631、狂気の劇場 狂乱麗奴
次の店はテンポが捕まってそうな候補、その本命である『狂乱麗奴』だ。
この店こそが最低の見世物をやっている、エチゴヤの中でも最悪の場所らしい。
ちっ、外見からでは他の建物と全然区別できないな。ここにはどうやって入ろうかな。
あっ!
「ピュイピュイ」
コーちゃん! てことはドロガーもこの近くにいる?
「ピュイ」
なんと。テンポの奴もここにいるんだね。だけどドロガー一人じゃあ攻め込めないから様子を見てたと。私かクロミを呼びに戻ろうと考えてた時にコーちゃんが私を発見したってわけだね。それならちょうどいい。
ドロガーを呼んできてくれる?
「ピュイピュイ」
ドロガーがいると拷問のレベルが上がるから助かるんだよな。あの激痛は普通に拷問するよりよっぽど効率的だわ。
「おう。いい時に来てくれたじゃねぇか。」
「たまたまな。朝からあちこち潰して回ってるけどさ。なかなか本命にぶち当たらなくてな。どいつもこいつも口が固くてな。」
「エチゴヤのクソどもにしちゃあ上出来だぜなぁ。まっ、俺が来たからにゃあ任しとけや。極上の激痛をくれてやるからよぉ。」
「期待してるぞ。さて、お前らは例によって裏に回りな。出てきた奴は殺せ。」
「おお……」
「ああ」
私とコーちゃん、そしてドロガーは正面からだ。おっとそうそう。コーちゃんは別行動を頼むよ。地下通路を探してもらえないかな。で、そこに逃げようとする奴がいたら噛んでやってよ。
「ピュイピュイ」
よし。孤児院でやったようなミスはもうしないぞ。一人も逃すものか。
では改めて『水球』
巨大鉄球のごとき水球を正面にぶち当てる。思い出すなぁ。フランティア領都の城門をぶち壊した時を。当然ながら城門ほどの丈夫さがあるはずもない入口だ。一発で全壊、さあ入ろう。
「いきなりかよ……」
「まあな。今朝からあちこち潰したもんだから、そろそろ情報が回ってもおかしくない頃合いだ。だからもう思いっきりやっていいってことさ。」
「へぇ? 思いっきりかよ。殺っちまっていいんかぁ?」
「構わんだろ。テンポは適当に探しても見つかるだろうし。」
「まっ、それもそうだな。ここにいるこたぁ蛇ちゃんが教えてくれたしよ。」
本来ならコーちゃんの案内でテンポの所まで行ってもよかったんだが、それより優先するのはやっぱ逃げ道潰しだよな。絶対一人も逃さんからな。
「なんじゃあこらぁ!」
「どこのモンじゃらぁ!」
「殺しちゃろかいのぉ!」
「今夜の見世モンにちょうどええわいや!」
「逃すんじゃねぇぞ!」
おーおー。ぞろぞろ出てきたねぇ。
『風斬』
首チョンで終わりだ。そしてさらに『水球』
壁も柱もぶち壊す。ここも更地にしてやるよ。
「おい、俺ぁテンポぉ探しに行くからよぉ。」
ドロガーまで別行動か。まあいいや。その方が効率的だもんな。
「別にいいけど青紫烈隊なんかに出くわしてやられんなよ?」
「俺が負けるわけねぇだろ。そんじゃ後でなぁ。」
ならば私はドロガーとは逆の方に向かおうか。私が派手に暴れればその分あいつを助けやすくなることだしね。
『水球』
おまけに雑魚どもがたくさん現れるな。趣味の悪い見世物をやる店にこんなに店員が必要か? まあ服装からして店員ってよりはゴロツキだけどさ。
おっ、こっちの部屋は広いな。ん……この匂いは……
ここか。ここが見世物部屋かよ……
人間を解体したり、薬を飲ませた者同士を死ぬまで戦わせたり。五、六歳の子供を客の目の前で犯したり、誰が一番悲鳴を上げさせられるか競ったり……鬼畜の宴の会場ってわけかよ……
「ようこそ魔王さん。本日はエチゴヤが誇る大衆劇場『狂乱麗奴』にようこそお越しくださいました。せっかく来てくれたんだ。楽しんでいってくださいね?」
『狙撃』
「焦らない焦らない。お楽しみはこれからですよ?」
ちっ、ゴーレムかよ。自分は離れた場所にいてゴーレムを操ってるだけだろ。ニコニコ商会にもこんな奴がいたよなぁ。そうそう、セグノだ。傀儡のセグノとか呼ばれてたよな。そんなセグノも今じゃあゼマティスの伯父さんの妾だもんなぁ。人生色々だわ。
『火球』
何のゴーレムか知らんが私の炎で燃えないはずがない。ついでに部屋も全部燃えてしまえ。
「死ねぇ!」
「とったるぅ!」
「おどりゃああ!」
「 そこじゃああ!」
おやおや。ゴーレムだけでなくチンピラどもまで出てきやがった。私に隙ができるまでもう少し我慢できなかったもんかねぇ。
『風斬』
『火球』
チンピラには風斬を、ゴーレムには火球を。
おっと、上から網かよ。
『風斬』
私を捕まえようなんて無理だね。ムラサキメタリックの網なんてあったら最悪だけど、まあ無理だろ。そんなの作るのにはどんだけ技術が要ることか。
「なかなかやりますねぇ。さすがは傷裂ドロガーとともにシューホー大魔洞を踏破しただけありますねぇ。ですが、遊びはここで終わりにしましょうか。到着しましたよ? エチゴヤ最強部隊、深紫がね」
ゴーレムの声担当のやつ、まだ逃げてないのかよ。まあ逃がさないけどさ。
それにしても深紫が最強なのか? 昨日の暗部って奴は違うんだろうか。あいつはそこそこ強かったが。
ステージ側からぞろぞろと現れたのは見覚えのある紫の鎧。名前の通り深い紫色をしてやがる。
「さあ深紫の皆さん! 二十億ナラーは目の前ですよ! 手の一本でも四億は貰えるんじゃないですか?」
ざっと十五人か……紫弾も金操も使えない、か。
少し困ったな。どうしてくれようか……




