628、奴隷解放カース
結局その後やってきたベテラン風の店員も殺して魔力庫に収納しておいた。
「商品を好きに見ていいって言われたんだが、案内してくれるかい?」
結局私を担当するのは店に入って最初に出会った若者だ。
「えっ、あ、は、はい!」
新人かな? こんな店に来たばっかりに苦労するねぇ。もしかしてエチゴヤの直営とも知らずに働いてたりするのか? 私の知ったことではないが。
「値段が高い順に頼む。予約が入ってる奴もいるらしいけど、そいつらもまとめて頼むわ。」
「えぇ……で、でも……」
「いいからいいから。別に買うわけじゃないんだから。見るだけ見るだけ。」
「は、はぁ……」
ふーん。別に鍵のかかった部屋ってわけでもないのか。ああ、部屋の中に鉄格子があるからな。客に見せやすいようになってるのね。
へぇ。鉄格子があること以外は普通の部屋だな。高く売れる奴は待遇まで違うってことか。
十五歳前後の女が八人、二十歳前後の男が二人か。いずれも恵まれた容姿をしてるじゃないか。私を睨む者もいれば媚びた視線を送る者もいる。にこやかに微笑む者もいれば無視する者もいる。色々だね。
「よく分かった。次行こうか。」
「は、はい」
予約済みなのは誰それとか、誰がいくらなどと説明をしてくれたが全然聞いてない。金など払う気はないからな。
「ここで最後です」
だんだんと部屋のグレードが落ちていくにつれ、人数は増えていった。ここなんて部屋じゃなくて倉庫だし。だが、そこまで臭くはないな。思ったより良心的な経営をしているのか、それとも見せられない場所には案内されてないのか。もしくはこの店員が知らないだけって可能性もあるな。まあいい。だいたいの居場所は把握した。
『快眠』
おやすみ。まだ眠い時間帯だろうし、そのまま寝てるといい。
へぇ。ここもやはり鉄格子か。
『金操』
「出てこい。集まれ。」
「だ、だれ……」
「何が……」
「ま、まさか……」
「出られる……」
「もうすぐ自由にしてやるよ。だからここに集まれ。」
ざっと百人ぐらいはいるか。子供からジジイまで品揃えがいいことで。
『解呪』
ふむ。全員ではないが、何人かは契約魔法をかけられてる奴がいたか。
「ほれ。これやるよ。好きに使いな。」
武器や防具はたくさんあるんだよな。
「あ、ああ……」
「い、いや、そこまでは……」
「どうにか逃げられさえすれば……」
覇気がないなー。奴隷ってのは自由になった途端に暴れるもんじゃないのか?
「逃げたいならもうしばらくここで大人しくしてな。すぐにここの奴隷全員が自由になるからさ。それからエチゴヤに復讐するなり逃げるなり好きにしな。」
さて、ここはもういいだろう。次の部屋に行こう。
「あ、ま、待って……」
「たす、けて……」
「な、名前……」
後でな。だいたいこの状況で助けろって意味が分からん。もう助けた後じゃん。
それにしても鉄格子をぶち壊したら警報が鳴るのかと思えば何もなしか。消音を使ってたから音がしないのは当たり前だけどさ。たぶんここの部屋の奴らは安いからほぼ無警戒って感じだろうか?
まあいいや。さくさく解放してやるぜ。
途中で出くわした店員はその場で眠らせておく。下っ端はどの程度ギルティか分からないからね。問答無用で殺すのは可哀想なんだよな。
さて、残りの部屋は半分を切ったか。人数で言えば一割ぐらいだろうか。高い奴ばかりが閉じ込められてる部屋だ。
「よう、見せてもらうぜ。」
「あ、いらっしゃいませ……お客様、お一人でここに……?」
『氷弾』
少しは鋭いじゃないか。つまり下っ端ではない。だから殺した。
『金操』
檻の鍵を開けてっと……
「さて、お前ら。逃げたい奴はこっちに来い。契約魔法を解いてやるから。」
こいつらには絶対かかってるよな。一人一千万ナラー以上するそうだし。
あら? 誰も檻から出てこない……せっかく解錠したのに。
「お前ら逃げたくないの?」
誰も喋らない。別に死んだ目をしてるってわけでもなく、まあまあ身綺麗にしてるし。ならば……
『解呪』
面倒だから一箇所に集めてから使いたかったが、とりあえず一人にかけてみた。
「逃げたくないのか?」
「……どうせ……行くとこないし……」
あー、このパターンね。
「いくらでもあるだろ。奴隷として暮らすぐらいならテンモカで娼婦として誇りを持って働いた方がよくないか?」
松の位を目指すのもいいんじゃないか?
