638、カース絶体絶命
『狙撃』
終わりだ。大番頭も第二番頭も。額をぶち抜いてやった。くっくっく……何が魔封じの首輪だ。こんなもん私が小さい頃に着けてた循環阻害の首輪ほどの効力すらない。
おっと『風斬』
ザコどもも忘れちゃあいけないぞ。全員死ね。ついでに番頭どもの首も刎ねておこう。
大番頭さえ殺れば、他の奴らなんかどうでもいい。これでエチゴヤも終わりだろ。この手の組織ってのは頭を潰せば残った奴らは勝手に争うってのが定番だからな。
それにしても……
あーしんど……
だが、耐えただけの収穫はあった。一気に大番頭と第二番頭の首をとったんだからな。
ポーション飲も……はぁーひと心地ついた。流した血までは回復しないけど、腹の傷は塞がった。痛てて……火傷までは治ってないか。ポーションが足りないようだ。後でクロミに診てもらおう。
『換装』
籠手にシャツ、ウエストコート。やはりいつもの装いは安心するね。
『コーちゃん、近くにいるんだよね。ここはもういいから戻ってカムイかクロミを連れてきてくれる?』
きっと伝わったはずだ。私はここを徹底的に潰すからな。まだ脱出するわけにはいかない。さて、出口はどこだ?
……ガシャン
何だ今の音は……
唯一の出入り口らしき扉。そこに鉄格子が、いや……紫格子? が落ちたのか。まさか、ムラサキメタリックなのか?
『お目覚めのようだな、魔王くん』
この声は……大番頭? まさか……!?
「てめぇ……大番頭か。」
どこから喋ってやがる……
『いかにも。君ごときとは頭の出来が違う大番頭カンダツ・ユザだ。魔封じの首輪が効かないのは想定外だったが、想定外の事態にも備えるのが知恵者というものだ。そしてよく分かった。君には死んでもらう他ないとな。禁術でも使って隷属させるのも面白そうだが、おそらく無駄だろう。だから死ぬといい』
ちっ、天井が……
『知っているとも。君はローランド王国の王城で似たような仕掛けから生き延びたそうだな。今回もせいぜい足掻いてみるといい』
勝ち誇ってやがる……舐めんじゃねえぞ……
『水鋸』
扉がだめなら壁を壊せばいいだけだ。岩でも鉄でも、私の水鋸なら切れないはずが……
『ふふふ、甘い。甘い甘い甘い。その壁の奥をよぉく見てみるといい。んん?』
なっ、ま、まさか……
ムラサキメタリックだと!? 壁に!?
バカな!
『水鋸』
『水鋸』
『水鋸』
『ふふふ、無駄無駄無駄。無駄なんだよ。壁だけかと思ったかい? 床も天井も、その部屋は全てムラサキメタリックで覆われてるんだよ。当たり前だがこの部屋から脱出できた者はいない。ドロガー君だろうとキサダーニ君だろうと無理だろうね』
いいや、まだだ……
『徹甲弾』
いくらムラサキメタリックだろうが鉄格子は鉄格子にすぎない。無理矢理ぶち壊せばいい。ほぉら。扉ごとぶち壊れ……て……
『無駄だと言っただろう? いくら鉄格子を弾き飛ばそうとも扉を壊そうとも。その後の備えを怠るはずがないだろう? この大番頭カンダツ・ユザが』
扉の向こう側は……ムラサキメタリックの板で塞がれていた……
天井はゆっくりと降りてくる。よほど私に恐怖を味わわせたいらしいな……
さて、どうするか……魔力は残り二割と少し。体力は残ってないし体調はボロボロ。クロミやカムイが助けに来るまで粘るか……それとも……
『どうした? もう諦めたのか? 魔王君も存外だらしないな』
座って考えてるだけだよ……
出る方法はある。問題はその後だからな。誰かが来てくれたタイミングで出ないと少しばかり危険なんだよな……
ギリギリまで待つか……
この部屋がムラサキメタリックで覆われているなら、コーちゃんへの伝言が届いてない可能性もあるが……あの時は鉄格子が落ちる前だった。つまり扉の後ろがムラサキメタリック板で塞がれてなかった可能性はある。それにコーちゃんのことだし私と意思の疎通が断たれたのなら、それなりの行動をしてくれるはずだ。
よし……
ギリギリまで待つとするか……
いや、だめだ!
待てば状況が有利になるのは私に限った話ではない!
『水鋸』
『水鋸』
『水鋸』
『水鋸』
『はははは! とうとう自暴自棄になったか! その程度の魔法でムラサキメタリックは傷一つ付かぬわ!』
『水鞭』
で切り分けた岩を一ヶ所に集めて……
『水球』
に閉じ込めてから……まとめて収納。
『はは! 無駄なことを! どこを見ても穴などありはせん!』
うるせぇんだよ……黙って見てやがれ……
いや、見えないようにしてやるよ……
ザコどもが持っていた照明の魔道具を……収納すれば、ここは密室だからな。
ほぉら真っ暗になった。貴族の屋敷なんかだと壁そのものが光る魔道具だったりするが、ここはそんなことないもんな。だからあいつらも照明の魔道具を持ってたんだろうけどさ。
『暗視』
『鉄壁』
『身体強化』
そして……やるぜ!
『螺旋貫通峰』
バカの一つ覚えって言葉があるが……最強の技ってのは一つあれば充分なんだよ……
空いたぜ……小さい穴が。
まだまだ……いくぜ……
『何をやっているか知らんが無駄なことを。せいぜい死ぬ前に足掻くといい』
やはりこいつはどこからか見てやがったんだな……
よぉし……部屋の角、直方体の頂点にあたる部分に、いい感じの穴が空いた。私が本気を出せばこんなもんだ。
いくぜ……大勝負だ。
魔力庫から、先ほど収納した魔石爆弾を穴に、出す! と同時に『徹甲弾』で蓋を……
伏せないと! くっ……
轟音を立てて魔石爆弾は爆発した。どうだ……上手くいったか……
『風操』
よし! 風が通ってる!
よしよし! 今だ! 伏せたまま! 穴の周辺を狙って!
『徹甲弾』
『徹甲弾』
『徹甲弾』
どうだ!?
いつの間にやら天井は私の身長より低い位置まで落ちてきている。だが、そこまでだ。こうなることを見越して鉄壁を使ったんだから。これより下には落ちないぜ。だが、長くは持たない。今のうちに、角に空けた穴から……
よし! 外だ! いや、外っていうかまだ建物の中だけどさ。爆発と徹甲弾でもうめちゃくちゃになってやがる。作戦成功だな。
爆発ってのは狭く閉じ込めるほど威力が高くなると聞いたことがある。だから魔石爆弾をムラサキメタリックの隙間に埋めてから蓋をしてやったのさ。螺旋貫通峰の連発でダメージを与えた後ってこともあるし、爆発の威力で穴が広がってもおかしくないだろう。
賭けだったけどね。これでだめならもう何十回も螺旋貫通峰を使うしかなかった。そんなことをしたら……確実に体は壊れていただろうな。
いや、今だって余裕があるわけじゃない。が……チャンスだ。
近くに大番頭がいるはずだ。途中で急遽天井が落下したことからも、私の生死が把握できなくなっているはすだ。いや、むしろ死んだと思っていてもおかしくない。
待ってやがれ……
今、行くからなぁ……




