686、謎の建造物
魔力の流れは建物を出て、地下へと進んでいった。土を掘って追いかけてもよかったが、コーちゃんがどうにか追跡できるそうなのでお任せだ。
「ピュイピュイ」
おっ、この建物だね。つーか、なんだこれ? えらく場違いだな……周りは荘厳な和風建築って感じなのに、ここだけ鉄筋コンクリートってか。のっぺりとした立方体だな。入口はどこだ? 窓すら見当たらない。まあ、別にいいか。
『徹甲弾』
ん? 壁は壊れたが……表面だけ? なっ!? 内側がムラサキメタリック張りだと!? マジのシェルターってことか!? あ……まさかジュダの野郎ってこの中にいるんじゃ……
あり得るな。
『徹甲連弾』
いかにムラサキメタリックでも一点にダメージを集中させれば突き破ることはできる……はずだ。紫弾があったら早いんだけどなぁ……
うーん、全然だめじゃん……もしかしてかなり分厚いのか?
よし、力尽くでこじ開けるのは一旦後回しだ。コーちゃん、魔力の流れを正確に教えてもらえるかい?
「ピュイピュイ」
ふむふむ。地下深くにルートがあるんだね。
『水鋸』
土木作業はお手のものだ。めっちゃ掘り返してやる。
『風操』
掘り返した土は他所に置いて……
「貴様何をしている!」
「こいつ! 魔王だ!」
「全員呼べ!」
ちっ、赤兜かよ。まだ元気な奴がいたとは。こんな夜中までご苦労なことだ。
『狙撃』
くそ、一人仕損じたか……ムラサキメタリックに換装しやがった。
「おのれぇ……よくも天道宮をここまで破壊してくれたなぁ……許さん!」
『螺旋貫通峰』
ちっ、やっぱだめか。身体強化なしで型だけ真似しても、校長ほどの威力が出るはずもない……
「効かん! そのような棒っきれで我らの鎧をどうにかできるかぁ!」
くっ、鍔迫り合いになってしまった……私の不動に鍔なんかないけど……
「ふざけるなぁ! その程度の腕で!」
危ねっ!? とっさに不動を離したから助かったが……マジで指を切り飛ばされるところだった。こいつ……やる奴か……
ならば、接近戦なんか付き合ってられないな。
『泥沼』
久々に使ったな。アレクの落し穴ほどではないが、重い奴を沈めるには重宝するんだよな。それにここらは土だし。
「ぬっ!? き、貴様ぁ!」
「ほれほれ。さっさとくそ重いムラサキメタリックを脱がないと沈むぜ?」
「うぬっ! まだだぁ!」
おっと、危ない。剣を投げてきやがった。読んでたけどね。そりゃあ避けるさ。
「甘いわぁ!」
おっ? 今度は兜を投げてきやがった! 一瞬で兜だけ魔力庫に収納してから手に持ち替えるとは、中々器用な真似をしやがるな。
だが、避ければそれまでだ。それに……
『狙撃』
額のど真ん中を貫いた。頭部が無防備なんだから当然だ。泥の中で溺死するより幸せな死に方だろうさ。そのまま沈め。
いや、待てよ……?
こいつは使える!
『乾燥』
泥沼を乾かして……
『風斬』
赤兜の周囲の土を切る。一辺が一メイルの正方形に。
『浮身』
ムラサキメタリックは浮かないが、こうやって土と一緒ならば簡単に浮く。
『浮身』
『風操』
さあ、一緒に行こうか。天高く、どこまでも上空へ。
おっと、その前に『水球』
建造物の天井を赤く塗ってやった。水球の色を変えられるようになっておいてよかったわぁ。
これで上空に行っても……
『暗視』
ほーら見える見える。目標がよぉく見える。
では……『浮身解除』
すると、土に覆われたムラサキメタリックが自然落下していく。こいつが天井にぶち当たったらただでは済まないだろうさ。いつだったかフランティア領都でドラゴンにとどめを刺したオリハルコンメテオ並みの威力が出るんじゃないか?
赤兜本人の体重と鎧の重さを合わせれば二百キロムは軽く超える。そりゃあ本人以外が装備しても動けないわなぁ。それだけの重量が五百メイルはある高さから落下すれば、その衝撃たるや……計算なんかできないけどね……
おまけにムラサキメタリックとムラサキメタリックの衝突だ。無敵の金属どうしがぶつかればどうなることか……
おっと、私も一緒に落下して微調整をしないと……落下地点なんてのは放っておくとすぐズレるんだからさ。
残り二百メイル……ここまでくればもう大丈夫だろ。
『水球』
ムラサキメタリックの直後を一緒に落ちていけ。これで威力も倍率ドンってな。
『浮身』
そして私とコーちゃんは退避。衝撃がすごいだろうからね。
なっ!?
鎧の軌道が急に曲がり、地面に落下した……だと!?
ぶほっ……とんでもない土煙の量……
『烈風』
どこのどいつの仕業だ?
むっ、自動防御に反応あり。どこから撃ってきやがっ……下!
『風斬』
「よく……分かったな……」
「姿を見せろよ。どうやって姿を消してんのかは知らんが、その魔力を消さんことには隠れた意味がないだろ。」
どうせ自身を透明にする魔法だろ。そんなのが通用するのは魔力に鈍い奴ぐらいのもんだ。
「それでも……人は目に見えるものを信じるもの……」
知るかよ……
「あの建物は何だ? そうまでして守りたいってことだな。まあ、だいたい予想はつくけどな。」
「それなら……ますます手を出させるわけには……いかぬ……」
あ、見えた。ジジイじゃん。いかにも魔法使いですって感じのローブなんか着ちゃって。どうせ天道魔道士なんだろ。なのにこいつだけファッションが違うな。他の天道魔道士はブレザーに近い制服だったのに。イカルガの奴らはまとまりがないなぁ。




