643、地下の光明
ちっ……やはり普段使う程度の範囲では何も反応がない。もっと広範囲に、もっと上下にも広げなければ……
よし……反応あり。しょぼい魔力だが数は多い。これってもしかしたらファベルの奴らなのかも。方向は分かった。そして高低差もだ。ここが山の中であるにもかかわらず、魔力反応があった場所とほぼ高低差がない。つまり、ここはそれだけ深い場所だということになる。やはり斜面を目指して真横に掘り進むのがベストか。距離的には少しばかり斜め上に向かった方がいい気もするが……安全第一でいくかな。
「お前らの中で魔法を使える者はいるか? 壁系でここを支えて欲しいんだが。」
使うだけなら点火でも水滴でも使えるだろうからな。
だめか。揃いも揃って首を横に振りやがる。壁系は初級魔法じゃないもんなぁ……仕方ない。
『鉄壁』
一部を解除して一部を太くした。
『水鋸』
壁を切る。
「さて、お前らに仕事だ。見ての通り今は壁に切れ目を入れている。それをどけてもらおう……あ、いや、だめだ。取り消す。何もせず見てろ。」
だめだな。魔法が使えないなりに働かせようと思ったが、酸素の問題がある。何もさせず少しでも消費を少なくしておかないと危険だ。くっ、一人でやるしかないか……
『風操』
切り取った壁の隙間に風を流し込み、無理矢理引き抜く。うーむ、いくら周囲は切れていても奥が切れてないから抜きにくいんだよな。しかも、引き抜いたら上が崩れたし。どうしろってんだよ!
くそ……穴を空けつつも上が崩れてこないようにするには……
トンネルか。トンネルを掘るつもりでやってみたらどうだ? 少し掘っては補強をする。その繰り返しならば……
『水錐』
トンネル掘りならこの魔法だ。回転する水のドリル魔法だ。ムリーマ山脈でもトンネル工事に少しだけ参加したのがいい経験になったな。
前方を一メイルだけ掘っては地面の下半分を埋める。そして上側に半円の『鉄壁』
よし。これなら崩れない。いい感じだ。
このままいくぜ!
まだかよ……
もう五百メイルは進んだぞ? 魔力探査をした感じだと魔力反応があった場所まで四、五キロル。仮にそこがファベルの中心部だとすると、ファベルの外縁から山の麓までの距離は二、三キロルってとこだろう。
ならばまだ良くて半分ぐらいしか来てないってことか? ちっ、魔力が残り少ない……もし今が半分だとするなら、とうてい足りないことになる……どうするか……
「お前らの中に魔力ポーションを持ってる者はいないか?」
私だって魔力ポーション『純松』があるにはある。残り一本だが……
「ごめんなさい……」
「ないです……」
「あるわけない」
ちっ、そりゃそうだ。冒険者でも貴族でもない平民が、あんな高いもん持ってるわけがない。おまけに拐われてきた奴らだしな。
「あの……魔力ポーションじゃないんですけど……」
おっ、ネリーか。今度こそ期待していいんだろうな?
「何がある?」
「こ、この薬なら……」
「どんな薬なんだ?」
コーちゃんがいないと薬の良し悪しなんて分からないぞ?
「そ、その……カンが私に飲ませてたんです……アレが良くなるって……」
「……さすがに今は必要ないぞ……」
コーちゃんなら喜ぶかも知れないけどさぁー。
「ちっ、違うんです! その、魔力と体力が回復するらしく……私はそれで何回もカンのアレを……」
あーはいはい。夜のお薬ね。それにしても何なんだ大番頭は? ネリーがお気に入りなのか? 確かにアレクに匹敵するほどの巨乳だけどさ。この中でも一番の巨乳だけどさ。その分腹や脚だって太いぞ? 女神のごときアレクのプロポーションとは比較にならない。
「ありがたく貰っとくわ。」
魔力も体力もボロボロの私にはよく効くかも知れないしね。あまり飲みたくはないが……
『水滴』
水に溶かして……ほぉ、無味無臭だ。飲みやすくていいね。
うーん……体感としては効き目はない。でもこの手の薬って後から少しずつ効いてくることもあるしね。作業を続けながら効くのを待つか。
おかしい……
さっきから魔力が全然減らない……
普段の私なら使っても使っても全然減った気がしないのは当然だ。魔力量が膨大なんだから。
だが、今は違う。普段の一割もない魔力をちびちび使ってるんだから、減少には敏感なんだよ。それなのに少しも減ってない。だが、回復しているわけでもない。
これって『不帰の龍血』に似てるよな……
あれは確か魔力が常時回復するんだったか。服用後の死亡率も高いそうだが……今回のは常に全快ではなく、現状より魔力が減らないってとこか。うーむ……もしそうなら……
時間制限があるな……
そして副作用がキツいはずだ。本物の『不帰の龍血』は生存率が一割程度だったか。まあ私はそこは心配しなくていいだろう。結局あれって薬の効き目が切れた時の処置や元々の魔力が物を言うわけだしね。
よし。それならやってやるか。私らしく魔力のごり押しで一気に脱出してやろう。
『徹甲弾』
進行方向に深い穴を空ける。
『水錐』
下方向に穴を空ける。
「この穴に入ってろ。」
よし。全員入ったな。
そして……魔力特盛で……『風壁』の中に……『超圧縮業火球』を封じて……穴に詰める!
『鉄壁』
穴を塞いで……手前に大岩を置いておく。
『鉄壁』
全員を分厚い鉄壁で囲う。
『水壁』
『消音』
内側には水のクッションだ。
そして最後に……『自動防御』内に全員を入れて……
「全員伏せてろ。いくぞ。」
『風壁解除』
山一つが更地になるかも知れないな……




