678、ブチ切れクロノミーネ
そうやってクロミが仕留めた赤兜が十人を越えた頃……
「盾構え!」
騎士長野郎の声がかかった。遅いってんだよ。言われるまでもなく盾を構えてる奴もいるってのに。
『徹甲連弾』
盾を破壊する必要などない。少しバランスを崩してやるだけでいい。そうすればクロミが……
「いぎぃああっ!」
「くそっ! なんだあの棒は!」
「任せろ! やってやる!」
剣を振り、叩き落とした騎士もいる。だが、それだけでは意味がないんだよな。下に落ちた不動が再び動いて足を貫くだけだからな。
それならばと不動を踏みつけて動きを封じようにも、それをさせないのが私だ。
『徹甲弾』
片足を上げた状態ってのはひどく不安定だからな。徹甲弾一発でよく吹っ飛ぶ。
『氷球』
おまけにアレクだって剣を狙い撃ちしている。刃の正面から当たってしまうと斬り裂かれて終わりだが、横から当たれば姿勢を崩すことぐらいはできる。
これはハマったな。この局面は打開できまい? 私もクロミも魔力はまだまだ切れないからな。
「ほい次ぃー。」
盾を弾かれバランスを崩した騎士をクロミは見逃さない。腹に不動が突き刺さった。
「わ、我ら親衛騎士団を……舐めるなぁー!」
なっ!? こいつマジかよ。腹に突き立った不動が抜ける前に掴みやがった。そしてそのままこと切れた?
それでも離さない……敵ながらあっぱれ。
「ニンちゃーん動かないしー。どーするー?」
「ちょっと待ってな。」
『身体強化』
奴らが密集した場所などに行きたくはないが私の手で引っこ抜くしかなさそうだな。騎士の装備してるムラサキメタリックのせいでクロミの魔法が効きにくくなってるからだろうな。あんなに抱え込むようにして掴みやがってさぁ……
「おらよ!」
まずはドロップキック! このブーツの靴底はドラゴンゾンビの牙だぜ。効くだろ。ぶっ飛べ。
「囲め!」
当然そうくるよな。隙だらけなんだからさ。だが、目的はこれだよ! 落ちてる剣を拾うためでもあるんだよ!
ちっ、やっぱクソ重たいな。だが関係ないね。身体強化バリバリだぜ。
「おらぁ!」
一振りで周囲の騎士を振り払う。剣も槍もまとめて。
「他国の者にムラサキの剣が扱えるものか!」
「我らの魂を何と心得る!」
「魔法使いが振るう剣など恐るるに足らず!」
舐めんなよ? 稽古はサボり気味だけど私だって無尽流の剣士だぜ? 技術ではこいつらには勝てないだろうけどさ……
今の目的は剣で打ち勝つことじゃないからいいんだよ!
剣をがむしゃらに大振りしながら、やっと着いた。わずか五メイルがやけに遠かったぞ……
「返すぜ!」
剣をぶん投げる。こんな魔力も通らない重いだけの剣なんか使えるかよ。ついでに……
『榴弾』
しっかりと騎士どもを遠ざけておいてから……
「ふんっ!」
不動を引き抜……けない!? どんだけ強く握ってんだよ!
「今だぁ!」
「戦場で背中を見せるとは!」
「隙ありだ!」
ねえよ!
『浮身』
「おらぁ!」
不動に刺さった騎士ごと振り回す。これもう百トンハンマーだろ。
「ば、バカな……何という剛力……」
「うろたえるな! 魔法に決まっておる!」
「ムラサキメタリックに……か!?」
くくく。そんなこと気にしてる場合じゃないだろ。ほれ、ガンガンいくぜ?
ちなみに正解は不動に『浮身』を使っている。いくら私でもムラサキメタリックそのものを浮かせることなんかできるわけないさ。もちろん身体強化も強めに使ってるけどさ。
でもあんまりやりすぎるとまた体が動かなくなるからな。ほどほどにしておかないと。
つーかこいつ……いつまで掴んでんだよ。こんだけぶん回してるのに。いい加減離せよな。
ちらりと見てみれば、アレク達はテーブルに乗って天井付近まで浮き上がってる。で、そこからチクチクと狙い撃ちか。援護がありがたいね。
「カース! 新手よ!」
「分かった!」
軽装の奴らがドタドタと入ってきやがった。ふん、弓隊か。そんなもんが私達に効くかよ。そもそも弓すら引かせないってんだ。
『榴弾』
ちっ、騎士どもが身を盾にしやがった。結構踏ん張るじゃないか。
「つがえ!」
相変わらず騎士長野郎は指示をきっちり出すんだな。だったらお前を狙ってやるよ!
『徹甲弾』
「効かぬ! 放てぇ!」
私に矢なんか……『鉄壁』
危ね……風壁で防ぐつもりだったが、とっさに鉄壁に切り替えて正解だった……
この矢尻……ムラサキメタリックじゃねーか!
「いったぁーい! もう殺す! 全部ぶち殺すし!」
「カース! 私は大丈夫よ!」
ちっ、あっちも狙われたのか。
『豪水斬烈牢』
ばっ、ばかやろう! やめろ! 私まで巻き込むな!
『鉄壁』
危なすぎる……ホール中が洗濯機状態、いや、ミキサーやジューサーの類か? 上級魔法『渦巻く波濤』よりえげつない……
むろんムラサキメタリックを纏った騎士どもがスライスされるってことはないだろうけどさ。
くっ、さすがに息が続かない……
『水中気』
そこそこ頑丈な鉄壁を張ってんのにめっちゃ揺れるし……水だって入り込んでくる。クロミの奴、どんだけ魔力を込めてやがんだよ……
うう……酔いそう……




