一人で探すよりよっぽど。
やってきたのはギルド。あの受付は……いた。
「おはようございます。何かご用ですか?」
「おはよう。緊急だ。天都が壊滅するかも知れん。ハンダビラの情報網でエチゴヤの者を片っ端から探して欲しい。」
この受付嬢はキリカといったか。情報に強い闇ギルド『ハンダビラ』のボスの娘なんだよな。ここでその名を出すのはマナー違反だが、今そんなことを言ってる場合じゃないからな。どうせ他に誰もいないし。
「詳しくお聞かせください」
「実はな…………」
気が逸るが、ここはきっちり説明しないとな。
「と、言うわけだ。魔石爆弾を所持しているのはエチゴヤの可能性が高い。ジュダから爆発の指令が出る前に見つけないと大変なことになるかも知れん。」
問題は見つけても殺してしまったらアウトなんだよな。よく今まで天都は壊滅しなかったもんだわ……
「お話は分かりました。しかしながらうちの者の協力は望めないでしょう」
「分かった。無理ならいい。最悪の場合俺は仲間を連れて逃げればいいだけだからな。忠告はしたぞ。」
「お待ちください。うちの者は無理でも私は動けます。もう少ししたらグルドも来るでしょう。他の者は皆、すでに地下に潜っておりますので」
ああ、そういう事情ね。
それよりグルドって誰だっけ……あ、思い出した。解体の責任者だったか。ギルドの幹部だよな。つーか闇ギルドのメンバーがギルドの幹部とは……ヒイズルってだめだなぁ。
「何事? 誰かの命でも狙ってんのか? いや、別に言わなくていいけどさ。」
ただでさえ動きの見えない闇ギルドの者が地下に潜ると……同じ組織の者ですら動きが分からなくなるってことね。
「私にも分かりません。この命令を下したのはボスである母なものですから……」
「別にいいさ。後は任せる。俺は治療院周辺を警戒しとくから。」
「お知らせありがとうございます」
無駄足……ってこともなかったか。プラマイゼロってとこだろうか。
そして再び治療院へ。
「度々すまんな。奥に用がある。入らせてもらうぞ。」
「女性が寝てんだからさー。少しは気を使ってよねー」
「ああ、次から気をつける。」
そんなこと言ってる場合じゃないからな。
「ガウガウ」
おおカムイ。起きて番しててくれたんだな。あら、アーニャは寝てるか。そりゃあ相当疲れただろうからな。だが、今はそんな場合ではない。
『落雷』
ごく軽いやつだ。
「うひゃう! なっ、なにぃ!?」
「アーニャおはよ。よく寝てるところを悪いな。鎧を着けてくれるか。そしたらまた寝ていいから。」
「あ、カース……ごめん、私寝てたね……」
「いや、いいんだよ。でも今はちょっと危ないんだ。その鎧さえ着ておけば少なくともアーニャは無事だからさ。」
「う、うん。分かった。その、手伝ってよ?」
そんな上目遣いで言わなくても手伝うに決まってるよ。
「ううーん……何ぃーもぉー……」
微細な魔力にも反応しちゃったか。さすがはダークエルフ。
「具合はどうだ? どこか痛くないか?」
「クロミさん大丈夫!?」
「おっはー……はぁー……別に痛くなんかないしー……」
ん? なんだか機嫌が悪いな。あ、分かった。
「このまま寝ておいてもいいぞ? 後は俺がやっとくから。」
「もう起きたし……ドロガは……?」
「天道宮に行ったぞ。残党をぶち殺しにな。クロミも行くか?」
「残党? 興味ないし……それよりあいつを殺しに行きたいんだけど……」
やはりそうか。
「あいつ? 天王ジュダだな。それならいい知らせがある。」
「なぁーにー……?」
少し面倒だがクロミにはきっちり動いてもらわないといけないからな。
「と、言うわけさ。だからジュダを先に見つけてくれてもいいし、魔石爆弾を持ってそうな奴を見つけてくれてもいい。」
「ふーん……分かったし。てかニンちゃんさー。考えが甘くない?」
「ん? 何のことだ?」
私の考えが甘いのはいつもだろう。
「例えばさー。転移の魔法でいきなりその魔石が現れるって場合もあるしー。他には鳥が持ってくるってことだって普通じゃん? 海の魔物が咥えてくるかも知んないし。正直守る側としてはお手上げっぽくなーい?」
なるほど……そりゃそうだ。あいつら鳥を上手く使ってやがるもんな……
「さすがクロミ。頼りになるな。じゃあどうすればいいと思う?」
「だからニンちゃんは甘いんだって! ウチらだけ逃げればいいじゃん! そんなの当たり前だし。確かにあいつにはムカついたけどぉー。明らかに逃げた方が早くなーい?」
「あ、それ正解。と言いたいところだが残念。クロミは逃げてもいいけど俺は逃げられん。できればアレクやアーニャも連れて逃げて欲しいけど。」
「ちょっとカース! クロミさんの言う通りじゃない!? 逃げようよ!」
私もそう思う。問題はここで逃げても終わらないってことなんだよ。
「例えばクタナツに帰ったとしよう。そしてみんなで平和に暮らしたとする。するとある日突然街で大爆発を起きて全員死ぬ。生き残っても街が更地になってしまえば襲ってくる魔物に対処できない。だから今、ここでジュダを殺すしかないのさ。」
「もーニンちゃんのバカぁー! そこまでは来れてもウチらの村には絶対来れないし!」
「それはそうかも知れんが、正直分からん。分からんからやるしかないんだよ。逃げるんならアーニャを頼めるか?」
私だって本当はさっさと帰りたいんだけどなぁ。でもジュダの野郎ってバンダルゴウに行ったことあるみたいだし。それならクタナツに現れても不思議ではない。いくら私でも故郷を丸焼きにされる危険は放置できないさ……
「私は……残りたい、かな……だめ?」
「いや、アーニャがそう判断したなら構わないさ。クロミは?」
「もー……仕方ないから付き合ってあげるしー。ドロガが死んだらつまんないしー。」
結局それかよ。クロミも乙女ってことかねぇ。
「じゃあクロミはどう動くのがいい?」
「うーん。じゃあ狼殿と一緒に動いていい? 魔法陣が気になるんだよねー。もしかしたら何か見つかるかも知んないしー。」
「分かった。クロミなら危険なこともないだろ。でも気をつけてくれよ? カムイもそれでいいか?」
「ガウガウ」
「分かってるしー。ニンちゃんこそ気をつけてよー? 黒ちゃんもいるんだしー。」
分かってるさ。アーニャと二人で動くことになるな。さすがにここに置いておくわけにはいかないからな。
「クロミさん気をつけてね。」
「そんじゃ行ってくるし。何かあったら適当に合図するしー。そんじゃねー。」
「ガウガウ」
魔法陣か……言われてみればそこら辺に偽装した魔法陣なんかがあればジュダはいつでも幻影魔法で姿を見せることができるしこちらの情報を見ることもできる。下手すりゃマジでいきなり魔石爆弾が送られてくることだって……
クロミに話してよかったわ……




