682、人質の使い道
赤兜はとっさに人質を殺そうとするも、目の前に迫る刃を無視することなどできない。結局壁際に散った赤兜は各々が冒険者と一対一で戦うこととなった。
そしてドロガーが……
「おらよっ。」
もう片方のトンファーを振り上げると……
「ぎゃいやあぁぁぁぁがばぁぁーー!」
長身の赤兜の足首がすぱっと切れた。どうやら先ほど投げたトンファーと刃鋼線で繋がっていたらしい。キサダーニが来なかった場合はこれで起死回生を狙っていたのだろう。
「遅ぇじゃねぇか。なぁに遊んでやがったぁ?」
「てめぇが早すぎんだよ! こっちはこれでも情報集めてメンバー揃えて、そっから慎重に入り込んだってのによ! なんでもういるんだよ!」
「へっ、魔王の仕業に決まってんだろ? おっとっと。」
キサダーニと会話をしながらも地面を転がる赤兜のとどめを忘れないドロガー。
「話は後だ。ここを制圧するぞ!」
「おう! つーか後から来て仕切ってんじゃねぇ!」
ドロガーにキサダーニ。この二人が揃えば練度の劣る赤兜など敵ではない。瞬く間に制圧され、他の激痛で転げまわっていた赤兜もとどめを刺された。
なお、結局誰一人としてムラサキメタリックの鎧を纏う者はいなかった。
「さぁてと……そんじゃあやるかぁ。くそったれが……酷ぇ真似しやがってよぉ……おうダニィ! さっさと抜くぜぇ!」
「ああ。こいつはあんまりだろう……何考えてやがる……ん? 待てロガ! 抜くんじゃねえ!」
両手を壁に打ち付けられ、苦痛に顔を歪ませる女達。一刻も早く解放してやりたいと考えるドロガーだったが、キサダーニが何かに気付いたようだ。
「た、たすけて……」
「痛い……痛いよぉ……」
「お、おねがいはやく……」
女達とてとっくに限界だろう。その顔は汗とも涙ともつかない液体に塗れていた。
「お、おい! どうしたってんだぁ!?」
「分からん! 分からんがなんかやべぇ魔力が流れてんぞ? だから全員の手が重なるように打ち付けてあるんじゃないか? 迂闊に抜くと何が起こるか分かったもんじゃない。どうせ魔王もそのうち来るんだろ? 任せるしかないぞ。」
魔力の扱いについてはドロガーの上をいくキサダーニである。先ほどこの室内に魔法が使えないようにする魔法を使ったことで、人質の間を流れる妙な魔力が浮き彫りになったことも気付いた要因の一つではあろうが。
「魔王はあてになんねぇがクロミならどうにかしてくれんだろ。そういうわけだ。悪ぃがもう少し我慢してろ。せっかく助かったんだからよ。ここで無茶して命ぃ捨てるこたぁねぇや。」
「う、うう……」
「そ、そんな……」
「いたいよぉ……」
「ど、ドロガーさぁーん! キサダーニさぁーん!」
「きっと来てくれるって信じてましたぜ!」
「ありゃとぉーっす!」
数少ない冒険者は声だけは元気そうだ。顔色は真っ青だが。
「おー、おめぇらか。ちっと待ってろ。もうすぐ助かるぜぇ。よかったなぁ?」
「ちなみにギルドじゃ意見が真っ二つに割れてんぞ。天道宮を攻める派と泣き寝入り派とな。もちろん会長は泣き寝入り派だ。」
「けっ! あのおっさんらしいぜ!」
それからドロガー達は女達の乱れた着衣を直し、顔を拭いてやることしかできなかった。後は入口を守りながらカース達が来るのを待つしか……
ふぅ……アレクが淹れてくれたお茶は美味しいね。こんな場所だけどリラックスしちゃうよ。
さて、そろそろ行こうかね。
「ガウガウ」
ん? コーちゃんが来る?
あ、ほんとだ。
どこからともなくするすると現れた。
「ピュイピュイ」
おっ。見つけたんだね。よし。ならばどうするのがいいか……ドロガーだけでは女達を護衛しつつ天道宮の外まで運ぶのは無理だろうし……
「クロミ。ドロガーが連行された女達を見つけたらしい。助けに行ってやってくれない?」
「いーけど、いーの? せっかく攻め込んでる時なのにー?」
「よくはないけどな。ドロガーと一緒に女達を送り届けたら……あ、だめか。」
そもそも肝心なことを忘れてた。送り届ける安全な場所がない。ギルドにいて連行されたんだから信用できる場所じゃない。ついついクタナツのギルドと同じように考えてしまってた。
「コーちゃんごめん。ドロガーに行けないって伝えてくれるかな。あ、無理か。何かに書くから届けてくれる?」
「ピュイピュイ」
「ニンちゃんいいのー? ウチはどっちでもいーしー。」
「ああ。ドロガーには悪いけどジュダを仕留めないことには安全な場所なんてないからさ。さっさと行って大元を断ってしまおう。」
だいたい連行したくせに私達に対して人質として使う気配が見えない。そりゃあ確かに私達に人質なんて効かないけどさ。いまいちジュダの野郎が考えてることって分からんよなぁ……
よし。手紙オッケー。これをコーちゃんの首に巻いて……と。
「じゃあコーちゃん、これを届けたらそのままドロガーや女達を守ってやってくれる? でも無理しないでね。」
「ピュイピュイ」
これでよし。コーちゃんがいれば何とかしてくれるさ。だいたい焦って奪還する必要はなかったのかも知れないし。まあ、後の祭りか。人質にされないと決まったわけじゃないし。
「よし。じゃあ行こうか。上にね。」
「ええ。」
「分かったしー。」
「う、うん。」
「ガウガウ」
ちなみにカムイは私達が休憩している間に落ちてた矢を十本ほど集めてくれた。これは結構な切り札になるな。くくく、ジュダの野郎待ってやがれよ?
おっと、アーニャに兜をかぶせないとな。安全第一でいこう。ぜろさいぜろさい。
「ガウガウガウ!」
むっ!? カムイどうし……た!?




