630、色街の淫蕩華園
おっ、やっと目を覚ましやがった。まずは偽番頭か。
「起きたか。次は色街に行くぞ。」
「あ、ああ……な、何が起きた?」
「あそこの館長が奴隷に命令して全員で魔石爆弾を使いやがってな。あの周辺は更地になったぞ。」
「魔石爆弾か……よく生きてたな……」
こいつだって孤児院で魔石爆弾を使いやがったくせに。いや、あれは第一番頭だったっけ?
「まあな。」
鉄壁を使わなかったら少し危なかったかな。外傷はなくとも吹っ飛ばされて内臓シェイクだったかも知れないし。
念のため魔力ポーションをもう一本飲んでおこう。やっぱくそまずいな……
だが、これでどうにか今朝起きた時ぐらいまでは回復したな。なんせ紫弾どころかムラサキメタリックに向かって金操を使ってしまったからな。魔石に金操を使ってもごっそり減るけど、ムラサキメタリックはそれ以上だわ。ほんとタチの悪い金属だよなぁ。
おっ、偽赤兜も起きたな。
「じゃあ行くぞ。エチゴヤが関係してる店で一番大きいのは何て店だ? もちろん色街でな。」
「ここは……」
「説明してやれ。」
偽番頭が偽赤兜に説明をする。こいつらも同じ組織だろうに昨日、いや今朝が初対面か。初会話はさっきの店の裏だな。何か悪巧みでもしたかな? 無駄だけどね。この二人には絶対服従がかかってるからな。
思えばさっきの館長もきっちり絶対服従しろって約束させるべきだったんだよな。魔力をケチったせいで大失敗だよ。もっとも、絶対服従って言ったらあの野郎は首を縦に振らなかっただろうけどさ。そうなると結局殺されるわけだから、あいつにしてみれば結果は一緒か。むしろ一人で死ぬより私や周りを巻き込んだ方がマシ、とでも考えたんだろうか。
たぶん違うな。あいつは明確な意志を持って私を狙った気がする。わずかな可能性に賭けてさ。闇ギルドで上に行く奴ってのはやっぱ違うもんかねぇ。
「一帯が更地になるほどの威力なのに生き残ったのか……しかも無傷で……」
こいつも偽番頭と同じようなことを言うよな。
「じゃあ行くぞ。一番大きい店に案内しな。」
偽番頭は道案内の役には立たない。偽赤兜がしっかりしろよな。
移動は一瞬。眼下に見えるこの辺りが色街か。見た感じは他のエリアとの違いを感じないよな。強いて言えば一軒一軒の建物が大きいぐらいだろうか。エゲつない見世物とかもやってんだろうなぁ……
「たぶんあの店が一番でかい」
「店の名前は?」
「淫蕩華園。安い女から高い女まで品揃えが売りの店だ」
ふーん。朝聞いた店とは違うようだ。てことはテンポの奴はいそうにないってことだな。どうしようかな。いきなり氷塊を落としてぶっ潰してもいいんだが……女がいるんだもんな。
仕方ない。地道にやるか。
「ここの主人は何て奴だ?」
「知らん。会ったこともない」
はいはい。縦割りね。
「お前らは表と裏を固めてろ。例え客でも出すな。殺さない程度にぶん殴って寝かせとけ。」
「おお……」
「ああ」
さて。では行くとしよう。この手の店には用心棒がいるもんだが、どうなのかねぇ。
「いらっしゃいませ。ですがお客様申し訳ございません。ただいまの時間は全ての女がふさがっております。昼過ぎにお越しいただけますとちょうどよいかと」
「いくらだ?」
「は?」
「ここで一番の女はいくらだ?」
「は、え、ええ一晩で百万ナラーでございます。ですがあいにく現在はふさがっておりますので……」
「呼べ。一億払う。今すぐここに呼べ。」
白金大判を落とす。いい音が響くねぇ。それにしてもやっぱ私はクレーマーか? 違うな。この場合はモンスター客って言うのかな。最低じゃないか。私が忌み嫌うモンスターペアレントの同類じゃないか? いや、でも金はめちゃくちゃ払う姿勢は見せてるし? そもそも相手はエチゴヤだし。関係ないね。
「はっ、はいいぃ!」
おっ、意外に物分かりがいいじゃん。金も拾わず走っていっちゃったよ。私は別にナンバーワンなんかに用はないのに。
さて、事務所はどこかなー。
「お客様、こちらは関係者以外立ち入り禁止となっております。ご遠慮ください」
おっと、別の店員発見。こいつはベテランぽいな。
『氷弾』
ベテランぽいから死んでもらおう。こいつが来た方に事務所があるわけね。
発見。ノックせず扉を開ける。
「誰だぁこら!」
うおっと。いきなり殴りかかってきやがった。ノックをしなかっただけなのに。何かそういうルールでもあるのか?