「……ふざけないで……テンモカなんて行けるわけ……」
「楽勝だな。この前もファベルのエチゴヤ倉庫からテンモカまで女達を連れていったばかりだぞ。どちらにしろ信じるも信じないも好きにしろ。助けて欲しい奴は助けてやる。そうでないなら好きにしろ。」
それでも契約魔法は解呪してやるけどね。
「テンモカに行きたい奴はギルドに行って受付でローランドの魔王に呼ばれたと言え。ファベルに来てくれた方が早いが無理だろうからな。」
よし。全員の解呪が済んだ。私ってサービスいいよな。さて次々いこう。
「ま、まって! ほ、ほんとうにテンモカに、つれてってくれるの!?」
「希望するならな。ちなみにほとんどの奴隷達はもう解放してる。後はここみたいに高値がつく奴らだけだ。」
おっと、そうだ。これを忘れちゃいかんな。
「これ、置いとくから好きに使え。」
短剣を人数分。さっきの奴らよりはまだここの女達の方が生きる意志が強そうなんだよな。
「この部屋か!」
「今日は朝からどうなってんだ?」
「ミゾリアさんもいねぇし、なっ!? てめぇらどうやって!」
「このガキぃ! 客じゃねぇな!」
『氷弾』
やはりここの鉄格子には何らかの警報があったようだな。だが、その割には呑気に現れるじゃないか。奴隷が逃げるなんて思ってもみなかったんだろ? それともエチゴヤは無敵だとでも思ってんのか?
「じゃあな。テンモカに連れてって欲しい奴はギルドに集まりな。冒険者に絡まれたら傷裂ドロガーに呼ばれたって言うのもいいぞ。」
さて、ここで最後だ。最初に見た部屋に来るのが一番最後とは。
ん? 部屋の中から感じる魔力は……
「邪魔するぞ。」
気にせず入るけどね。
「お客様、こちらはただいま貸切となっておりますので。後ほどゆっくりと品定めを『氷弾』っ……」
「悪いな。商談は終わりだ。死ね。」
『狙撃』
店員らしき二人は即死。客らしき三人は手足を撃ち抜いた程度だ。だが一人だけ無傷な奴がいる。
「お前、なかなかやるな。ここの店主か?」
「館長と呼んでくれよ。君いい服着てるねえ。くれないか?」
「お前には似合わないさ。それより素直に話してくれるんなら命は助けるぞ?」
「話せときたかい。ここの女が目当てってわけじゃなさそうだ。何が聞きたいんだい?」
「ま、待て館長……ワシらを治せ……」
客のデブオヤジが何か言ってやがる。こんな店を利用する時点でギルティだと思ったが、奴隷を買うこと自体は普通だからな。だからいきなり殺すのは勘弁してやったのだが。
「少々お待ちくださいね。君さぁ。その上着くれたら話してあげるよ?」
「やらねーって。このウエストコートはオシャレ上級者にしか着こなせないんだよ。ヒイズルの田舎モンには無理だな。いや、一つあった。お前にふさわしいウエストコートの着こなし方がな。」
両腕をぶち斬ってやるよ。
「ウエストコート……そうかい。君、ローランドの魔王かい。アガノさんを殺したそうじゃないか。やるもんだね。」
へー。ウエストコートって名前で私って分かるんだ。服装を見ただけじゃあ分からなかったくせに。アガノってオワダの第三番頭だったか。それを知ってるってことは、こいつはそこそこの幹部クラスってことだな。
「お前の名は?」
「だーからー。その服くれたら話すって。魔王ってケチなんだね?」
ケチじゃねーし。でもこのウエストコートはドラゴン革製だしアレクとお揃いなんだから誰にもやるわけないし。
「お前もう死ね。」
『狙撃』
「痛たたっ。やるねえ。じゃあ次はこっちの番だね」
ちっ、生意気な。反撃なんかさせるかよ。
『榴弾』
やったか!?




