661、第二ラウンド
それから一行は罠の確認をしたり増設をしたり、赤兜やエチゴヤが落とした武器、鎧を拾い集めたり整理したり。ほぼ全員が満身創痍にもかかわらず精力的に動いた。
そんな時だった。数人の冒険者が洞窟を訪ねてきたのは。
「キサダーニさん! 大変なんです!」
「ギルドが! ギルドが!」
「助けてくださいよぉ!」
「どうした?」
「赤兜が来たんですよ! それも大勢で!」
「そんで! 集まってた変な奴らとか逆らった冒険者とかを片っ端から連れて行きやがったんです!」
「キサダーニさんとこの奴らもほとんど全員! そんで助けて欲しけりゃキサダーニさんとドロガーさんを連れてこいって……」
「そう来たかよ……舐めやがって……」
「ど、どうするんすか!?」
「早くしないとあいつらが……」
「キサダーニさん!」
そのように騒いでいれば当然他の者だって気付く。
「そんならなんでお前らはここに来れたんだ?」
ドロガーだ。
「ど、ドロガーさん!」
「どうしてこの場所が分かった? 誰から聞いた? 言ってみろや。」
「それが、赤兜どもから……ここに来ればキサダーニさんもドロガーさんもいるって……」
「ちっ、やっぱバレバレかよ! それなのに何で直接来ねえ!? 俺らに人質が効くとでも……ダニィ、お前には効くか?」
「ああ……効くな。あいつらはバカで間抜けでボンクラだがよ……それでも俺が面倒見てきた奴らだ。来いってんなら行くしかねえ……」
「キサダーニさん!」
「俺も行きます! 俺らだって赤兜にはムカついてます!」
「やったりましょう! 冒険者の意地ぃ見せてやりましょう!」
「ああ。行くぜ。そういうわけだ。悪いなロガ。先に行く。魔王によろしくな?」
「ダニィ……バカが……」
キサダーニは行ってしまった。
「と言うわけだ。やっぱここぁとっくに赤兜に目ぇ付けられてんぜ? おおかた冒険者の増援が来ないようにしてから一気に攻める魂胆じゃねぇか?」
ドロガーは洞窟に戻り全員に報告していた。
「そうね。そろそろ日が暮れる頃だし赤兜も攻めやすくなるわね。」
「えー金ちゃんなんでー? 人間って昼間の方が攻めやすくないのー?」
クロノミーネが疑問を呈するのは当然だ。実際のところ今朝も夜が明けてから攻めてきたのだから。
「普通はそうね。でもおそらく次は相当の大軍を繰り出してくるはずよ。そうなるとあまり明るいうちに動かすと民衆に動揺を与えてしまうのよ。一体何事かってね。今朝は五十人ぐらいだったわよね。明るいうちにそれ以上の騎士団を動かすと目立つ……とでも考えてるんじゃないかしら。」
「今度はあいつらもかなりマジで来そうだしよぉ……こっちも腹ぁくくるしかねぇぜ……」
「そーねー。ちょーっとヤバいしー。ニンちゃんが起きなかったらウチらの負けー。まあどうにかなるんじゃーん?」
「そうね……カースが、カースさえ目を覚ましてくれれば……」
「おっし、とりあえず飯にしようぜ? ちっと早ぇが赤兜どもが来る前に済ましておかねぇとな。」
ちなみに眠っているカースにはクロノミーネが魔力譲渡をしたりアレクサンドリーネがポーションを飲ませたりしている。
そして日没。洞窟周辺はすぐに真っ暗になり、気温もぐんと下がった。
「来ねぇな……」
「そーねー。あーっちの方に人間はいるけどねー。どーする? もう殺しとく?」
「斥候ってわけね。放っておきましょ。クロミの力を晒したくはないわ。今さら遅いかも知れないけど、極力こっちを侮っておいて欲しいもの。」
ドロガーとクロノミーネ、そしてアレクサンドリーネの三人は洞窟の前で相談をしている。
「マジかよクロミ……俺にぁ全然分かんねぇぞ……何人だ?」
「あっちに一人、そっちにも一人ねー。薄暗くなった頃からいたよー。思うんだけどー、昼間に他のが来なかったのって狼殿があいつら系を始末したからっぽくなーい? そんで動きが遅れた的なさー?」
「あり得る話ね。攻めて来た五十人とは別に斥候だか督戦隊だかいたのかも知れないわね。」
督戦隊とは味方の戦いを監視するだけでなく、逃げたり無様な真似をしたら殺すこともあるという。
「ガウガウ」
カムイはどこからともなく現れて、得意げな顔で首を縦に振っている。
「やっぱそーなんだ。さっすが狼殿。やっるーぅ。あ……」
カムイはいなくなった。もしや再び斥候を始末に行ったのではないだろうか。
「ま、まあカムイが手強いことはとっくに知られてるでしょうし……関係ないわよね。」
「あ、悲鳴が聞こえたしー。やっぱ狼殿やるよねぇー。つーかさぁー? ここでじっと待ってなくてもよくなーい? 来る途中でどかーんとやっちゃってもさー。」
「それもそうね。クロミの言う通りだわ。私達が個別に狙われても心配だけど、クロミなら大丈夫よね。」
「どうせ大勢で来るんだろうしよぉー。少しでも減らしとくのはアリだぜなぁ。大丈夫なんか? 魔力ぁよぉ?」
やはりドロガーとしてはクロノミーネが心配なのだろう。まだ魔力が完全に回復したとは思えないだろうし。
「大丈夫に決まってるしー。あ、上。」
『浮身』
雨が降ってきたから傘をさす、程度の気安さで魔法を唱えたクロノミーネ。その頭上には大岩が浮かんでいた。
「ふむ、なかなかやりおるな。これが異国の魔法使いか」
「侮るでないぞ? 人数は少なくともバカ兜を全滅させたほどの使い手だからな」
「あっちもちょうど三人だし。都合がいい。私はあの女にする」
上空に浮かぶ三つの影。どうやら赤兜とは別の敵らしい。




