637、囚われたカース
舐めんじゃねぇ! 腹に弾が入ったぐらいで……!
『換装』
『金操』
上半身の服を収納し、弾を無理矢理抜いた……が……
やばい、もう魔力が……
「ふん、まだそんな元気があったか。だがこれまでだ」
魔石、爆弾か……
「死ね」
『風壁』
残った魔力で……最低限の……
「くく、まだ死んではいないか。だがもう動けまい。ならばいいものをくれてやろう」
なんだよ……
「エチゴヤ名物魔封じの首輪だ。お前ごときにはもったいない高級品だ。ありがたく受け取るんだな」
殺さないのかよ……甘い奴だ……
「くく、これでお前はそこらのガキにも劣る存在だ。後でたっぷりもてなしてやろう。どうか殺してくださいと懇願するまでな」
うるせぇ……
「さて、妙だな……あやつら……」
バカが……どこかに行きやがった……今のうちに……魔力ポーションを……
ふぅ……だが通常のポーションは飲まない……
まだ、しばらくは我慢だ……
『コーちゃん……もうそっちはいいよ……どこかに隠れて後から付いてきて……』
よし……きっと伝わっただろう……
血は止まらないし腹の傷は痛いが……しばらくこのままで……
「ちっ、まだ仲間がいたのか。呼んでも来ないから妙だとは思ったが。くそっ、面倒な」
ん? 私は一人しか殺してないが……
コーちゃんが何かしたのか……
『浮遊』
私をどこかに連れていくつもりだな……
いいぜ……連れてけよ……
「目障りだ。この中に入ってろ」
ぐっ、これは……木箱か……
まるで小さな棺桶じゃないか……狭すぎだろ……
「エチゴヤに逆らった報いはたっぷり受けてもらう。お前の仲間も一緒にな。せいぜい洗いざらい吐いて早く殺してもらえるよう祈っておけ」
ふん……うるせぇよ……
ぐえぇ……この木箱……中に何入れてやがった……
めちゃくちゃ臭ぇ……
だが、今のうちに魔力ポーションをもう一本飲んでおこう……あーくそ……まずいし臭いし、腹が痛い……内臓まで傷ついてんのかな……
早くクロミに診てもらわないと……出血もやばい……
だが、まだだ……もう少し、もう少しの辛抱だ……
絶対本拠地を突き止めてやるからな……
揺れが収まった。着いたか?
痛っ、いきなり魔法を解きやがったな? 木箱を落としやがった。
ん? なんだか熱いぞ……
この匂いは……マジかよ!
木箱ごと燃やされてんのかよ! 普通死ぬぞ!?
ここは私の演技の見せどころだろうが、今の私はそんな元気もない。ぎりぎりまでぐったりとして体力を温存するしかない。
あー熱い……呼吸は苦しいし……
そろそろ火傷じゃすまない熱さになってきたぞ……
「動かないな。死んだか?」
「いえ、こやつはしぶとそうでした。健気に耐えて機をうかがっていると見ました」
この声は第二番頭と……もう一人は知らないな。つーかやばい……上半身が! 熱いし痛い!
「あじゃじゃじゃじゃあああーー! 熱いぃぃぃーー! 助けてくれぇぇぇーー!」
「おお。よかったよかった。生きておったか」
「ではもうしばらく見物しておきましょう」
こいつら……熱いって言ってんだろうが!
だが、今ので分かったぞ……第二番頭が敬語を使ってるってことは……この声の主はもしや大番頭か!? 会いたかったぜぇ……
「たのっ、たのむうっ! たすっ! たすけてくれぇぇぇーー!」
半分以上演技だけどさ。熱いのは本当。たぶん背中はかなり火傷してるはず。自動防御を張ってないんだからさ。
酷い筋肉痛の上に火傷かよ……勘弁して欲しいな……だが、もう少し……
「意外に元気だな。痛めつけようが足りなかったのではないか?」
「どうやらそのようで。おい、お前ら。箱ごと叩き壊せ」
うぐぉっ!? 数人がかりで……鉄棒か何かで箱を叩きまくっている。燃えてるわけだから当然脆い……必然的に私の身は……
「や、やめっ、うぐっ、い、あがっ、やめ、やめて……ぐああっ!」
叩かれるタイミングに合わせて声を出す。痛いのはマジだしな。くっそ……傷口に響きやがる……
「たわいないな。こやつがローランドの魔王とやらか。所詮はガキか」
「そのように聞いておりますが、いささか怪しくなってきましたな。今一度調べ直した方がよいのかも知れませんな」
くそ……いつまで叩き続けてんだよ……やべぇ……腕が折れたか……さっきエルダーエボニーエントの籠手まで収納してしまったからな……
「さて、そろそろ話が聞きたいな」
「はい。お前たち。そやつを引きずり出せ」
やっとかよ……
くそが……もっと丁寧に扱いやがれ……髪の毛を掴むんじゃねぇよ……
「どうだったかな。歓迎の火祭りは。気に入ってくれただろう? 次は冷たいのもあるけど、その前に話を聞こうじゃないか」
「さてローランドの魔王よ。今から質問をするから素直に答えるといい。正直に話せば楽に殺してやるからな」
腐れ外道のエチゴヤが約束を守るわけないだろ……
「ムグラザ、お前に任せる」
「ありがとうございます。さて魔王、お前の目的を言え。なぜエチゴヤを狙う? なぜローランド人奴隷を買おうとする?」
ムグラザ……北の第二番頭ムグラザ・ウオヌか……名簿にあった通り……
やはり私の考えは正しかったのか……まあ、さっき自白してたけどさ……
そんな第二番頭に命令しているこの男は……
間違いない……大番頭……カンダツ・ユザ!
会いたかったぜ……ここでサヨナラだけどなぁ!