『氷弾』
『氷弾』
『氷弾』
終わりだ。ボスっぽいのはいない。ここは平の店員用か?
次だ。
おっ、こっちか。頑丈そうな扉だし。
ちっ、鍵がかかってやがる。
『水鋸』
ほい開通。
店長いるかなー。
いないのか。ふーん、家具は中々いいのがあるじゃん。机に椅子にソファー。戸棚に本棚、おまけにワインセラーか? いい品揃えじゃん。全部没収。金庫がないな……絶対あるはずなのに。
闇ギルドの奴らって店の売上は魔力庫に入れないようにしてるみたいだからな。たぶんそういう契約魔法をかけられてるんだろうな。
『風斬』
部屋を切り刻んでみる。どこかに隠し扉でも……ほぉらあった。金庫はそっちか。
よし発見。
『水鋸』
普段なら金庫ごと収納するんだけど、今はちょっと気になることがあるんだよね。
よし開いた。
現金が……少なっ。一千万もないじゃん。この規模の娼館でこれは有り得ない。一晩で億近く売り上げてるはずだし。あっ、そうか。朝イチで売り上げを本部的なところに運んでるのか。だから店長もいないってわけね。
まあいい。本命は……おっ、これかな?
あった。娼婦の名簿。名前や歳、出身や買い値、年季などが書いてある。
ふぅん……ヒイズル出身の者はきっちりどこどこ領の何村とまで書いてあるのに、ローランド出身の者はただ『ロ』としか書いてない。おまけに年季の欄は空白になってやがる……死ぬまで働かせるつもりってことだな。娼婦として役に立たなくなっても、ずっと……
くそが……
「なんだぁてめぇは!」
「おい来てくれ! 館長の部屋が!」
「泥棒か!」
「生かして帰すんじゃねぇぞ!」
『氷弾』
『氷弾』
『氷弾』
『氷弾』
生かして帰さないのはこっちのセリフだ。この腐れ外道どもが……
もう情報はいらん。店員は皆殺し。客は半殺しだ。
面倒だが一部屋ずつ開けていく。
寝ている客もいれば、朝から一戦交えている最中の客もいる。
『氷弾』
両肩に一発ずつ。ただの八つ当たりだからな。
「なっ、なんだ貴様は! このワシを誰だと思って『麻痺』……」
「ここはもうすぐ更地になる。さっさと逃げな。」
「ちょっ、あ、あんた何てことを……こ、殺されるよ! わ、私は関係ないからね!」
そりゃあ関係ないだろ。
『解呪』
「まあ好きにすればいいさ。助けて欲しかったらギルドまで行けばいい。じゃあな。」
これは予想以上にダルいな……一体何部屋あるんだ?
終わった……
途中で出くわした店員は皆殺し。客は気絶させるか麻痺させた。用心棒っぽいのも何人かいたがムラサキメタリックに換装する前に殺した。
そして娼婦たちには解呪を施してギルドへ行くようにとだけ伝えた。ローランド出身の女には別に金まで渡したし。ギルドで合流するのは少々後になりそうだからね。
はぁ……めちゃくちゃ疲れた……
筋肉痛だって酷いのにさぁ。その上この気疲れだよ……
あーマジで疲れた……
よし。次の店だ。
ここまで大きい店はもうないだろうから少しは楽になるといいんだが……




