674、女中マツ・ロカタ
私達は傍から見ると随分と風変わりな集団に見えるのだろうが、今のところスルーされてるな。なんせ堂々と歩いてるもんな。
前から歩いてくる者もいる。赤兜じゃないな。
「むっ? お前達……どこかで……なっ!? 魔王! ローランドの魔王か『狙撃』ぁっぐ……」
ちっ、バレてしまった。私の顔を知る者がいたとはな。こいつは何者だ? 赤い鎧ではなく制服っぽいのを着てやがる。騎士服ってやつか。襟が高いな。
死体は収納して……と。こいつが来た方に行ってみよう。
「さすがの早撃ちね。鮮やかだったわ。」
「ありがと。どうも僕の顔を知ってたっぽいね。いつ見たんだろ。」
「見たところ身分が高そうだったわね。そうなると天都に出入りする時とは思えないわ。あの時じゃない? 騎士長に呼ばれて腕を見せに行った時。どことなく見覚えがあるわ。」
「あー、言われてみれば居たような気もする。親衛騎士団の上級騎士とかって言ってたような。クロミ、見覚えある?」
クロミも一見てるはずだしね。
「へ? 無理だしー。人間の顔なんて分からないしー。」
そりゃそうだ。愚問だったな。まあいいや。あっちに進んでみよう。もし迷ったら適当にぶち壊せばいいや。
大きい扉を開けて、さらに奥へ。
「エリアが変わったわね。」
「ん? アレクどういうこと?」
確かに壁の模様なんかは変わってきたが。天井にも装飾が増えている。
「さっきくぐった大扉だけど、おそらくはここ天道宮の公的エリアと王族の私的エリアを分けるものね。普段は番人がいそうなものだけど。」
「なるほどね。じゃあ案外ジュダの所まで近いのかもね。」
「そうね。気をつけて行くわよ。」
アレクは頼りになるなぁ。どれ、私も負けてはおれんな。今一度……『魔力探査』
うーん……あんまり魔力が高い奴がいないなぁ。とりあえず廊下に沿って進んでみるか。
「いたぞぉー! こっちだ!」
「こんな所まで入り込んでやがる!」
「これ以上行かせるな!」
ちっ、どこで足がついたのかは分からんがバレたか。まあいい。ここまで来れば後は時間の問題だろう。
『狙撃』
『榴弾』
今の一団は仕留めたが、この分だとまだまだ集まってきそうだな。少し急ぐか……
「みんな乗って。ここからは飛んで行くことにする。」
ペースアップだ。
ふふ、みんなでこうしてボードに乗ると迷宮を思い出すな。ボードってかテーブルだけど。
カムイ、強そうな人間がいる方を教えてくれ。私の魔力探査だと大差なかったからさ。
「ガウガウ」
とりあえずまっすぐ? どこの国も王宮ってのは広いもんだよなぁ。
ん? 女中さんがぞろぞろと現れた。相手にしてはおれんな。
『快眠』
『麻痺』
『昏睡』
アレクが追加で昏睡を使ってくれた。一人だけ魔法を防いだ奴がいたからだ。
「あの部屋から出てきたね。入ってみるよ。」
テーブルから降りて部屋の中へ。
広いな。他にも女中がたくさんいた。控え室みたいな感じか?
「いきなり悪いな。天王陛下に呼ばれて来たんだが迷ってしまってな。誰か案内してくれないか?」
「え、どなたですか……」
「来客がなぜこんな場所に……」
「担当だれなの……」
「まあいいからいいから。女中頭の何とかって人に案内してもらうはずだったんだが、具合が悪くなったようでな。待たせても悪いから頼むわ。」
まだギリギリ口車が通用するか……?
「女中頭……ってトシミさん?」
「トシミさんの具合が?」
「じゃ、じゃあ私が……」
おっ、立候補してくれるとはありがたい。
「助かるよ。さあ行こうか。」
「ところで、陛下に何の件で呼ばれたのですか?」
「僕らのこと知らない? この前シューホー大魔洞を踏破したんだけど。」
「あっ! 知ってます! 神様からお告げがありましたよね! びっくりです! すごいです!」
おお、さすがに聞いてる者は聞いてるのね。
「その件で招待されたのさ。聞いてなかったのかい?」
「ご、ごめんなさい! 聞いておりませんでした!」
そりゃそうだ。素直な子を相手にすると心が痛むね。子と言っても私の方が歳下だろうけどさ。
「いいよいいよ。案内してくれたらそれでいいよ。頼むね。」
「はい!」
よし。今度こそ上手くいきそうだな。待ってろよジュダ。
「天王陛下ってどんなお方かな? お会いするのはもちろん初めてだからさ。」
「陛下は私のような下々の者にまで気さくにお声をかけてくださる素晴らしいお方です! そしてお顔はそこらの舞台俳優なんかじゃ相手にならないほど整っておいでです! おまけにお声は低くて渋くて威厳があるのに耳にすうっと入ってきてもう耳が妊娠しそうなぐらい素敵なお方なんです! あぁ……いつか私にもお手付きが……あはぁん」
うわぁ……マジかよ。ま、まあアレだ。いくら渋い二枚目でもうちの兄上や父上には敵うまい。
「そ、そうかい。女中がお手付きになるってのはよくあるの?」
「それがあんまり……私達下っ端にお声をかけてくださるだけで幸せではあるんですけど……」
あんまり……ゼロではないのか。どうでもいいけど。単に好みがうるさいだけって可能性もあるな。
「そういえば陛下にお子は何人いらっしゃるのかな?」
「三人いらっしゃいます。いずれも王妃殿下との間の御子なんですよ。だからお手付きが少ないんですかねぇ……はーあぁ……」
ほう? これはいい情報ゲットだな。ジュダの野郎をぶち殺して終わりとはいかないってことだな。事後処理も必要だろう。まあ、私が気にすることじゃないけどね。
「着きました。こちらです」
ついにご対面か。さぁてジュダの野郎はどんな顔してんのかねぇ。




