644、一難去って
ふぅー……さすがにすごい振動だったな。深めに掘っておいて助かったようだ。あれだけもの魔法を使っても魔力は少しも減っていない。これは危険だな……早くコーちゃん達と合流しないと……
『風球』
天井に向けて風を放つ。うん。いい天気だ。空がこんなに青いなんて知らなかったよ。
おっと『風壁』
時間差で先ほど巻き上げた土砂が落ちてきた。かなり岩石も混ざってるな。天都やファベルにまで被害がいくかな? 別に知ったことじゃないけど。
「え……そ、外?」
「風が冷たい……今って冬なの……」
「ここっていったい……」
そうか。こいつら太陽も見れない生活をしてたんだったか……ずっとあそこに閉じ込められっぱなしで……いくらローランドの女に美形が多いからって……よりによってこいつらばかりが。
それにしても、振り返って見れば……山がごっそりと陥没している。さすがに更地とはいかなかったようだな。
この山が丸ごとエチゴヤの拠点だったってことか。そしてここを潰した以上、残すは幹部どもだけってことか? まさかこれだけ大がかりな施設なのに本拠地じゃないってことはないよな?
それにしても……大番頭の野郎はとっくに逃げてるよな。まさか生き埋めになってるなんてことはあるまい。今回は痛み分けってことで勘弁してやるよ。次は絶対殺す。
『氷壁』
「乗れ。ここを離れるぞ。」
「え……?」
「これ、何?」
「氷?」
文句を言いながらも乗った女達。
『浮身』
『風操』
ただし低空飛行だ。いつ薬の効き目が切れるか分からないからな。この手の薬の効果って一時間から半日ってとこだが、ばらつきが大きいんだよな。下手すりゃ十五分って場合もあるらしいし。私が飲んでからそろそろ一時間は経つし、いつ切れてもおかしくないんだよな。効き目が切れる前にクロミに会わないとマジで危ない。
「大まかな流れを説明しておくぞ。天都にいるローランド人を集めたら、次はオワダに行く。オワダからはバンダルゴウ行きの船が出ることになってるからな。だから最悪でもオワダに行けば何とかなるって思っておけばいい。オワダ商会な。すでに渡航費は払ってあるから。」
私が身動きできない場合もあるかも知れないからな。
「オワダって、どこですか?」
「ヒイズルのどこか?」
「バンダルゴウってタンドリア領の?」
あぁ……そこまで何も知らされてないのな。ひでぇな……
「ここ、天都イカルガをヒイズルの東側だとするとオワダは西側だな。島の中心にあるシューホー大魔洞を挟んだ反対側ってとこか。歩いていくには北か南を回るルートしかないらしいぞ。」
飛んだから分かるのだが、歩いて山越えは無理だろうな。どんだけ高く険しい山を越えなきゃいけないことか。まあ、片付いたら連れてってやるけどね。ギルドにもたくさん集まってそうだし。
「そんな……」
「で、でもヒイズルってローランドほど広くはないって……」
「道中に魔物や盗賊だって……」
「基本的には俺が連れてってやる。あくまでこちらの都合が悪くなった時の話だ。今日だって俺達全員死にかけたんだぞ?」
「あ、は、はい……ありがとうございます……」
「助けてもらった上に、そこまで……」
「あ、鳥。鳥は自由でいいな……」
まったく、こんな時にのん気なもんだ……
いや、でも分からんでもないか。拐われてからずっと地下だったことを思えば……
こんな冬空でも鳥は飛ぶ。当たり前か。白い鳥、カモメかな? どこかで見た覚えがあるな。どこにでもいそうな鳥とは思うが。
「あー、こっち来るよー!」
「うわぁーかわいい! 鳥がこんなに寄ってくるなんて!」
「何か餌とかない?」
無邪気なもんだな。見た感じ全員私より歳上っぽいのに。それにしてもまっすぐこっちに来るな。鳥にしては珍しいが……餌なんか持ってないぞ?
「あの鳥、何か持ってる……」
何?
『遠見』
数十羽もいる鳥が……どいつもこいつも足に何かを掴んでやがる。あれは……
「あっ、ちょっ……」
「どうしたんですか?」
「こんな所に降りて……」
「天都はあっちだ。俺がやられたら歩いて行け。」
「え、そんっな」
「待っ」
「気をつけっ」
『浮身』
全員降ろした。鳥ごときに負けるつもりはないが、途中で薬が切れたら終わりだからな。
そして、思い出したぞ。この鳥ども……オワダで沈没船を引き上げた時に現れた奴らと同じだ。つまり、足に抱えてるのは魔石爆弾ってわけだな。無駄なことを。所詮こいつらは体当たりして自爆するか上から落とすぐらいしかできない。だから私の方が上をとれば対処は楽なものだ。
それに飛ぶスピードも私からすればノロマだしな。
『火球』
鳥を相手には過大なほどの魔法を放つ。狙いは……
魔石爆弾を爆発させるため、そして他の魔石爆弾もことごとく爆発させるためだ。
半分は上手くいった。狙い通り鳥たちは自らが抱える魔石爆弾によって死んでいった。
残る半分は私を囲むように距離をとっている。警戒するほどの知恵があるってわけか。
だが所詮は鳥頭だ。
『狙撃』
遠距離攻撃は私の独壇場だ。お前らは近寄ることもできずに死ぬんだよ。地上に被害が及ばないように魔石爆弾を撃ち抜いてやった。自分の爆弾で死ね。
ふう……危なかった……
残りの奴らが同時に突っ込んできたもんだから狙撃では間に合わなかったよ。仕方ないから自動防御を張りつつ榴弾で全滅させた。いくら魔力が減らないからって使いすぎたか……
だが、これで全滅か。もう来ないな? 見える範囲にはいない。ではあいつらを拾って戻るとす……がっ!?
……やばい……切れた……
魔力が……魔法が、使えな……
頭が……破裂、し、痛……
落ち……やば……頭いた、たす……




