625、ファベルの住人
「ガウガウ」
……カムイ……敵か?
「ガウガウ」
敵じゃないけど鬱陶しい?
「うふぁー、いつの間にか寝てたし。んもー、人間がたくさん来てるねー。どうする? 殺す?」
私の魔力探査にはほとんど引っかからない。あいつらの魔力が低すぎるからか。
「何人ぐらいいる?」
「さーあ? 百や二百は超えてるしー。うち眠いんだけどー?」
「まあ待てって。少し話してくる。焦ることはないさ。」
ファベルの住人が何の用だ? 面倒だが外に出てみよう。
うっわ、どいつもこいつも松明片手に何かぶつぶつ言ってやがる。これもしかして話が通じないパターンか?
『光源』
「こんな夜中に何の用だ?」
「死ねぇえぇえぇえぇ」
「死死死死ねぇねねぇ」
「死だんだ死ねんだん」
何やら言葉がキモい。そして動きは鈍い。やる気あんのか?
『水壁』
とりあえず建物を防御しておこう。
さて、どうしよう。
殺すか拘束するか、それとも逃げるか……
『クロミー。来てくれるかー?』
あまり意味はないかも知れないがエチゴヤにプレッシャーかけてやるとしよう。
「ニンちゃんなーに?」
「こいつら全員をさ、クロミの好きに動かすことってできる?」
「えー……勘弁してよぉ……もちろんできるけどぉー、めっちゃ大変じゃーん。超ダルいしぃー……」
できるんかい! できるんならやってもらおう。
「エチゴヤの拠点を襲わせたいんだよな。どう?」
「だっるぅ……いつ、どこを、どんな感じでやんのー?」
うっ、場所が分からん……でも何らかのプレッシャーはかけてやりたいな。
よし!
「クロミ、こんな風にできるか?」
「どんなー?」
ふふふ。これならシンプルにいけるんじゃないか? 効果があるかは怪しいけど、天王に嫌がらせぐらいはできるだろ。しかもエチゴヤのせいで。
「いいよー。それなら簡単だしー。こいつらって魔力がくそ低いから楽勝ぉー。」
くくく、こんな雑魚どもを使って私達をどうにかできるとでも思ったか? 甘いな。
「あっ、無理ー。ニンちゃんさー。こいつらもうすでに操られてるしー。とりあえず解呪してよー。うちがしてもいいけどぉ?」
「じゃあ頼むよ。魔力を節約したいもんでさ。」
だったら換装とか使うなって話だけどね。
「もぉー。ちょっとやってくるしー。」
クロミは私の水壁をするりと抜けてあっち側へと移動した。したかと思えば何やら魔法を使っている。これは……?
なんだそれ? まるで魔力の道が……あいつらを繋いでいく……
「だっる! はいニンちゃん、ここに解呪をかけてよ。」
しれーっと戻ってきたクロミに解呪を催促された。ここにって……クロミの手の平に? まあいいや。
『解呪』
「ひゅーう。やっぱニンちゃんの魔法って強烈だよねー。一発で解決しちゃったよー。じゃあ後はうちに任せてくれていいしー。」
マジかよ……
たった一度の『解呪』で……これだけもの人数を解き放ったってことか……
クロミは何をしたんだ?
「あー疲れた……終わったしー。」
「お疲れ。やっぱクロミは頼りになるな。さっきの魔法は何だったんだ?」
「魔法の効果を全員に繋いだだけだしー。これってめっちゃ面倒なんだよねー。あー疲れたー。どう、ニンちゃん? うちってすごくない?」
意味が分からん。魔法の効果を繋ぐ? なんだそれ?
「さすがだな。すごいよ。」
「えへへー。でっしょぉー。あー、あいつらはニンちゃんが言った通りに動くよー。」
「ありがとよ。じゃ、寝ようか。」
「寝るー。ニンちゃんうちの隣ねー。」
「ドロガーが焼き餅焼いても知らんぞ?」
「ヤキモチ……って何?」
「いや、何でもない。寝ようぜ。」
「もーニンちゃんのバカー。」
それにしてもアレクを起こさずに済んでよかったよ。せっかく寝てるんだから起きて欲しくはないもんな。でもそんなアレクの隣にダイブ! 毛布や布団がなくてもクロミの水壁内は暖かいねぇ。寝よ……
「もー……ニンちゃん意味分かんないし。天ちゃんって敵じゃなかったのー? なのに褒めるなんてわけ分かんなーい。」
それから数時間後、深夜にもかかわらず城門前にはファベルの住人が大挙していた。
「偉大なる天王ジュダ陛下万歳!」
「我らが宗主ジュダ・フルカワ陛下の御世ぉぉーー!」
「天都イカルガはジュダ陛下がおられる限り永遠にぃーー!」
「歴代最高の天王陛下ぁぁーー!」
「アモロ・フルカワ公超えてるぅーー!」
口々に今代の天王であるジュダ・フルカワへの賛美を口にしている。
深夜であるために城門は固く閉ざされ門兵も相手にすることはない。ことはないのだが……数百人が発するその声は天都内にまでしっかり響いており、付近の住人は眠れぬ夜を過ごすことになった。
そして彼らは力尽きて眠り込むまでそのような声を発し続けた。翌朝あいつらをどうやって片付けようかと頭を悩ませた赤兜もいたが、そもそも朝になれば交代なので別にいいかと考えるのをやめた。せいぜい手伝わされる前にさっさと帰ろうと決意していた。




