646、女達の話し合い
「そうなんですか。エチゴヤに。そこをカースに助けられたんですね。よかったですね。きっとローランド王国に帰れますよ。」
「あの、あなたも彼に助けられたんですか?」
「まだそんなに若いのに……」
「さぞかし大変な目に……」
「え、ええ……私も助けられたみたいです。何も覚えてないから何とも言えないんですけどね。」
「覚えてないほど……」
「その若さでどれだけ酷い目に……」
「なんてこと……」
「あっ、いえ、私のことはいいんです! 気にしないでください! 皆さんがご無事で何よりです!」
「ねぇ……あの彼って一体どんな人なの……」
「信じられない魔力だったよね……」
「意味わかんないぐらいすごかった……」
「模範騎士ウリエン様……知ってますか?」
「そ、そりゃあもちろん」
「私……姿絵持ってたわ」
「私も……で、それがどうかしたの?」
「カースはウリエン様の弟です。つまり、好色騎士アラン様と聖なる魔女イザベル様の三男なんです。」
「ええっ!? 本当に!?」
「そんな!? すごい……」
「だからあんなに凄いの……」
「さ、さあ……でもカースが凄いのは本当だと思います。あ、そろそろ夕食みたいです。皆さん並んでください。」
アーニャの視線の先にはアレクサンドリーネがいた。
「できたわよ。食べたい者から食べなさい。」
アレクサンドリーネの隣には大鍋が浮いており、暖かそうな湯気を立てていた。そして鼻に直撃する強烈な匂いを漂わせていた。
女達は吸い寄せられるようにふらふらと集まっていった。
「ふいぃー。やっぱり金ちゃんの料理はおいしいねー。そりゃあニンちゃんも惚れるよねぇー。」
「もうクロミったら。それよりカースの具合はどうなの?」
「酷かったよ? もうめちゃくちゃ。お腹に穴が空いてたし。ポーションで治したみたいだけど完全には治ってないし。それに全身の筋肉がズタズタだったし。どんだけ身体強化使ったのって感じ?」
「そんなに……もうカースったら無茶ばっかりして……」
「おまけに何か変な薬飲んでるし。こんなの普段のニンちゃんなら何てことないのにさー。魔力が空っぽな時があったせいで変な影響出てるしー。もー!」
「アーニャ! 彼女達から話は聞いてくれたわね? カースが薬を飲んだらしいけど何か聞いてる?」
「うん、聞いたよ。何かね、あの子がエチゴヤの男に渡された薬なんだって。で、カースはそれを『かえ……りゅう……』とかって呼んだらしいんだって。」
「かえ、りゅう……何かしら……魔力に関係があって危険な薬……あ! もしかして 『不帰の龍血』!?」
「あ、そんな感じ! で、それってどんな薬なの?」
「飲むと魔力が常時回復し続けるわ。つまりその間は魔法使い放題ね。よほどの大魔法でない限りね。でもその分薬が切れた時は危険ね。下手をすると死ぬわ。まあ、カースに限ってその心配はないと思うけど……」
「ええっ!? そんな薬を!? か、カースは大丈夫なの……!?」
「大丈夫よ。女の子が持ってた薬なんでしょ? 本物とは思えないわ。だからきっと大丈夫。」
「そ、そうだね……」
腹が満ちた女達は一人、また一人と寝入っていく。彼女達もそれなりに疲れていたのだろう。
「そんじゃ金ちゃん。ウチはちょっと行ってくるねー。」
「ええ、気をつけて。クロミだって魔力が残り少ないんだから無理しないでね。」
「え、クロミさんどこに?」
「んー、ちょっとドロガを迎えにねー。ほら、ウチらってさっきの場所から脱出しちゃったしー。ほーんと人間のくせに生意気だしー。」
「仕方ないわよ。あいつらには魔法が効かないんだから。無理に戦う必要なんてどこにもないわ。それよりクロミ、コーちゃんにも一緒に行ってもらった方が……」
「ピュイピュイ」
コーネリアスは鎌首を縦に振っている。
「いいってー。精霊様はニンちゃんを見ててくださいよー。」
「ピュイ」
「本当に気をつけてよ? いくらクロミでも。」
「大丈夫だーいじょーぶ。んじゃ行ってくるしー。」
クロノミーネは音もなく闇に消えていった。
「クロミさん大丈夫なのかな……あいつらまだうろついてるんじゃ……」
「大丈夫よ。クロミは一人なら身軽に動けるもの。問題ないわ。」
「そう……だよね……」
「私達も今のうちに休んでおくわよ。『水壁』この上に寝るといいわ。」
「あ、うん。ありがとう。うわぁーポヨンポヨンのウォーターベッドだぁ。」
「おやすみアーニャ。」
『快眠』
「あ、おやす……」
「カムイも寝ていいわよ。私が見張ってるから。」
「ガウガウ」
入口付近にいたカムイはカースのそばにやって来て寝そべった。アレクサンドリーネは休むと言った割にはその気配がない。カースの手を握ったまま周囲の警戒を続けるようだ。




