684、全滅の憂き目
ここを右。で、まっすぐ……あの扉か?
『風斬』
『風球』
止まる気はない。扉をぶっ飛ばして、そのまま一気に出るぜ。
ジュダは……いた!
大勢の赤兜に、いやムラサキメタリックを纏った騎士に囲まれてやがる。中庭か……やけに広いじゃないか。
「やっと来たね。待ってたよ。僕の天道宮でずいぶん好き勝手やってくれたね。これはお仕置きが必要だと思うよ?」
「お仕置きか。必要だな。お前はさんざんローランド王国にちょっかい出してくれたもんな。地面に額をついて謝れば命だけは助けてやるが?」
「あっはっは。面白いことを言うね。君こそ謝ったら許してあげてもいいんだよ? ヒイズルまで来て無駄に死ぬことはないと思うけどなぁ?」
「こそこそと幻術でしか俺の前に出てこれない臆病者のくせによく言うな。今のお前は本物か? また幻術だったら騎士が泣くぜ?」
「あっはっは! 幻術だって? ローランドの人間は遅れてるねえ。これは立体映像転送陣って言うのさ。これがあるから僕は自室から出ることなく執政できるってわけさ。」
なんだと? つーか偉そうな名前付けてるけど、それってさっきアレクが見込んだ通りじゃん。
「もちろんこうやって戦場の指示を出すこともね。さあ僕が誇る勇敢な親衛騎士団よ! ヒイズルの敵は目の前だ! 見事打ち果たした暁には! 恩賞は思いのままだ! いけぇー!」
ちっ、いきなり始まりやがった。いつの間にやら後ろも囲まれてるし。
だからって関係ないけどね。
『風操』
ムラサキメタリックの鎧を纏っている限り、こいつらは飛ぶことができない。空から狙い撃ちしてやるよ。
「ガウガウガウ!」
ん? 何かが?
『氷壁』
なっ!? アレクがとっさに張った氷壁を貫通し……やばい! クロミぃ!
「全員掴まれ!」
『風壁』
『吹き荒れる暴風』
周囲から無数の矢、いや、あれは矢なんて生優しいものじゃない。バリスタか何か打ち出された槍か……私らが空に避難することを読み切ってやがったか……
危なかった。もう少しで全員串刺しの穴だらけになるところだった……穂先がムラサキメタリックの槍なんて防げるわけないからな……目で追えるスピードでもないし。
とっさに風の上級魔法で周囲一帯を大嵐にしてやったが……
「に、ニンちゃん……痛い……」
くそ……最初の一発が……クロミの腹を貫いてやがる……
『風斬』
貫通した槍の前後を切る。そして……
「アレク、このままクロミを治療院に連れてってくれるかな……」
内臓が傷付いた場合、ポーションだけで治すのは危険だ。治らないことはないが治癒魔法使いに治してもらった方が確実だし予後もいい。
「わ、分かったわ! カースは、どうするの!?」
「誰も後を追えないように……ここを殲滅しておく……だからテーブルに乗ったまま、全員で行って。」
「分かったわ。でも、クロミが治ったら戻ってくるからね!」
「ニンちゃん……ごめ……」
カムイ、アレクとクロミを頼むぞ。
「ガウガウ」
「アーニャ、無駄に連れ回して悪かった。もし治療院が安全そうならそこで待っててもいいから。」
「う、うん……カース、気をつけてね……」
「アレク行って!」
『徹甲弾』『火球』
『徹甲弾』『火球』
『徹甲弾』『火球』
『徹甲弾』『火球』
槍が飛んできた方向全てに撃ち込んだ。バリスタか何か知らんが連射はできまい。ぶち壊してやれば同じだろ。
くそ……やっぱ思い通りにはいかないよな……
矢尻にムラサキメタリックを使うのなら、バリスタを利用してよりえげつない威力を出す……か。バリスタやカタパルトの類はローランドでも大きい都市ならどこにでも配備してある。ならば、ヒイズルにあってもおかしくないってのに……
よし、アレク達は離れたな。
『降り注ぐ氷塊』
街中で使う魔法ではないが、もう知ったことではない。じっくり攻めようなんてしなくても、初めからこうすればよかったんだ……
天空から高速で降り注ぐ……硬く重い氷塊。いくらムラサキメタリックでも直撃したらへこむだろ。当たりどころによっては即死もあり得る。
長い歴史を感じる荘厳な天道宮の一角が、見る見る破壊されていく。少しだけ心が痛むな。建物に罪はないからな。
あらら、不幸中の幸いなのか、先ほど私が着けた火が消えちゃったよ。
ふう。土煙も落ち着いた。
立っている騎士は……やはりいないか。
それにしても、危なかったな……本来ならジュダの野郎、あれで私達を全滅させるつもりだったんだろうな。見事に誘導されてしまった。
あの時、アレクがとっさに氷壁を張らなかったらクロミは腹に穴が空くどころか体が上下にぶっちぎれてもおかしくなかったよな。
思うにあれば敵のミスだな。本当は全ての槍が一斉に飛んでくるはずだったんだ。
焦ったか何かの理由で先走った奴がいたんだろうな。
例えば私の上昇が思わぬ速さだったとか、上昇のタイミングが想定より早かったとか。
何にしても命拾いしたな……
今の私は紙装備みたいなもんなんだから。もし完璧にタイミングを合わされたとしたら……私とクロミは危なかったな。アーニャはたぶん大丈夫。カムイは怪しいな。そしてアレクは当たりどころによっては危なかっただろうな……いくらドラゴンの装備でもあの速度でムラサキメタリックを撃ち込まれてはなぁ……
まあいい。さすがにこれだけぶっ潰せばもうほとんど騎士も残ってないだろう。
こちらも私一人になったことだし、慎重かつ大胆に攻めるとしよう。
……どこを……?
ジュダの野郎……どこに居やがる……!




