672、天道魔道士の詰所
私達は中庭をゆっくりと進む。天道宮の正面玄関に向かって。正門から玄関までなかなか遠かったが、その間を邪魔する者はことごとくぶっ飛ばしておいた。
ではここから内部に入る前に一言。
全員に『消音』をかけてから……
『聞こえるか天王ジュダ! よくも今までローランドに舐めた真似してくれたな! 今から行くから弁明の言葉でも考えて待っとけ!』
確たる証拠なんかないけど、ヤコビニ派や聖白絶神教団にムラサキメタリックを提供した元締めはこいつに決まってる。合わせてケジメとらせてもらうぜ。
「よし、行こうか。」
「カースが何を言うのか聞きたかったわ。」
「はは、天王に今から行くからお茶用意して待ってろって言っただけだよ。」
「私はコーヒーがいいわね。」
そういやヒイズルに来てからコーヒー飲んでないな。ここだって南の大陸と交易ぐらいしてるだろうに。
「えっ!? コーヒーあるの!? 私も飲みたいよ!」
そういえば綾……アーニャはコーヒーが好きだったな。
「ローランドにはあるわよ。ヒイズルでは見かけないわね。帰ったらアーニャも……カース、来たわよ。」
前から現れたのはムラサキメタリックの鎧武者。どうせ中身は赤兜だな。さすがに一気に突っ込んではこないな。慎重に近寄ってきやがる。
「おいお前ら。天王のところに案内しろ。いるんだろ?」
「この無礼者が! ヒイズルの国に君臨される天王陛下になんたる口を!」
「所詮は蛮族にすぎん! 即刻討ち取ってくれる!」
「少し魔法が使える程度で我らの赤兜騎士団に勝てるとでも思っているのか!」
やっぱ赤兜かよ。ムラサキメタリックを装備してるからって偉そうに。
「クロミ、どうする?」
「ウチぃー? そーねー、じゃあこーしよっかなー。」
クロミは先ほど拾ったのであろうムラサキメタリックの剣を目の前に放り捨てた。
『烈風』
クロミが狙ったのは赤兜ではなく、地面の剣。鋭い風を受けて剣が……
「なっ!?」
「おぐぉぅ!?」
「お、おい! しっかりしろ!」
赤兜を二人まとめて貫いた。やるなぁ。
シューホー大魔洞で私が不動を飛ばしたのと同じ方法だ。
「やるじゃん。さすがクロミ。」
「へっへーん。あれに魔法は効かないからさー。だから風をぶつけてみたしー。」
「おのれ小癪な! 全員でかかれ! いけぇ!」
あらら。そこまで広くない廊下をそんな大勢で走ったら……
『落穴』
アレクの魔法にやられてしまうぞ?
ほぉーら落ちる落ちる。落ちなかった奴らもバランス崩しまくりだよな。
『五十連弾』
ライフル弾をマシンガンのごときスピードで連射する。もちろん狙いは兜、フルフェイスの隙間だ。多少外れても構うもんかよ。全滅しやがれ。
よし終わり。しかもいつの間にやら落とし穴には水が満ちてるし。クロミの仕業か。手際がいいね。
それよりも特筆すべきはアレクだ。
「アレク、見事だったね。ここの硬い床に落とし穴の魔法をよく使えたね。すごいよ。」
アレクは岩でも『落穴』の魔法を使えることは知ってる。ウリエン兄上争奪戦の時に見たからな。それでもここの床はあの時の武舞台に使われていた岩より硬そうなんだよな。やはり成長してるよな。範囲だってかなり広いし。
「もうカースったら。そんなの当たり前じゃない。色々あったものね。」
「はは、そうだね。色々あったもんね。」
さてさて、進もうかね。つーか早くも道が分からなくなったぞ? ローランド王都の王宮ほどじゃないにしても、ここだってかなり広いよな。メイドさんはいないのか? さっきから赤兜しか見てないぞ。
『魔力探査』
ジュダの野郎は魔力が高いのだろうか? 洗脳魔法なんて外道な魔法を使うだけあって高いのかも知れないが。
とりあえず魔力が高い奴がいる方へと進んでみよう。えーっと右か。
魔力の反応に向かって進んでると建物から外に出てしまった。つーか、どんどん寂しいエリアに向かってないか? ここだって一応は天道宮内だってのに。なんだか雰囲気が寂しいんだよな。やはりメイドさんなんかとはすれ違わないし。ここって王宮だろ? どうなってんだ?
あの建物か。天道宮の敷地内なのに周囲はすかすかじゃん。リストラ候補が行く窓際部署かよ。魔力の反応的に建物内にいるのは五人か。そこそこ強い魔力なんだけどなぁ。
『氷塊弾』
とりあえず建物ごとぶっ潰そう。魔力が強い相手は厄介だし。氷塊を一度高いところまで打ち上げて……さあ、落ちろ。
「うおおぉぉーーい! 待て待て待て! 何やってんだよぉ!」
誰か出てきた。こいつデブだな。言っては悪いがセルジュ君より太く丸い。
「そろそろ落ちるぞ。」
車が急に止まれないように、落下する氷塊も止まらないのだ。止める気がないとも言うけど。
「くおおっ!?」『炎弾』『炎弾』『炎弾』
いやーそれ無駄だろ。焼石に水の逆。何て言ったらいいんだ? 雪だるまにロウソク?
「待て! 待ってくれ! 我らが何をしたと言うんだ!? いかに冷遇されようとも我ら天道魔道士は天王陛下に逆らったことなどないではないか!」
へー。こいつ天道魔道士だったんだ。それならやっぱこの建物もういらんよな。こいつらローランド王国に来るんだろ? あ、落ちた。
「うおおぉい! な、なんてことを……中にはまだ何人もいるんだぞ! それが天王陛下のやり方かぁ! 我ら天道魔道士はもう不要と言われるのかぁ!」
うん。木端微塵だな。これで未練を残さずローランドに旅立てるよな。よかったよかった。つーか勘違いが酷いな。
「陛下のお言葉を伝える! 傾聴!」
んん!? アレクいきなりどうしたの!? 上級貴族モードに入ってるし。
「はっ、ははぁ!」
デブちゃんも地面に片膝を突いて素直に聞くらしい。
「貴様ら天道魔道士は全員免職とする! 貴様らのような無駄飯食らいはどこへなりとも行くがいい! もし異存があるならば! いつでもこの首を狙ってきて構わん! 以上である!」
「そ、そんな……それが陛下のお言葉……」
うわぁ……かなりショックを受けてるし。アレクの適当なアドリブなのに。つーかアレクもよくこんな悪どいことを思いつくよな。
打ちひしがれてるこいつは無視して他の場所を探してみるか。明らかにこんな所にジュダはいないだろうからな。




