629、館長の意地
この野郎、服の下にきっちりムラサキメタリックを装備してやがったか。私みたいな真似しやがって。
「あれぇ? 顔を狙わないなんて余裕だね。そんなに僕とお喋りしたいのかい?」
当たり前だろ。珍しくまともな情報を持ってそうな奴なんだからさ。
「そうだな。話を聞きたいもんだな。色々と『紫弾』なぁ!」
「いっ!? 痛ったぁ……マジで? この鎧を貫くって……超痛いんだけど。あーあ、マジやってらんねー。せっかくその服汚さないようにしてたのにさぁ。もう殺すわ」
右肩をぶち抜いた割には元気だな。だが……『狙撃』
「おっとぉ! バレバレだよ? 同じ穴を狙うだなんてさ?」
ちっ、防ぎやがったか。私のコントロールが正確なだけに狙いがバレてると簡単に防げるんだよな。生意気な。
「さぁて、お前達! 全力でこの魔王をぶち殺せ!」
「はい」
「はい……」
「はい!」
「は、い」
「……はい」
ちっ、奴隷たちかよ。館長の言うことには絶対服従ってわけか。だが、甘いな!
『水鞭』
ちっ、避けんな!『散弾』
動きの早い奴がいたから散弾をぶち込んでやった。
おっと『鉄壁』隙なんか見せるかよ!
「惜しい。気分はどうだい? 今もう一秒遅れたら死んでたよ?」
奴隷で気を逸らしておいてムラサキメタリックの投げナイフか。私の鉄壁にすら突き刺さる威力。脳天に命中すれば即死だろうな。だが、そんなもん当たらなければいいんだよ。とりあえずナイフ没収。
だが……ちっ、いつの間にやら頭にはムラサキメタリックの兜まで装備してやがる……
「あ、そうそう。こいつらのうち半数はローランド人だよ。見て分かると思うけど金髪の女ね」
「それが? まさかそれで人質にしたつもりか? その前に死ぬのはお前だしな。」
「ハッタリはやめなよ。知ってるんだよ? ローランドの魔王が同胞を助けようと大枚はたいてることぐらいさ?」
「いいや。お前が手強いってことが分かったからもういい。後のことはお前を殺してから考える。『徹甲弾』もう死ね。」
「ちいっ!」
生意気な。いい盾持ってるじゃないか。だが、甘いな。盾ってのは手で構えるんじゃない。足腰で構えるもんなんだぜ?
『徹甲弾』
「くっ……」
ほうら。もうふらついた。城門をもぶち破る私の徹甲弾だ。ムラサキメタリックは貫けなくともその威力は着実にお前の体力を削るだろうさ。こいつが弾いた徹甲弾がよそに迷惑をかけそうだが、そんなのは知ったことではない。
『狙撃』
「ぎいぁー!」
使えない右手まで動員して盾を構えるからだ。右肩の穴が丸見えだぜ?
「お前達! 何をしている! さっさとこいつを殺……せ、え?」
「遅いな。お前がのんびりしてる間にとっくに制圧したぞ?」
水鞭でぐるぐる巻きだ。
「さあ、もう死ね。」
「待てぇ! 三番! 舌を噛み切れぇぇーー!」
「はい! っつぐっぐぶぶっ……」
「おらぁ魔王! 動くと次のぉ! 四番も舌を『徹甲弾』っぐおっいぎっ!」
この野郎……舐めた真似しやがって……
『金操』
残りの魔力なんか知ったことか! 兜を! 無理矢理! 引っこ抜く!
「さあて、また顔が見えたな? じゃあ死ね。」
「ま! 待てっ! 話す! 話すから!」
『散弾』
「あぎゃっごびぃいいぃぃいいい!」
顔に散弾を撃ち込んだ。威力は抑えてあるから死ぬことはない。かなりの激痛だろうがな。
「残念だ。せっかく話を聞こうと思ったのに、お前その口じゃあもう喋れないだろ。つくづく残念だ。」
「ばふっうぅっびじゅっつつううう!」
「何て言ってるか分からない。それとも話したくなったのか? それなら首を縦に振ってみろ。」
「ばぶぅつっうっぅぅぶふっ!」
口の周りも穴だらけなもんで息が漏れてるのか。聞き取りにくいったらないな。
だが。
『解呪』
「じゃあ約束だ。俺の質問に正直に答えろ。そしたらポーションを飲ませてやる。」
「ああっぷぷっすぅううっぐぐくっ!」
よし効いた。
「ほれ、口を開けろ。」
「あがぁ……」
飲ませたくはないが、このままだと話も聞けないからな。それにしても散弾が顔に埋まったままポーションを飲んだら……知ーらね。私の鉄は錆びないから意外と安全かもな。
「足りね……」
一口しか飲ませてないからな。残りはさっきの奴隷に。まだ間に合うだろ。
よし。
「さて、話を聞こう「飛べ!」か、なにっ!?」
あれはっ! ヤバい!
『鉄壁』
くっ! マジか! 鉄壁内にいるのに……! こいつは……一体何個の……
「ふぅ……ごほっ。」
実際には自動防御があるから埃を吸い込んだりしてはないけど。
マジかよ……更地になってやがる……
誰もいない……
隣の建物にまでダメージが……
館長の野郎……あの一言で奴隷たちに魔力庫から魔石爆弾を出させやがった……おまけに自分も。くそが……とことんやってくれるじゃないか……私まで道連れに死ぬ気だったってわけか。見上げた忠誠心だな。何らかの契約魔法がかかってると見て、せっかく解呪を使ったのにさ。
「ぶっはっ! げほげほ!」
「何だ……これ……」
おお、地下は無事だったか。皮肉なもんだな。値段が安く、日の当たらない場所に閉じ込められた者ほど生き残るとは。人数的には九割が生き残ったわけだが……くそ!
またこれだよ!
情報なんかにこだわらずにさっさと殺してれば……
ふう。まあいい。助けられなかったのは残念だが私が殺したわけじゃない。切り替えていこう。悪いのはエチゴヤであって私ではない。
『浮身』
瓦礫を浮かせる。さっさとここを離れたいが、助けられる奴は助けないとな。
具体的には偽番頭と偽赤兜を。
あいつらが待機してたのは裏だから……あの辺か?
『浮身』
おっ、いたいた。見た感じ傷はないな。頑丈そうな扉のおかげで助かったってとこか。
「お前らはさっさと行け。ローランドに帰りたい者、テンモカに行きたい者。とにかく助けて欲しい者はギルドに行ってろ。」
ふぅん。ギルドに向かって歩き出す者。ぼけっと何もせずただ立ってるだけの者が大半。そして、救出に動いているのが数人か。
『鉄塊』
『金操』
「お前らこれやる。大事に持ってたらいいことがあるかもな。」
五百円玉サイズのコイン。表には私の名前、裏には簡略化したコーちゃんとカムイを描いてある。
「え……これ?」
「カース・マー……?」
「どこかで聞いたような……」
これは私からの約束手形みたいなもんだ。もし、こいつらが困ってたら助けてやるためのな。
「適当なところで切り上げてお前らも逃げろよ。赤兜に捕まったら面倒だからな。」
正当な手段なのか不当なのかは分からんが奴隷に落ちた者達だ。腐った騎士が味方してくれるとは思えんからな。
さてと。
『隠形』
『浮身』
とりあえずはバカ二人を連れて身を隠すとしよう。魔力ポーションでも飲んで一休みだ。
いくら表通りから遠く離れてるからって、あの大爆発だもんな。
そのうち騎士だって来るだろうし。
よぉし、次の標的は……




