651、絶対絶命
ぐああっ!?
な、何だよ!?
いったい何が!?
わ、私の脚が……
ざっくりと!?
『徹甲弾』
「ぐおっ!?」
とっさに徹甲弾を撃ったけど……誰だよこいつ……深紫か? ぶっ飛びやがれ……
くっそがぁっ! めちゃくちゃ痛ぇ……
これはムラサキメタリックの刀かよ……私のドラゴントラウザーズをここまで切り裂くとは……
やばい……もうポーションがないってのに……
それよりもっと痛いのが首だ……
なぜ……?
首なんていつ怪我したんだよ……
「ぐっ……やりおるな……まだそれほどの魔法が使えるとは……だが! 私を弾き飛ばしたのは褒めてやるが、何のダメージにもなっておらぬわ! ムラサキメタリックは無敵だ! ローランド者ごときに打ち破れるものか!」
こいつ……この声……
「お前か……お前が大番頭か!」
「ほう、いかにも。私がエチゴヤの大番頭カンダツ・ユザだ。もちろん本物のな。お前には私の影を殺されてしまったが、所詮はその程度よ。私の前に立つことすらできまい?」
「う……うるせ……」
くそ……体が重い……足が動かない……魔力だって……もう一厘もない……
こんな時……怒りか何かで謎のパワーが目覚めるのがあるあるなのに……そんな都合のいいこと起こるかよ……
あ、これしか……
「貰っておくぜ……」
「ふん、お前ごときに扱える物ではない」
ぐううっ……大腿部に食い込んだ刀を……無理矢理外す……くっそ……痛い……痛すぎる……
「のんびり待ってくれるとはな……余裕かましてくれるじゃねぇか……」
「当然だろう。こっちはお前が倒れるのを待つだけでいいのだからな。その出血では三分と持たぬわ。治療してやるからさっさと諦めるんだな」
それで目が覚めたら地獄の奴隷生活ってか? ふざけんなよ……
「殺してやるよ……」
もう情報がどうとか言ってる場合じゃないからな……
「ふっ。無駄なことを。その足で短筒に勝てるとでも?」
ちっ……こいつも短筒を持ってやがるのか……
「ローランドの騎士がよく使う技を見せてやるよ……飛斬をな……」
刀を上段に構えて……
「ほう? ひざんだと? くくく、おおかた飛ぶ斬撃なのだろう? 無駄だ無駄無駄。ムラサキメタリックの刀でそれは不可能だ。それよりも……よほど腹を撃って欲しいと見える、なぁ!」
振り下ろす! いぎっ、ぐふっ!? また腹の穴に!?
ええい! 構うかおらぁ!
今だ!
『換装』で不動を手元に!
体を『身体強化』で無理にでも動かして!
くらえ『螺旋貫通峰』
「ぬうっ!? ちいっ!」
避けられた……間合いが遠すぎた……
腹に弾をくらってまで……刀をぶん投げてまで作った隙が……
短筒を叩き落とすので精一杯か……だが、まだだ!
「その手ぇ!」
拾わせるかよ!
「むっ!?」
くそ、また避けられた……歳の割にいい動きをしてやがる……ムラサキメタリックのフルプレートでよくもまあ……
「この短筒ってやつは……脆いなぁ?」
不動で叩き壊してやった。本当は奴の手ごと壊したかったが……
「ふん、このような他国の武器などに頼る私ではない。それよりせっかく隙を見せてやったのに活かせんとは。所詮ローランド者などその程度か」
ちっ……お喋りしながらもきっちり間合いを開けやがる……
もう時間がない。血も魔力も……残りが……
『身体強化』ただし魔力特盛だ……
そして背中に……『風球』
「なぁっ!?」
技でも何でもない……
ただ最速で間合いを詰めて……奴の胸に不動を突き立てただけ……
私の……勝ちだ……あと一つ、たった一つだけ、下級魔法でいい……撃てば……
奴は死ぬ……
「ふ、惜しかったな……私の鎧を貫いたことは褒めてやるがな」
なっ!? まさか……そんな……貫通の直前に……鎧を脱ぎ捨てた……だと? どうやって? バカな……
「おっと、いかんいかん。そのままでは死んでしまうぞ? さあもう眠れ。お前はよく戦った。くくく」
『昏睡』
そんな魔法が……効く……かぁ! まだだ……まだ……
『風斬』
「どこまでもしぶといな。だが、効かん。ろくに魔力も込もっておらんではないか」
うるせぇ……
母上は……母上はほとんど魔力を込めてないのに……
岩盤を……ぶった切ってんだよ……
だったら私だって……
「左足だけでは足らんか。ならば右足も貰ってやろう」
槍、いや薙刀か……ムラサキメタリックではないが……
「はあっ! ふんっ! ご大層な服を着てるようだがな! 結局は強い者が勝つのだ! ほおぁ!」
間合いをキープしながらも……私の右膝を執拗に……やばい……折れる……
最後だ……全ての魔力を……かき集めて……
廻す……全身を廻して……せめて指先から……
ん?
指先!?
ああっ!
こ、これか!
こんな単純なことか!?
嘘だろ!?
『風斬』
「ふっ、効かんと言っ……いっ……いひゅ……ひゅ……」
今度こそ……首ごともらった……
ムラサキメタリックの鎧を脱いだのが大番頭の敗因だ……
それにしても私としたことが……こんな簡単なことを見落としていたとは……
普段からごり押しでばかり魔法を使ってたもんなぁ……自動防御も解かずに構えることもせずに。
極薄の魔法……
指先、いや爪の先から絞り出すように放てば……
あ、もうだめ……血も……魔力もない……
このまま倒れたら……一時間と経たずに死ぬ……
だが……
アレク……アレクを探さないと……
うっすらと覚えている……
なぜか私は『高波』を使ったんだ……
でも足が……手も……
動かない……
アレク……




