647、大番頭カンダツ・ユザ
ここは……?
どこだ……?
コーちゃん?
あ、手が暖かい……この感触は……
『暗視』
「やっぱりアレク……おはよ……」
「カース。起きたのね。気分はどう? どこか痛くない?」
「痛いけど問題ないよ。ところでここはどこ?」
見た感じは洞窟だが……
「ファベルからだいたい北西ってとこかしら。カムイが選んだ洞窟よ。それよりカースったら、また無茶したのね? 頭から落ちるなんて……本当に焦ったわよ?」
「いやー上空で魔石爆弾を抱えた鳥を仕留めてたもんでさ。こっちには女達がいるし、近寄る前にどうにかしないと危なかったんだよね。」
ぎりぎりまで引きつけてから仕留めてもよかったんだが、それだと防御するのに余計な魔力を使うことになるもんなぁ……
浮身なんて魔力的には微々たるもんだし。それにしても鳥に魔石爆弾で特攻させるって……ほんとエチゴヤって外道だよなぁ。
「ところであれからここに襲撃なかったの?」
「ええ、なかったわよ。絶対あると思って起きて警戒してたのに。妙な気配すらなかったわ。」
「それはまた意外だね。鳥まで寄越したくせに。ここに気付いてないとも思えないし。何か予想外のことでも起こったのかもね。なんせ山を半分ぐらいは吹っ飛ばしたわけだし。あの鳥を飛ばすだけで精一杯だった可能性もあるね。」
「そうかも知れないわね。それはそうとカース? 今回の件、お仕置きね。しばらく反省してもらうから。いいわね?」
「あ、うん。もちろんだよ。無茶してごめんね。でもアレクのことは片時も忘れなかったよ。さっきだってギリギリで浮身を使うつもりだったし。」
「分かってるわ。でもお仕置きはお仕置きなの。じゃあ朝までもうひと眠りするのよ。」
「あ、待っ『快眠』てよ……『快眠』まだ『快眠』はなし……」
快眠三連発かよ……さすがに効く……な……
その男は尊大な態度を隠そうともせず、机の上に足を投げ出していた。
「カンダツ、どういうことだ? どう見ても山荘は壊滅しているようだが?」
「も……申し訳ございません! この罰はいかようにも!」
「お前を責めているわけではない。ただ知りたいだけだ。事実をな?」
「は、はい! ご説明いたします! 事の起こりは………………」
「ほう? ローランドの小僧がか。よもやあの部屋から脱出できる者がいるとはな。貧弱な魔法使いにしてはよくやったものよ。あっぱれと言う他あるまい。で、そやつは今どうしておる?」
「はっ! 大胆にも仲間とともに山荘近くの洞窟に身を潜めております。しかしながらこちらの手が足りず遠くから見張ることしかできておりません」
「よい。ならば明朝より赤兜を差し向けようぞ。お前は小僧に潰された拠点や店の復旧にかかれ。部隊の再編もな?」
「はっ! かしこまりました。おおせのままに。我らエチゴヤの本当の恐ろしさを知らしめてやりましょうぞ」
「うむ。下がってよいぞ」
「はっ! 失礼いたします」
エチゴヤの大番頭カンダツ・ユザがその場から退出すると、男は気怠げに杯を持ち上げ……飲み干した。
「くっくっく……ローランドだとかエチゴヤだとか……とるに足らんことなのに……ふふっ」
そして男は浮かび上がり、部屋から姿を消した。
「カンダツさん……あのお方は何と?」
「部隊の再編と拠点の復旧に励めとのことだ。まったく……わずか一日で何という損害だ。それをやったのがたった一人のガキだとはな……」
「ローランドの魔王とあだ名されるのも伊達ではないってことでしょうか。アガノがやられたのも無理からぬことだったんでしょうな」
「魔法しか能のないローランド者と侮るわけにもいかんな。すぐに残った深紫を全員集めろ。朝になれば赤兜が攻撃を始める。それまでに我らの手で魔王の首をとるのだ」
「よろしいので? 再編と復旧を命じられたのでは?」
「いいんだ。今すぐ攻めてはいけないとは言われてないからな。むしろあのお方の手を煩わせる前に我らでカタをつける。いいな?」
「かしこまりました。すぐに集めます。カンダツさんが直接指揮をされますか?」
「ああ。あの辺りは私の方が詳しいからな。お前は深紫を集めたら拠点の復旧にかかれ」
「かしこまりました。カンダツさんのご武運をお祈りしております」
エチゴヤも動き出した。




